IFRS時代、ERP選択の新ルール【第2回】
IFRSに向けたERPパッケージの選定、その基本とは
IFRSに対応したERPパッケージの選定では、従来の選定項目のほかに、IFRS対応で特に求められるグローバル対応や標準化などを意識する必要がある。IFRS時代のERP選定についての詳細を説明する。
1.IFRS時代のERP選定で考えること
第1回ではIFRS時代に対応するためのERPパッケージの基本要件について説明したが、今後は国内だけではなく、海外子会社も含めたグローバル展開に対応できるERPを選定することが必要になってくる。適切なERPパッケージを選定するためには、従来通りに機能、コスト、導入実績などを比較するための前提条件を明確にすることが重要だ。第1回に続き、第2回ではIRFS対応を含めグローバル展開に向けたERP選定の考え方について解説する。
従来、ERPを選定する場合には、以下のような項目が優先順位付けをされて評価されてきた。
- 製品コンセプト、アーキテクチャ、機能、拡張性、製品ロードマップ、アップグレード対応
- コスト(ライセンス、導入、保守)、導入手法、導入体制、コンサルタントスキル
- ベンダーの体力、製品サポート、将来性、継続性
ERPを選定する場合、これらの評価項目が変わることはないが、IFRS時代、グローバル展開を視野に入れるとこれらの項目の優先順位、重み付けが変わってくる。
パッケージ評価というと機能要件への適合性に目が向きがちであるが、ERPをグループ共通の経営基盤として考えた場合、IFRS対応、各国の法的要件への対応だけでなく、グローバルでの導入体制、サポート、運用サービスなどが重要になることは明らかである。
また各国のローカル要件に対してERPの適合性を評価するためには、適用方針、範囲を明確にしなければならない。すべての要件をERPで対応するのか、適用範囲を共通化対象とローカル対応部分に分けて検討するかによっても選択肢は変わる。
このようにIFRS適用やグローバル展開を考えたときには、そもそもERPをどの範囲に適用するのか、どのような方針で海外を含めたグループ会社に展開していくのか、導入後のサポートはどう考えるかなど、システム化の方針・戦略を明確にしておくことがより重要になる。
避けなければいけないのは、グローバルで実績のあるERPだからという理由で、取りあえずそれを選んでおけばよいという考え方である。IFRS対応によるERP導入を経営基盤再構築のきっかけとしてとらえるのなら、まずはきちんとシステム化の目的、方針、戦略を定めた上でERPの選定に入るべきである。システムが1つのERPで構築されていることに意味はなく、業務プロセス、ルールが標準化された上で経営基盤として機能することが重要なのである。特に海外拠点では同じシステムを使いながら、まったく異なる業務プロセス、ルールで運用されているケースも見られるが、これではIFRS時代に対応することはできない。
2.ERP選定前に明確にすべきことは
具体的にIFRS対応、グローバル展開を想定したERPを選定するに当たり、前提条件として明確にする必要がある項目をグローバル展開戦略としてまとめたものを「Global Rollout Strategy」(以下、GRS)と呼ぶ。ERP選定を進める場合、最初に明確にすべき最も重要なものがこのGRSである。これは海外を含むグループ会社にERPを展開する場合の方針、ルールをまとめた戦略であり、グローバル展開プロジェクト遂行上のバイブルになる。
GRSが定まれば、次にこのGRSに基づいてグローバルスタンダードとしてのコード統一、業務プロセス、ルールの標準化を進める。ただしコード統一については多大な工数を要するため、適用範囲、進め方については十分な検討が必要である。ここで定めたコード体系、業務プロセス、ルールを実装できるかどうかはERPパッケージ選定時の重要な評価項目になる。当然EPRパッケージの制約により実現できないものも出てくるが、その場合は必要に応じてGRSの方針に基づき見直しを行う。
(1)GRSの主な検討ポイント
- 業務範囲と対象アプリケーションの特定
対象業務、アプリケーションを特定し、システムのスコープを決定する。特に共通化対象とローカル業務を切り分けることが重要である。共通化対象の業務はERP選定の業務要件として当然考慮する必要があるが、ローカル業務についても対応方法は検討しておく必要がある。特に各国のローカルパッケージを活用する場合にはERPとの連携時のためにコード体系、システム連携方法について方針を明確にしておくことが重要となる。
- インスタンス(集中か分散か)
サーバを日本で集中管理するのか、時差を考慮して北米、欧州にサーバを分散するのかなどを検討する。この場合にシステム的視点だけでなく業務的視点での検討が必要であり、この方針がERP選定に与える影響は小さくない。例えば、複数インスタンスで運用(サーバを分ける)することによりグループ会社間取引、MRP(資材所要量計画)の運用、在庫情報の共有、マスターデータ管理などを実現するための方法は変わる。また運用・保守の観点でサービス時間帯、データバックアップの方法などを考慮することが必要になり、導入後の保守体制の評価に影響する。
- 言語
プロジェクトのコミュニケーション言語や画面、帳票、リポートの言語対応の方針を定める。そのためには各拠点の言語スキルを確認する必要がある。ERPパッケージでは多言語対応は一般的ではあるが、画面だけでなく帳票、リポートの言語対応、辞書のメンテナンス性などは確認しておく方が無難である。
- プログラム開発
プログラムの開発標準、開発ツール、パッチの適用方針などを定める。特にアドオン(追加開発)の方針を明確にすることが重要である。開発の承認は本社集中型にするのか、あるいは各グループ会社、拠点に権限を与えるのか。また国、地域別の要件への対応方針と、その費用負担の考え方などを明確にする。ERPパッケージは導入後もビジネス環境の変化に対応して継続的に改善を実施する必要がある。本社集中型の開発体制が取れるのか、各拠点のローカル要件への対応をどうするかなどの方針を事前に明確にしておかないとERPパッケージの導入・開発体制、サポート力を評価することはできない。
(2)グローバルスタンダード策定の留意事項
ERP導入においてコード体系(けた数、採番ルールなど)がシステム上の制約になることは少なくない。またそのメンテナンス性も大変重要である。さらに新たにコード体系を見直すことができないケースも多く、コード変換などの対応も考えておく必要があり、ERP選定時には重要な要素となる。
- コード体系
各種コードのけた数や採番ルールについては、使用方法、使用するシステムの制約があるが、新たにグローバル標準プロセスを定義する上で、管理会計上の分析軸も考慮しながら、勘定科目、組織、取引先(仕入先マスター・得意先マスター)、品目コードなどの経営管理上、重要なコード統一化の方針を策定する。また勘定コードなど国別要件対応のため個別に定義する必要があるコードについては、どのような条件の場合に個別に定義してよいか、またどのようなコード体系で登録するかなどを併せて定義する。
- マスターデータ
標準化対象のマスターデータについて、定義すべき対象(組織なら会社・販売組織・プラント・管理領域、品目なら部材・製品・商品・非在庫品など)、またそれぞれどのようなコード体系にするかなどの基本方針を策定する。複数の拠点(会社)をまたがって同じコードを使う必要があるマスター(品目・得意先・仕入先など)の取り扱いについてどのように登録し、管理するかの基本方針を決定する。これは特にグローバルでシステムを運用する場合には重要なポイントになる。
以上、ERP選定前に明確にすべきこととしてGRS、グローバルスタンダードの2点を紹介した。ERP選定の前提条件が明確になれば、後は従来通り各評価項目別に各社のERPを比較することになる。ERPパッケージ選定後はグローバルテンプレートとして自社グループの共通システム基盤となるテンプレートを構築し、グループ各社に展開するというアプローチを採る。
従来、業種別のテンプレートはパッケージベンダーなどから提供されているが、特に前提条件として定めたGRS、グローバルスタンダードに準拠したテンプレートを構築することでIFRS対応、グローバル展開を意識したロールアウトを遂行することが可能となる。
まとめ
IFRS時代においてERPパッケージを選定するためには、その前提条件を明確にすることが重要であることを述べた。パッケージ選定における評価項目は従来と変わることはないが、ERPをグローバル経営の基盤として活用することを前提とした場合には、共通化対象とローカル要件への対応といった適用方針・範囲やシステム導入後の運用方法を事前に明確にすることで適切なERPパッケージを選定できると考える。
【コラム】国産パッケージか海外パッケージか?
実際にERPパッケージを選定する場合、国産のパッケージか海外パッケージを選定することになるがそれぞれメリット、デメリットがある。
国産パッケージの場合、日本の商習慣への対応やシステム導入時の体制、導入後の保守サービスなどの点でメリットはあるが、会計基準を中心とした各国固有要件への対応や、海外拠点での導入体制、保守サービスには不安が残る。一方、海外パッケージの場合はグローバルでの導入実績に対する安心感はあるが、企業買収を繰り返したり、トップ交代による事業方針の転換が頻繁に起こるなどビジネスの継続性には一抹の不安がある。
国産パッケージか、海外パッケージのどちらが良いかは一概には言えず、中長期的に経営基盤とし活用できることを前提とした上で、GRSで定めた戦略に従って選定をすべきであると考える。
ただし、1点だけ注意しなければならないことがある。それは海外拠点にシステムを導入する場合に、その国のローカルパッケージを安易に選定しないことである。ローカルパッケージは安価であり、その国の会計制度へ対応していることや、現地ベンダーにシステム導入を任せられることから採用されるケースが多い。拠点立ち上げの準備に忙しいことや、担当者が現地事情に詳しくないことなどが理由であると推察されるが、後になって問題が生じる場合がある。
それはシステムのブラックボックス化だけではなく、業務そのものがブラックボックス化してしまうことである。システムの運用が現地担当者任せで、実際の業務プロセスを管理者が把握しておらず、結果報告だけを受けているケースがよく見られる。海外では担当者の転職リスクも高く、このような状況下では今後のIFRS時代には対応できない。必ずしも全拠点のシステムを統一する必要はないが、GRSに従い、管理対象とする業務プロセス、ルール、データを明確にし、適切にシステムが運用されるようにしていかなければならない。
筆者紹介
高田直澄(たかだなおずみ)
株式会社電通国際情報サービス ビジネスソリューション事業部
1991年住友金属工業入社。鹿島製鉄所において圧延制御、自動搬送制御システム、MESの開発を担当。住友金属システムソリューションズに出向後、生産スケジューラ「Asprova」、自社製生産管理パッケージの導入コンサルティング、プロジェクトマネジャーを担当。2001年、電通国際情報サービス入社後、海外ロールアウトなどのSAP導入プロジェクトを担当。2010年、ビジネスソリューション事業部ビジネスコンサルティング部において、ERPを中心としたロジスティクス系のコンサルティングを統括。
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