識者が語る「ERP製品選択の目」:IDC Japan 赤城知子氏
ERP神話を超えて――変化する企業のIT投資
国内のERP市場が低迷している。2009年のERP市場は前年と比べて11.4%のマイナスだった。背景には景気減退があるが「ERP神話」の陰りも大きい。IDC Japanの赤城知子氏に聞いた。
「決定力のあるソリューションがない」。調査会社、IDC Japanのソフトウェア&セキュリティ グループマネージャー 赤城知子氏は国内のERPパッケージ市場をこうみる。企業のIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)対応で一定の需要拡大は期待できるが、低迷する国内ERP市場を再び成長させるには弱い。赤城氏は「IFRS適用を機に経営とITをどう結び付けるかを検討することが、ERPベンダーにとって重要だ」と話す。
2000年以来で初のマイナス成長
IDC Japanの調査によると国内のERP市場(生産系ERPを除く)の規模(ソフトウェアライセンス売り上げと保守の売り上げ)は1490億円で、前年と比べて11.4%減と大きく落ち込んだ。マイナス成長は2000年以来で初めて。ERP市場はこれまでの成長から一転、大きな転換点に来ている。「ERPプロジェクト全体が足踏みをしている」と赤城氏は話す。
本来であれば、2009年から2010年はERPのリプレースやアップグレードが相次ぐはずだった。2000年問題対応を前に導入したERPが更改時期を迎えているからだ。「10年選手のERPを使っている企業は多い」(赤城氏)。その更改が行われていないのは2008年以降の景気減退が1つの理由だ。
経営分析能力を強化したERPやシステムの柔軟性を高めるミドルウェア、ハードウェアを効率的に利用し、変化対応力を高める仮想化技術など、ERPを取り巻くIT環境はこの10年で大きく変化した。また、製造業を中心に国内企業の海外進出は今や一般的となり、その波は中堅企業から中小企業まで及んでいる。海外拠点を含めて財務や生産の情報を一元管理、最適化し、将来を予測するのはERPが得意とする機能だ。しかし、多くの日本企業ではそのERPが海外拠点と国内、もしくはグループ会社や部門で分断され、ERPのメリットや機能を生かし切れていない。
「韓国のサムソンではERPをグローバルのシングルインスタンスで構築していて、決算を締めた5日後に開示できる。一方、多くの日本企業では開示まで45日かかる」(赤城氏)。ERP活用は企業の経営力に直結するが、「日本の製造業にはITは業務の効率化を生み出すものではあっても、良いものを作るものではないという信念がある」(赤城氏)。業務プロセスの標準化や短期導入、変化対応力などERPの良さがコストパフォーマンスを含めて評価されていないともいえる。
「ソフトウェア投資はもう1週遅れる」
IFRSは日本企業のERPが刷新される機会となるだろうか。国内ERP市場の2009年の落ち込みは景気減速に加えて、IFRSが原因との見方もある。日本のIFRS適用へのロードマップが示されたのが2009年6月。IFRSを強制適用するかどうかの判断を2012年に行い、強制適用する場合は2015年か2016年だ。そしてIFRSの基準自体も変化している。この状況を見て、企業のERP刷新の動きが止まった。手戻りがないように、IFRSについての情報が固まったタイミングでERP刷新を考えよう――2009年の11.4%減という大きな落ち込みからは企業の慎重な姿勢が伝わってくる。
IFRS適用を目指す企業は今、IFRS適用に向けてのギャップ分析や、それに続くプロジェクトチームの立ち上げに忙しい。赤城氏は「ソフトウェアへの投資はもう1週遅れてからくる」とみている。多くの企業でIFRS適用に向けたERPの改修を検討し始めるのは2011年以降になるだろう。ただ、一部のグローバル企業では既にERP刷新を含めたIFRS適用計画を練っている。そのような企業が考えているのは「IFRS対応というよりは経営管理基盤の強化」(赤城氏)だ。このような企業はERP導入が目的ではなく、経営管理の高度化が目的。ニーズに応えるソリューションには企業もIT投資をしている。
スクラッチ開発への自信
赤城氏が示した企業のIFRS対応とERP選択についての資料が興味深い。IFRS対応する152社の財務・経理担当者に対する調査で、どのような財務会計システムでIFRSに対応するかを聞いている。現在、財務会計システムをERP構築している企業では40%が現行のERPを使ってIFRS対応すると答えている。対して、専業の会計パッケージで財務会計システムを構築している企業では、そのままのシステムでIFRS対応するのは22.9%。50%は「未定/不明」で、現行の財務会計システムのIFRS対応に不安を持っていることが分かる。
だが、スクラッチ開発で財務会計システムを構築している企業はIFRS対応に自信があるようだ。45.5%の企業は引き続き、スクラッチ開発でIFRS対応をすると答えている。スクラッチ開発からERPへの以降を検討する企業はわずか6.1%。これまで何度かあったERPブームでもパッケージへの誘惑に負けなかった企業だけに、スクラッチ開発への自信を感じる。自社の業務プロセスに最適化できるというスクラッチ開発の良さは、やはり一定の支持を集めている。
ERP神話を超えてメリハリある投資を
ERPを導入すれば企業を取り巻く問題がすべて解決するというERP神話は既にない。IFRS対応なのか、経営管理基盤の強化なのか、グローバル展開なのかと、ERP導入・改修の目的を明確にしてメリハリを付けて投資をしないと、経営への効果を発揮させることは難しいだろう。メリハリのある投資には「トップダウンの決断しかない」。赤城氏は企業の意思決定を促す。
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