識者が語る「ERP製品選択の目」:ガートナー ジャパン 本好宏次氏
外資か国産か、IFRSを見据えたERP選びの鍵は「自社のIT戦略」
70製品以上がひしめき合う国内ERP市場。IT担当者は主要ベンダーの動向を追うだけでも大変だ。IFRS適用を見据えたIT担当者が知るべき主要ERP製品の動向と、選び方のポイントを識者に聞く。
ビジョンは評価、実行性に注目
最初の識者はガートナー ジャパンのアナリスト 本好宏次氏だ。本好氏は、5月中旬にドイツのフランクフルトと米国のオーランドで同時に行われたSAPの年次イベント「SAPPHIRE NOW」に参加した。SAPはこのSAPPHIRE NOWで「オンデバイス」「オンデマンド」「オンプレミス」という3つのキーワードを掲げて、特にERPのオンデマンド化を強調したという。本好氏は「このビジョンは分かりやすい」と評価。一方で、「実行性には注目する必要がある」と話す。
SAPはオンデマンド型のERPである「SAP Business ByDesign」を2007年から展開しているが、利用が広がっているとはいえない状況だ。そもそもERPのオンデマンドでの利用自体が市場としてはまだ小さい。2010年のSAPPHIRE NOWではこのBusiness ByDesignを本格展開することが強調され、2010年7月には新バージョンをドイツ、米国、フランス、中国、インド、英国の6カ国で出すとの発表があった。本好氏は「オンデマンド型のERPを販売することができる営業担当やパートナーをどうするのか。Business ByDesignは成功体験がないのが気になる」と語る。
IFRS対応についてSAPジャパンは、それを単なる制度対応として考えるのではなく、経営管理の高度化の視点で考えるべきとのメッセージを繰り返し出している。ソリューションとしては連結製品「SAP BusinessObjects Financial Consolidation」とIFRS向けスターターキット(IFRSベースの総勘定元帳/連結相殺処理やチェックロジック、財務諸表一式など)を中心に据えている(参考記事:SAPジャパン「IFRSは経営の問題だ」)。本好氏は「このメッセージは今後も変わらないだろう」と語る。基本は個社向けのSAP ERPではIFRS対応に踏み込まずに、連結やテンプレートなどの周辺製品でIFRSに柔軟に対応するという方針だ。ただ、「ユーザーが本丸(SAP ERP)を含めて変えていこうという気概があれば、対応を変えるだろう」と本好氏はみている。企業の動向によってはIFRS対応についてのSAPジャパンの方針が変わる可能性もあるだろう。
現実的な国産ベンダーのIFRS対応
一方で、大企業向けERPベンダーとしてSAPジャパンを追撃する日本オラクルのIFRS対応は「金銀銅のメッセージが非常に強く出ている」(本好氏、参考記事:オラクル「IFRS対応は金銀銅メダルで考えよう」)。オラクルはシェアードサービスやグローバルシングルインスタンスについてもメッセージを打ち出していて、理想のIT環境、経営環境を提案しているのが目立つ。日本オラクルは早くから「IFRSパートナーコンソーシアム」を組織するなどパートナーと連携したIFRS対応ソリューションを訴えてきた。金銀銅で実現するグループ経営管理基盤に企業が賛同できるかどうかがポイントになるだろう。
2010年に入ってIFRSへの対応を本格化させている国産のERPベンダーは「リアクティブな対応」(本好氏)が中心だ。理想のIT環境、経営環境を提案し、その実現のためにIFRS対応を含めたソリューションを提供する外資ベンダーと異なり、国産のERPベンダーは「会計基準の改定が決まれば、それに対して機能を加えるというフォロワー戦略」(本好氏)だ。外資ベンダーと比較すると地味に映るが、本好氏は「ユーザーニーズに応じた戦略であり、現実的。外資と国産のどちらのアプローチが良いというものではない」と話す。つまりは企業が自社の中でITをどう位置付け、どう活用するかという戦略に負うところが大きいのだ。
個別最適か、全体最適か
ただ、外資のERPと国産のERPを比べた場合、業務改革(BPR)を実現できる度合いに違いがあることを本好氏は懸念している。ガートナーの調査によると、ERP導入後にBPRができたと感じている企業の割合は、外資に比べて国産のERPでは少ないという。つまり、国産ベンダーの顧客では現状の業務プロセスを維持したままでERPを導入することが多く、非効率な業務プロセスが残っていても、そのままERPでシステム化されてしまうのだ。「既存のメインフレームやオフコンシステムの業務プロセスをERPで再現するケースもある」(本好氏)。その場合、ERPが持つ標準的な業務プロセスをカスタマイズなどによって修正し、対応させることになる。開発コストが増大し、バージョンアップ時のリスクも高まる。
このような業務改革を伴わないERPの導入では、特定の業務プロセスについてはカスタマイズで最適化できても、業務全体を見ると最適化されないことになりかねない。一方、外資ベンダーは現場の意向を取り込まずに理想のIT環境を提案する。企業全体の最適化はできても、個別の業務を見るとERPの押し付けで生産性が落ちるかもしれない。本好氏はERPのIFRS対応でも「同様の結果になる可能性が高い」と考えている。
CFO(最高財務責任者)の視点では企業全体の最適化を目指す上での一里塚としてIFRS対応があるだろう。一方、現場のIT部門や財務・経理部門ではIFRSの個別の会計基準に対応することに集中し、全体最適の視点は薄れがち。国産ベンダーのERPは制度対応に強みを持つ製品が多いが、現状の業務プロセスを維持するために、全体最適にはつながらないケースが多い。
どちらのケースを企業は選ぶべきか。その答えは企業によって異なる。本好氏は「企業はIT戦略についての自社の指向性と、パートナーやベンダーのビジョンから判断すべきだ。今やるべきなのは、この判断」とユーザー企業にアドバイスする。
IFRS対応はSaaSと相性がいい
ERPを取り巻くトレンドで最近目立つのは、ERPのSaaS(Software as a Service)化だ。「IFRS対応はSaaSと相性がいい」。本好氏はこうみている。実際、外資のSAP以外にも、国産のベンダーでもERPのSaaS利用を提供メニューに追加するケースが増えてきた。ITサービス企業がSAPをホスティングして提供するなどの取り組みも始まった。IFRSの会計処理では1年に数回しか必要でない処理がある。また、本社はIFRSに対応させるにしても、グループ会社の対応をどうするのかという問題が残る。これらの問題を解決する手段として、ITを資産として保有せず、グループ会社にも展開が容易なSaaSが注目されているのだ。「IFRS対応で明確にいえるのは、グループ子会社のガバナンスの強化でERPを1つにしたい場合、SaaSは有効ということだ」(本好氏)
ただ、現状、ERPのSaaS利用については提供するベンダーによって、プライベートクラウドやパブリッククラウドなどのプラットフォーム、マルチテナントとシングルテナントなどアーキテクチャの違いがあり、企業からはその差が見えにくい。技術開発も速いペースで進んでいて、企業がサービスを選択する上でまだ成熟が進んでいないといえるだろう。そのため、企業は利用するSaaSの本質を理解していないと、期待するようなメリットを得られないかもしれない。本好氏は「注意が必要だろう」と話した。
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