CIOの知恵袋:SAP ERP導入編
SAP ERP導入プロジェクトに向く人、向かない人
ITシステム導入の中でもERPシステムの導入はその影響範囲の広さや、かかわる人の多さから難易度が高いとされる。ポイントになるのは適切なプロジェクト体制とメンバーの資質だ。
SAP ERP導入は単なるシステム導入ではなく、業務改革や企業のオペレーティングモデル変革を伴うような高度な取り組みである。加えて、昨今のSAP ERP導入プロジェクトは、新ソリューションや周辺ツールの乱立、多極化する現状を鑑みたグローバル展開など、さまざまな要因により一昔前に比べると難易度が格段に上がっている。こうした難しい取り組みを遅滞なく進めていくためには、SAP ERP導入の特徴や自社の力量を率直に把握し、不足要素は適切に補完し、実行可能な体制で臨む必要がある。
体制作りの考慮点
各業務領域のエース投入
SAP ERPは業務とシステム機能が密に統合された仕組みであり、IT要員のみでは“使える仕組み”を構築することは難しい。さらにシステムの出来によっては将来の業務の在り方を左右することにもなるため、その分野の業務を熟知したエース級の投入が成功の鍵となる。また、ERP導入のプロジェクトはルーティン業務とはワークスタイルが異なってくるため、プロジェクト向きの人材が求められる。
プロジェクト内でのガバナンスの確立
SAP導入プロジェクトチームは特命組織である。またERPは製造・販売・在庫・会計など業務領域が密接に統合されており、1つ業務を決めるにも通常の職層、所属を越えた動きが求められる。そのため、プロジェクトメンバーが機動的に動け、適切に統制が効くように指揮系統や評価体系を整備しておくことが必要だ。
よくある例として、プロジェクトメンバーの報告先・評価者がプロジェクト外の所属長というケースが挙げられる。報告先・評価者がプロジェクトに関わっていないため、「プロジェクトでの働きが評価に反映されない」「プロジェクトリーダーからの指示通りにメンバーが動けない」のようにプロジェクト運営のボトルネックになることが多い。
IT部門の役割
プロジェクト体制に籍を置くものの、主体的にIT要員が関与していない状況もよくみられる。IT部門の立場としてシステムの詳細を把握し、稼働後の運用までも視野に入れ、プロジェクトに主体的に参画する必要がある。その点で、プロジェクト初期段階に、SAP社のトレーニングなどを通じて、SAPの機能、データ、システム構造、カスタマイズ、アドオンなどに対する一定の知識を習得しておくことが望ましい。
プロジェクト向きの人材とは?
プロジェクトは、非定型作業の集積である他、自社に知識の蓄積がないSAP ERPを相手に自社業務のあるべき姿を考えていくという高度な知的作業となる。これまでのプロジェクト経験を踏まえ、プロジェクト要員に求められる資質を特に挙げるとすると以下になる。
- 主体性、決断力、コミットメント(評論家肌で自ら汗をかかない人はプロジェクトに寄与しない)
- 客観性(いかに過去の成功体験や思い込みを排除し、冷静にモノを見て、判断できるか)
- スピード感(“70~80点取れたら先に進む”感覚)
- 想像力(知っている知識のみで全てを決めることは不可能。想像力を最大限に働かせて適切な解を出すセンスが必要)
外部リソース活用によるスキル補完
導入事例・ノウハウの活用
SAP ERPは世界トップシェアのERPパッケージであり、同じシステムを全世界の無数の企業が活用している。SAP導入を円滑に進める上では、システムインテグレーター(SIer)が持つ、海外も含めた事例やノウハウの活用は非常に有効である。
導入アプローチ・方法論
導入企業が自前で模索するよりも、SAP ERPの特性や過去のノウハウを踏まえた体系的な方法論に沿って、プロジェクトを推進するのが合理的である。自社のコアコンピタンスでない部分は、SIerの協力を仰いで推進する方が圧倒的に近道といえる。
ドキュメント作成能力
意外と軽視されがちであるが、特に構想フェーズや要件定義フェーズは、以下のようにその後の構築・運用の基点となるものであり、しっかりと文書化しておくことが重要である。こうした文書を体系的にまとめ上げる能力はコンサルティングファームが得意とする。
ドキュメント作成に求められる要素
- SAP ERP導入の意義、プロジェクトのコンセプト
- 業務要件、その必要性、検討経緯など(後に参画する要員への知識の受け渡し、ナレッジトランスファーとして)
- ユーザー教育における業務手順書へのインプット
- システム監査、内部統制への対応
- 電子帳簿保存等、法的要素への対応
- 運用保守へのスムーズな移管方法
人材育成の契機としてのSAPプロジェクト
筆者自身これまで難度の高いプロジェクトに幾つも携わってきたが、企業側メンバーが、コンサルタントと一緒になって議論を交わしながら主体的に動いてきたプロジェクトほど、その後の調査で「仕事の仕方や意識が変わった」「プロジェクトを通じて若手社員が大きく成長した」と、プロジェクト参画に対する満足度が高いことが分かった。SAP導入を単に基幹システム構築にとどまらず、その後のさらなるビジネス成長に向けた人材育成の契機と捉えれば、SAP導入への取り組み姿勢も変わってくる。
田中 肇
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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