OS更新をIT部門が制御できない?
私物iPhone/Androidの普及が企業にもたらす課題
キャリア/ベンダー主導のOSアップデート、何種類ものプラットフォームの管理――。私物端末の業務利用「BYOD」を進める企業には、幾つもの課題が降りかかる。
個人所有のスマートフォンやタブレットを職場に持ち込む従業員が増えるとともに、「企業はセキュリティや管理機能などの面から、米AppleのiOSと米GoogleのAndroidの違いについて考えるようになった」と米IBMの役員たちは話す。同社は2012年1月、私物のモバイル端末を職場に持ち込む「BYOD」の問題を解決するためにイスラエルのWorklightを買収すると発表した。
BYODは企業規模を問わず、今やあらゆる職場において一般的な風景になりつつある。Worklightが開発したツールも、既に米AT&Tや米Best Westernなど、多くの大企業で利用が進んでいる。
そうした中、同社のアプリケーションおよびデータセキュリティ担当ディレクターであるカレブ・バーロー氏はIBMのポッドキャストで以下のような疑問を投げ掛けた。急速に普及するスマートフォンやiPad、その他のモバイル端末は、コンシューマとエンタープライズの側面から「異なるレンズ」を通して見るべきなのだろうか。
「エンタープライズの側面からみた場合の問題は、携帯電話を所有する人々がそれを仕事だけでなく、個人的な用途にも使う点だ」と指摘するのは、同社でミドルウェア製品群「IBM WebSphere」やモバイル分野を担当する副社長、ロバート・スーター氏だ。
コンシューマアプリストアの影響を受ける従業員
同氏によると、従業員は消費者として、アプリストアからダウンロード可能な娯楽ソフトの影響を受ける。IBMはそうした「消費者の期待」にもリソースを投じているという。
iOSやAndroid、その他のモバイルOSのいずれにしても、人々は会社支給の端末より自分のスマートフォンやタブレットを使いたがる。理由は、その「環境」に馴染んでいるからだ。BYODを実践する多くの従業員が私物端末に自分で料金を支払っているのは、そこに新しい何かがあるからである。
さらに同氏は、「従業員は2、3年に1回のハードウェアリプレースに慣れてしまっている。そのペースでは、スマートフォンやタブレットの新しい奔流に全く追い付けない」と指摘する。
IBM社内では、LANに接続している私物スマートフォンやタブレット、ノートPCは10万台に上るという。「その他にも30万人の従業員が待ち構えている」(スーター氏)
Appleは「保守的」、Androidは「フラグメント化」
多くの従業員が個人所有のモバイル端末を使うようになると、会社が従業員にコーポレートアプリケーションを供給する際に問題が生じる。企業のIT管理者はこれまで、OSのアップデートや新しいアプリケーションをLAN経由で提供してきた。ところが、「iPhoneやiPadが登場すると、ユーザーはiOSを自分でアップデートするようになった。そして、全てがAppleによってコントロールされている」と指摘するのは、IBM Tivoli部門の上級製品マネジャー、ナビード・マッカニー氏だ。
一方のAndroidの場合、GoogleがOSをアップデートしても、キャリアやメーカーが対応するまでユーザーはアップデートされたOSを利用することができない。「メーカーはその間、アップデートされたOSに対応するための修正を行う」と同氏は説明する。
スーター氏はAndroid端末の「フラグメンテーション」を指摘し、一方のAppleはより「保守的」であるとする。Appleは基本的に、アプリ開発者に対して「Apple SDK(ソフトウェア開発キット)で可能なことは何をしても許すが、それ以上のことは許さない」という姿勢だと同氏は語る。
「他のメーカーはどうか?」と、スーター氏は続ける。BlackBerryはまだ市場に存在し、Windows Phoneもあると同氏は指摘する。
こうした多様なモバイルプラットフォームの存在が、IBMによるWorklight買収の背景にあるという。イスラエルのソフトウェア会社が作成したこのアプリケーション開発ツールを利用すれば、コーポレートプログラマーはJavaやObjective-Cなどのさまざまな言語を使い、複数のモバイルOS向けにアプリケーションを開発できるようになる。
Worklightが現在サポートしているモバイルOSは、Android 4.0(コードネーム:Ice cream Sandwich)やiOS 5.0、Windows Phone 7.5(コードネーム:Mango)などである。
スーター氏によると、同ツールはWebSphereやIBMのクロスプラットフォーム開発環境「Eclipse」、プログラミングツール群「Rational」と「非常に高度な互換性がある」という。
雇用者にとって、機会と脅威は表裏一体
雇用者側にとって、BYODは位置認識アプリケーションや常時利用可能なソーシャルネットワーキング、ビジネストランザクションなど、新たなビジネスチャンスをもたらす。
しかし、さまざまなタイプの端末を保護したり管理することは大きな困難にもなる。「セキュリティはモバイルを考慮して設計されていない」とスーター氏は指摘する。だが、認証やID管理などのセキュリティメカニズムの必要性は「決してなくならない」(スーター氏)。それどころか、新しいセキュリティ脅威も現実のものとなりつつある。それは「端末を紛失することだ」(同)。
IBM Security Solutionsの製品マネジャーであるビジェイ・ディープ氏は、Worklightのツールに「非常に興味深いセキュリティ機能が幾つかある」と話す。その1つは、モバイル端末に移される企業データを暗号化し、会社の許可がなければアクセスできないようにする「暗号化ローカルキャッシュ」だ。暗号化されたキャッシュはオフラインアクセスを許可するためのユーザー証明も保管できるため、従業員はLANに接続せずに機密情報を安全に利用することができるという。
さらにディープ氏によると、同ツールは企業サーバを利用して、スマートフォンやタブレットで実行されるアプリが実際に「正しく実行されている」ことを確認できるマルウェア対策機能も提供する。
またIBMはWorklight買収と関連して、「Endpoint Manager for Mobile Devices」という新しいソフトウェア製品も発表した。現在β段階にあるこの製品は、新しいリリースでセキュリティポリシーとIT管理の対象プラットフォームを拡張。旧バージョンでサポートしていたWindowsマシンやサーバ、携帯電話に加え、iOSやAndroid、Symbian端末に対応した。また、新しいEndpoint Managerを利用することで、モバイル端末の盗難・紛失時にデータを削除することができる他、パスコードや暗号化、VPNなどのポリシーをスマートフォン/タブレットに適用することが可能になる。
個人情報だけを残す選択的消去機能
加えて、IBMのバーロー氏は、アプリ管理面でAndroidとiOSでは「できることに大きな違いがある」と指摘する。
Appleの管理DPIセットは「比較的多くのエンタープライズ機能を提供する」とマッカニー氏は語る。対照的に、Androidは「制限的だが、エージェントを許容する」(同)。
例えば、AppleのiOSは「セレクティブワイプ(選択的消去)」という機能を備える。従業員が退職する際などに、その従業員の個人的な連絡先などを除いてデータを消去できる。
マッカニー氏は、「将来のリリースにおいて、AndroidとiOSのセキュリティや管理機能は似通ったものになるだろう」と予測する。
また、スーター氏はポッドキャストの中で、「今後、多くの企業がLANにおいて“古い端末”の利用を許さなくなるだろう」と述べている。
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