【連載コラム】医療ITの現場から
補助金を活用する“医療ICT化”後に待ち受ける壁
医療分野では、政府や自治体などの補助金制度によるシステムの導入支援が行われてきた。システム化を後押ししてくれる一方で、制度終了後に直面する問題が医療機関を苦しめることもある。
「医療IT」に代わって、「医療ICT(Information and Communication Technology)」という言葉が使われるようになってきました。その理由として、従来のIT(Information Technology)という言葉の範囲では言い表せないシステムが増えていることが考えられます。
医療のIT化といえば、これまでは電子カルテやレセプトコンピュータ(レセコン)などの基幹システム、PACS(医用画像管理システム)や検査システムなどの部門システムに代表されるような「医療情報のデジタル化や業務の効率化」が、その導入の目的でした。
一方、最近増加傾向にある在宅医療システムや地域連携システムなどは「複数の医療機関における情報の共有化」を目的にしているため、医療のICT化という表現が適切だと考えられます。医療ICTの普及は、安倍政権が掲げる成長戦略の中にも盛り込まれており、多くの期待が集まっています。
「在宅医療」と「地域連携」に多くの企業が熱視線
在宅医療・地域連携の分野は国を挙げての普及が進められており、補助金や助成金などが予算化されています。このように予算が多く出ている分野には、当然それを支援する多くの企業が参入し、多くのシステムやサービスが提供されるようになります。また、これらのシステムの業界地図は確立されておらず、今後の成長分野ということもあって多くの企業が参入しています。
一方で、在宅医療・地域連携分野でさまざまなシステムが乱立する中、システムを導入する上での難しさが徐々に浮き彫りになってきました。
例えば、診療所が電子カルテを導入するのであれば、その意思決定は経営者である院長が行います。また、システムの利用者も院長をはじめとしたスタッフです。これが病院になると、院長だけでなく理事会の承認や各部門の代表者などとのすり合わせが必要になるなど、一気にステークホルダーが拡大し、迅速な意思決定が難しくなります。ただ、あくまで法人グループ内での意思決定であるため、院長が強いリーダーシップを発揮したり、もしくは導入チームの意思統一が図られていたりすればスムーズに導入することが可能です。
システム導入の個人、法人、そして地域における意思決定
在宅医療・地域連携分野のシステムには、複数の医療機関などのグループ団体をまたいだステークホルダーが多く存在します。そのため、ステークホルダー間の調整などが必要となりシステム導入が難しくなりがちです。また、意思決定に関しても、地域の関係団体で構成される推進委員会の承認を必要とする場合もあり、意思決定に要する時間が大幅に長くなることもあります。
補助金事業は申請期限との戦い
国や地方自治体からの補助金は、イニシャルコスト(初期導入費)の負担を抑えることができ、地域におけるシステム化の推進には必要不可欠な仕組みです。しかし、補助金を利用して在宅医療や地域連携のシステム投資を行う場合でも、幾つかの課題があります。通常、補助金事業は単年または2年という短い期間で終了することが多く、長期にわたり補助金を享受できるケースはあまり聞いたことがありません(補助金を毎年申請する方法もありますが)。しかも、補助金の申請は多くの書類を作成する必要があり、その申請内容も煩雑です。こうした申請の援助を専門とするコンサルタントも存在するほどです。
また、システム選定においては入札方式が一般的であり、入札に至るまでには「要求仕様書の作成」「製品情報の収集」「製品の比較」「デモンストレーション」を経て、やっと「提案(プロポーザル)」にこぎつけることになります。こうした導入プロセスにも大いに時間が取られてしまいます。
加えて、事業設計やシステム選定などに多くの準備期間が必要となり、既に準備が始まっている事業が補助金を申請することも少なくありません。「補助金が発表されてから準備を始めては間に合わない」というのが現状なのです。多くの補助金事業が申請期限と戦いながら導入を進めるため、慌ただしい進行になることは否めません。準備不十分な状態のままで事業を進めるケースも出ています。
多くの医療機関が活用でき、しかも継続できる仕組みに
さらに、地域連携システムを構築した場合でも、地域の医療機関の参加がなければ推進グループの想定していた成果が得られないまま終わってしまうことがあります。
実は、この「多くの医療機関に参加してもらう」ことは、政治的な要素が多分にあり非常に難しいともいわれています。「医療機関にとって役立つシステムを構築すればよい」という考えだけでは普及が難しく、システムに関する十分な事前告知を行ったり、推進の鍵を握るキーパーソンに旗振り役を依頼したりすることも重要です。
補助金事業の終了と同時に直面する壁もあります。それは、システムの事業継続性の問題です。あらかじめ運用費用をまかなう仕組みの構築ができなければ、その継続は難しく、途中で頓挫してしまうこともあります。そうなれば、ここまでの努力が水泡に帰してしまい報われないことになります。
システムの運用継続には保守サポート費だけではなく、OSやシステムのバージョンアップ、ハードウェアのリプレース費用などが掛かります。「これらの費用を捻出するための資金調達をどうすればいいのか」について、事業計画の段階で事前に検討しておくことが重要です。
メディプラザでは2013年7月から「在宅医療」「地域連携」の特集展示を始めました。また、7月17日(水)~19日(金)に東京ビッグサイトで開催される「国際モダンホスピタルショウ」でも同テーマに関する展示およびセミナーを予定しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
【連載コラム】医療ITの現場から
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[サイボウズ株式会社] DXに必要な「Dスキル」「Xスキル」を持った人材を育成するには? -
市場調査・トレンド
[サイボウズ株式会社] データで見る、DXが「順調に進む企業」と「つまずく企業」の違い -
製品資料
[サイボウズ株式会社] 賛否が割れがちな「Notesからの移行」 新環境への移行を納得してもらうには? -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] 農林中金に学ぶ内製開発 処理効率を約2倍に高めAI活用も加速させた方法とは? -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] NTTグループのデジタル変革術、17万人が利用する決裁プロセス刷新の全貌
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
2
【基本情報技術者試験】「デュプレックスシステム」と「デュアルシステム」の違いは?
-
3
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
4
なぜOpenAIやAnthropicのAIは「脱走」したのか 情シスが迫られるエージェント統制
-
5
GitHubが指摘 AIが書いた「おそらく動くコード」が招くシステム崩壊
-
6
「高すぎるGPU」を捨てAI推論をCPUへ Armが示す電力とコストの現実解
-
7
Anthropicが明かす AIは入力データを「どこまで覚えているのか」
-
8
【漫画付き】"RAG導入失敗3例"と処方箋 「入れても使われない」を終わらせる
-
9
「にゃんこ大戦争」がAWSを脱出した理由 無停止移行に潜む“わな”
-
10
なぜ10億円払って“高額な塩漬け”を作るのか? SAPクラウド移行の闇
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
生成AIのハルシネーションを防止 回答精度を高めるセマンティックレイヤーとは
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
-
9
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
10
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー