初めてでも分かる「IHE」講座【第2回】
検体検査におけるシステム間連携のガイドライン「IHE臨床検査ドメイン」
血液検査に代表される検体検査では、多種多様な検査装置・システムが用いられる。システム間の円滑な連携、ワークフローの標準化を目指すIHEの臨床検査分野での取り組みを紹介する。
医療情報システムの効率のよい構築・運用のために標準化が進められている「Integrating the Healthcare Enterprise(IHE)」。本連載では、一般社団法人 日本IHE協会(IHE-J)のメンバーがIHEの概要や各分野(ドメイン)での展開、導入事例などを紹介する。第2回となる本稿では、アイテック阪急阪神の川田 剛氏が「臨床検査」ドメインを解説する。【編集部】
臨床検査技師の業務フローと臨床検査ドメインとの関係
日本の臨床検査技師が携わる業務と各ドメインの関係は次の通りである。英語名と日本語名の対応に違和感があるかもしれないが、現場での呼称や日本の学会名などを考慮して決めた経緯がある。
- 検体検査:臨床検査(Laboratory)ドメイン
- 生理検査:循環器(Cardiology)ドメイン
- 病理検査:病理・臨床細胞(Anatomic Pathology)ドメイン
一般に検体検査と言うと「微生物学的検査」「血清学的検査」「血液学的検査」「病理学的検査」「寄生虫学的検査」「生化学的検査」などの業務が該当する。病理学検査は病理診断と密接な関係があるため別のドメインとなり、病理学検査を除く検体検査や輸血のための検査(製剤管理は含まない)などが臨床検査ドメインの範囲となる。その中でも血液や尿などを取り扱う検体検査は、自動分析装置の導入によって業務へのシステム導入がいち早く行われてきた。
IHEが検体検査分野で使用する標準規格
IHEの検体検査分野では、以下のメッセージ交換規約と検査項目分類マスターに準拠している。
1. メッセージ交換規約
検体検査のデータ交換メッセージは「HL7 Ver2.5」を基本的に採用している。後述する「検体検査結果報告書の共有」(XD-LAB)のみ「HL7 Ver3.0」を採用。日本国内では、HL7 Ver2.5をベースにIHEとの整合性に配慮して策定された「JAHIS臨床検査データ交換規約Ver3.1」を参考にしている。
2. 検査項目コード
検査項目コードについて、IHE-Jでは「JLAC10」(臨床検査項目分類コード)を採用している(図1)。
検体検査の統合プロファイル
検体検査に関する統合プロファイルを以下に示す(図2)。後述する「検査自動化システム」(LDA: Laboratory Device Automation)、「採取管準備」(LBL: Laboratory Barcode Labeling)については、日本が中心になって取りまとめた統合プロファイルである。
上記図中のITIとは「ITインフラストラクチャ」を指し、各ドメインの共通基盤となる技術を検討するドメインだ。具体例としては「患者属性の更新」が挙げられる。また、この図では、検体検査の統合プロファイルとの関連性を示している。ここからは各統合プロファイルを説明していこう。
1. 院内検査ワークフロー(LTW: Laboratory Testing Workflow)
「院内検査ワークフロー」(LTW: Laboratory Testing Workflow)統合プロファイルは、臨床検査部門が入院・外来患者に対して通常行う検体検査業務を扱うプロファイルで、臨床検査ドメインの基本的なワークフローである。臨床検査部門は、医師あるいは診療部門から検査オーダーを受け、検査は患者から採取した検体で行われる(図3)。アクタ「オーダ依頼者」(OP: Order Placer)はアクタ「オーダ実施者」(OF: Order Filler)に対して、トランザクション「依頼者オーダ管理」(LAB-1)により検査オーダーを送信する(アクタとトランザクションについては「医療情報システム連携の要となる『IHE』とは何か?」を参照)。
オーダ実施者(OF)は「臨床検査情報システム」(LIS: Laboratory Information System)や「臨床検査自動化システム」(LAS: Laboratory Automation System)に実装される。一方、オーダ依頼者(OP)は「診療管理システム」(CIS: Clinical Information System)や「病院情報システム」(HIS : Hospital Information System)に実装されることが多い。
オーダ依頼者は、固有の検体IDを記載した「検体IDラベル」、患者名、診察IDなどの関連情報を供与する。検体が採取された容器に、適切な検体IDラベルを張り付けることで各検体を識別する。その場合、一般的にはバーコード形式が用いられ、付加情報としては患者名、診療科などが記載される。検体IDの形式と長さは、臨床検査の組織内およびシステムや機器の制約条件に従わなくてはならない。
受信したオーダーがオーダ実施者に受諾されると、実施者オーダー番号が割り当てられる。その後、「実施者オーダ管理」(LAB-2)により、オーダ依頼者に返信される。検査結果は、オーダーされた検査とオーダーされていない検査両方に対して発行される場合がある。検査結果については、オーダ実施者が「オーダ結果追跡」(ORT: Order Result Tracker)に「オーダ結果管理」(LAB-3)により送信する。
2. 検査自動化システム(LDA: Laboratory Device Automation)
「検査自動化システム」(LDA: Laboratory Device Automation)統合プロファイルは、アクタ「オートメーションマネジャー」(AM: Automation Manager)と、分析前/後処理装置など「自動化機器」(LD: Laboratory Devices)間の分析実行プロセスにおけるワークフローだ(図3)。
オートメーションマネジャーがオーダ実施者からの検査オーダーを受信すると、1つあるいは複数の「検査ステップオーダー」(WOS: Work Order Step)のシーケンスに分割。分析装置や検体前/後処理装置などの自動化機器が各ステップを担当する。
検査自動化システム(LDA)では、臨床検査部門のスタッフが操作するオートメーションマネジャーと自動化機器との間のワークフローを示している。病棟のスタッフが操作する装置については、別の統合プロファイル「臨床現場即時検査」(LPOCT: Laboratory Point of Care Testing)でサポートするため、LDAの範囲外である。
3. 臨床現場即時検査(LPOCT:Laboratory Point of Care Testing)
図4は、臨床検査部門の監督下で手術室や病床サイドのような臨床現場で行われる「臨床現場即時検査」(POCT: Point of Care Testing)のワークフローを示している。臨床検査部門の監督の業務としては「POCTの結果の臨床的検証」「精度管理(QC)サーベイランス」「試薬の補充」「適切な検査の実践に関する病棟スタッフへの教育」などが含まれる。
POCT機器は、アクタ「POCT結果生成」(POCRG: Point Of Care Result Generator)を実装し、アクタ「POCTデータ管理」(POCDM: Point Of Care Data Manager)を実装するデータマネジャーに接続される。POCTデータ管理が患者検体および精度管理検体に対するPOCT結果生成からの結果を収集して、その結果を管理するオーダ実施者に送信する。
4. 採取管準備(LBL:Laboratory Barcode Labeling)
図5は、検体検査依頼に基づき採取容器にバーコードラベルを貼る「採血管準備装置」(LBL: Laboratory Barcode Labeling)統合プロファイルに関するワークフローを示している。
採取管準備がサポートするワークフローでサポートされるアクタは、「ラベル発行指示者」(LIP: Label Information Provider)および、「ラベル発行者」(LB: Label Broke)の2種。ラベル発行者はラベル情報を受信し、ラベルを出力する。ラベル発行指示者は通常、院内検査ワークフローの統合プロファイルのオーダ実施者およびオーダ依頼者とグループ化される。すなわち、ラベル発行指示者の実装はHIS、CIS、LISとなる。ラベル発行者は、ラベル発行指示を受動的に通知されることが可能である。あるいは、この指示を得るため、ラベル発行者がラベル発行指示者にクエリを行うことが可能である。
5. 検査コードの更新(LCSD: Laboratory Code Set Distribution)
検査コードの更新(LCSD)は、院内検査ワークフローの複数の異なるアクタあるいはシステム間において、共通の検査コードを使用するための検査コード更新ワークフローだ。
6. 検体検査結果報告書の共有(XD-LAB: Sharing Laboratory Reports)
「検体検査結果報告書の共有」(XD-LAB)は、他施設へ伝達するための電子的文書の共有リソースへ発行される臨床検査リポートを取り扱う。ある患者に対する検査結果を含み、人間にとって判読可能である必要がある。加えて、データベース内で検査結果を統合するため、コンピュータにより判読可能なフォーマットでもなければならない。
例としては、ITIテクニカルフレームワークで定義される文書共有プロファイルが使用され、医療機関で共有されるElectronic Health Record(EHR)あるいはPersonal Health Record(PHR)などがある。
7. トライアルインプリメンテーション
IHE臨床検査技術委員会では、新たな臨床検査のテクニカルフレームワークとして以下3つを「トライアルインプリメンテーションプロファイル」として展開することをIHEに申請している。これらは後述するコネクタソン(テクニカルフレームワークを実装したシステムや機器の接続テスト)でテストする資格を有する。
- (1)画像の取扱いオプション(GIR: Graphics and Simple Images in Results)
GIRは、臨床検査結果に付随するグラフや画像のデータ提供方法を定義する。院内検査ワークフローや検査自動化システムのオプションに位置付けられる。画像の所在や画像作成に必要なデータ集合などの情報を送信するが、具体的な画像の取得方法や表示方法は定義していない。
- (2)分析装置ワークフロー(LAW: Laboratory Analytical Workflow)
臨床検査室の自動分析装置とその動作を管理するLIS、またはLASなどのシステム間の分析ワークフローに特化したプロファイル。単項目分析装置から免疫分析装置のような複数の項目を分析する多くの自動分析装置に適用可能である。
- (3)検査施設間ワークフロー(ILW: Inter Laboratory Workflow)
検体に関する検査のオーダーとその結果を2つの検査室間で受け渡すためのプロファイル。「依頼者」(Requester)と「受託(下請)者」(Subcontractor)の2種類のアクタが定義される。検査を依頼する検査室のLISが「依頼者」アクタとなり、検査オーダーとその状態に関連する必要な検体の収集に責任を持ち、受託検査室にそれらを提供する。一方、受託検査室のLISが「受託(下請)者」となり、検査結果を依頼者アクタに返信する。
臨床検査ドメインの体制
IHEの各ドメインは企画部門(企画委員会)と技術部門(技術委員会)に分かれており、企画委員会は医療施設で実務に携わる医師や技師、学会などの関連団体のメンバーで構成される。臨床検査ドメインの活動内容を紹介しよう。
1. 国際体制
IHE臨床検査ドメインは、米国病理学会(CAP: The College of American Pathologists)が第1スポンサー 兼 事務局で、日本の一般社団法人 保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS: Japanese Association of Healthcare Information Systems Industry)とフランスのASIP Sante(The French Agency of Shared Healthcare Information systems)が第2スポンサーとなっている。年2回の国際会議を日本、欧州、米国が持ち回りで開催している。
2. 日本国内の体制
IHE-Jの会員は学会や医療機関、企業、個人などで構成されている。その中から、会員医療機関の医師や臨床検査技師、会員企業(HISベンダー、LISベンダー、分析装置メーカー)の従業員が臨床検査委員会の委員として、新プロファイルの提案や検討、国内における普及活動などを行っている。
コネクタソンの実績と国内導入施設
コネクタソンにおける検体検査としては、院内検査ワークフロー、検査自動化システム、臨床現場即時検査、採取管準備などを実施している。2013年10、11月に開催された2013年度「IHE-J 2013 コネクタソン」の参加ベンダーは15社であった。その結果は、IHE-JのWebサイトより「コネクタソン2013結果表」(通称:星取表)で掲載されている。微生物検査は「LTW-MB(Laboratory Testing Workflow-MicroBiology)」と表記。
日本国内のIHE検体検査分野の導入施設は9施設で、実装プロファイルは院内検査ワークフローと採取管準備である(2014年1月現在)。
IHE臨床検査ドメインの最新情報
ここからは、IHE臨床検査ドメインの最新動向を紹介する。現在、注目を集めているのが分析装置ワークフローである。
分析装置に関する統合プロファイルである検査自動化システムは、いまだに世界で導入実績がない。分析装置の接続については各社各様であるため、装置を導入するたびに接続費用が発生するのが現状である。この状況は国外でも同様であり、コスト負担に危機感を持った体外診断に携わる欧米諸国のメーカーが標準化を推進する団体「IVD Industry Connectivity Consortium」(IICC)を2007年に立ち上げた。
IICCには海外の体外診断薬ベンダーや情報システムベンダーが参加している。IICCは現在、IHE臨床検査ドメインに参加しており、検査自動化システムをベースとする分析装置ワークフロープロファイルの策定に参加している。海外の主要な分析装置メーカーが参加しており、分析装置ワークフロープロファイルの実装や標準化の推進が期待される。「IHE-J 2013 コネクタソン」においては、分析装置ワークフロープロファイルのテストに4社が参加した。
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