財務経理・経営企画のためのデータ分析入門【第3回】
「機械学習」時代の経営判断はどうあるべきか
流行っているからといってデータ分析に飛びつくと痛い目に遭う――ポイントになるのはデータに基づく判断を社内に定着させるためのスモールスタートだ。将来の「機械学習」をにらんだ取り組みを説明する。
第1回「『勘と経験と度胸』を超えるデータアナリティクスの可能性」、第2回「他社の戦略をまねしてもうまくいかない? 必要なのはケイパビリティ管理」と、顧客の理解から始まり、ケイパビリティの強化、仮説シナリオの策定、そしてPDCAサイクルの回し方まで、データアナリティクスを導入して実行する手法について説明してきた。
今回は、このデータアナリティクスを支えるITと、データアナリティクスを経営に取り入れるための戦略について説明する。
データアナリティクス導入の戦略
ビッグデータを分析するという「新しく派手」な取り組みは、さまざまなベンダーから最先端のテクノロジーが紹介され、高額な投資が必要になりがちだ。企業がこのムードに流されると高額なIT投資の末に「結局何がしたかったのか?」という状況になり、結果を得られない危険性がある。投資の前に一度立ち止まって、データアナリティクスを導入するためのIT戦略を考える必要がある。
IT戦略とは何なのか。「戦略」という言葉の意味は「戦いを略す」ことだ。無駄な戦い、無駄な投資をしないことを指す。この意味から考えると、ビッグデータ分析に向けてのIT投資でも、できるだけ投資をせずにビッグデータを分析し、データアナリティクスを経営に生かすという方向性が見えてくる。
ビッグデータに向けての戦略のポイントは目的の明確化と既存IT資産の活用だ。まず目的を定める場合、自社にデータアナリティクスを導入することで「どのような成果が得られるのか?」を問うことが必要になる。データ分析で行いたいこと、知りたいことのためにどのようなデータが必要なのかを考えることが重要だ。この基本的な見極めがない状況で安易にシステム導入に向けた議論を進めてしまうと、導入した後で「欲しい情報と違う」ということになる。だが、このデータの見極めは簡単ではない。なぜならこの見極めのためにも分析が必要になり、分析が分析を呼ぶような「負のスパイラル」に陥ることが多いからだ。
そうならないためにはできるだけシンプルに考えることだ。これまでの連載で強調してきたように、現代の企業の分析目的はB2B、B2Cに限らず「顧客の理解」にある。であるならば、いったん顧客の理解という目的を仮置きして、どのようなデータを使えば顧客を理解できるのか、そしてどのような成果が得られるのかにフォーカスして考えてみることを推奨する。
まずは自社にあるデータを
分析戦略を立てる上で最初に検討すべきは、現時点で「自社にある内部データ」を分析対象とするのか、それとも「外部データ」を必要とするのかだ。言い換えると目的を達するためには、「既存顧客のデータ」と「新規顧客のデータ」のどちらを使うべきかを決めることになる(もちろん両方の場合もある)。新規顧客の場合、有用なデータが社内にはないケースが大半で、社外から入手する必要がある。
ただ、社外データの運用は複雑性、信頼性、個人情報の観点から、社内データの活用に比べて難易度が高い。そのため、まずは既存顧客、つまり自社に既にある顧客データの分析を推奨したい。例えば既存顧客の離脱を防ぐための分析などだ。この場合、自社データなのでその特性や信頼度、粒度も理解でき、何よりも既存システムの活用を視野に入れることができる。既にあるシステムを活用することで、小さな投資から始めて、分析というスキームを企業に定着させながらPDCAサイクルを回し、タイミングを見て大きな投資を決断していく流れも考えられる。
分析によって科学的な意思決定をするという文化を社内に根付かせるためであれば、「Microsoft Excel」などの簡易なツールで分析を始めてみる手もある。ITベンダーは現在、ビッグデータ活用の視点から大量、多様、リアルタイムでの分析を可能とするさまざまなIT製品を提案している。これらの製品やテクノジーは高性能で有用であることには間違いない。だが、まずは現在自社内にあるデータと既存システムの活用で何ができるかを考えたい。大きなIT投資はその検討の後でも遅くはないだろう。
自社内のデータアナリティクスレベルを向上させた先には「機械学習」がある。機械学習は、過去のデータ分析から得られた特徴やルールをコンピュータが学び、新たなデータ分析にそのルールを適用することといえる。簡単に言うと人間が普段行っている判断をコンピュータが客観的、高速、正確に処理し、ルールやパターンを自動で見つけ出すことを指す。機械学習によって意思決定の自動化が期待されている。
現在、人が関与している意思決定が次第にITによる意思決定に移行していく。これは変えようのない流れだ。スピードと正確さの向上によって、誰がデータを分析しても同じ結果を得られる時代が来るかもしれない。そうなると企業間の差別化は難しくなる。そのため、企業における差別化のポイントは、人が実施する領域、つまり仮説の構築と検証になるだろう。システムで実施する領域と、人で実施する領域のバランスを図ることこそ、データアナリティクスにおけるIT戦略の鍵になるだろう。
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