財務経理・経営企画のためのデータ分析入門【第1回】
「勘と経験と度胸」を超えるデータアナリティクスの可能性
ビッグデータはマーケティング部門だけの言葉ではない。キャッシュを扱う財務経理部門にとっても有効活用が可能だ。特に有用なデータを探し出すデータアナリティクスはぜひマスターしたい。基本を説明する。
ビッグデータという言葉が世の中で聞かれるようになってから随分と時間がたった。セミナーが頻繁に開催され、多数の書籍も出版されている。しかしながらビッグデータから「何か」を得られるのではないかという漠然とした期待があるだけで、どのような効果が得られるのか、収益に一体どんなインパクトがあるのかがイメージできないことが多いようだ。結果としてセミナーや書籍などからビッグデータについて情報収集した段階で検討が止まっている企業が多く見受けられる。
このような状況から抜け出して競合他社に先駆けて第一歩を踏み出すために注目されているのが、ビッグデータを企業の業績向上に利用する「データアナリティクス」だ。データアナリティクスでどのようなメリットが得られるか。財務経理部門、経営企画部門のデータ活用について3回連載で説明する。
ビッグデータという言葉に惑わされてはいけない
ビッグデータを端的にいうと、今まで十分な分析ができていなかったデータについて、テクノジーの進化でより深く分析することができるようになり、企業競争力の強化に寄与できるようになったということだ。
ビッグデータ分析は、FacebookやTwitterなどソーシャルメディアのデータや、クレジットカードの使用履歴、地域情報など外部データの分析というイメージが強い。だが、そもそも自社内にある既存データ(顧客データ、経営管理データなど)さえも分析できていない企業が多いのが実情だ。例えば新しいサービスを開発して営業を開始するために、既存の顧客データから必要となる顧客リストを作成するだけで多大な時間が費やされ、結局完成したリストも品質が低く、満足に活用できないといった現象が多くの企業で見受けられる。社内にある顧客データを活用した「アタックリスト」の精度が低ければ、せっかくの営業機会を逃してしまう。
企業に必要なのは、外部のデータか社内のデータに関わらず収益拡大に寄与する「使えるデータ」を見極めて分析することだ。例えば、勘や経験ではなく科学的手法を経営に取り入れることで、過去に自社で蓄積されたデータを斬新な切り口で分析し、機会を見極めることができる。このアプローチはビッグデータ分析とは区別され、「データアナリティクス」と呼ばれている。
曖昧な意思決定を科学的アプローチに変換
企業における意思決定は実に曖昧だ。論理的に構成された起案が、一部マネジメントの意向(直感、経験、自身の利害など)によりゴミ箱行きとなってしまった経験をされた人は少なくないだろう。
このマネジメントの決定が正しいか正しくないかは、結局、結果が出てみないと分からないが、この意思決定が科学的なアプローチで行われていないことだけは確かだ。逆にデータアナリティクスによる意思決定、つまりは科学的なアプローチで意思決定を行えば、成功した場合にはその検証プロセスから継続的な成功を連鎖させることができる。また、失敗した場合でもそこから「気付き」を得て次の一手を打つことができる。つまり計画、実行、チェック、アクションというPDCAサイクルを回すことできるわけだ。
では、財務経理部門にとってのデータアナリティクス活用法とはどのような内容なのだろうか。財務経理部門の方々はデータアナリティクスについて、「自分たちの業務とは関係ない。マーケティング部門やIT部門の話だろう」などと考えている方が多いかもしれない。確かに世の中では「顧客を理解する」というマーケティングセミナーや、「ビッグデータを使いこなすITソリューション」というITベンダーのセミナーが多く実施されていて、一見、財務経理部門には無関係だ。
しかしよく考えてみると、上記のセミナーで講師らが主張しているのは、さまざまなデータを分析して収益拡大の機会を捉えることだ。そうであるなら、収益拡大を目指す上で企業のキャッシュを管理する財務経理部門に関係がないわけはない。
財務経理部門が担うデータアナリティクス
財務経理部門にとってデータアナリティクスでポイントとなるのは、データアナリティクスを使って「正確でリアルタイムにキャッシュの流れを見える化」することと、「モデリングによってキャッシュの流れをシミュレーション」することだ。ここでいうモデリングとは、どのタイミングで、どのくらいの資金を、どこに持っているべきかをさまざまなデータからシミュレーションすることを指す。
昨今よくメディアなどでも取り上げられる「グローバルキャッシュマネジメント」についてもデータアナリティクスは活用できる。グローバルキャッシュマネジメントの詳細は本題から逸脱するので詳しくは触れないが、簡単に説明すると子会社が個別に所持しているキャッシュをグループ横断的に全体最適化するということだ。ある子会社で必要以上に所有しているキャッシュを移動させて別の子会社の借金を返済することで、利子の支払いを減らすことができる。加えて資金移動の際に必要となるコストも可能な限り減らすことができる。グローバル展開する企業にとっては必須の管理手法といえる。
グローバルキャッシュマネジメントの仕組みは概念的にはとてもシンプルだ。財布を1つにして効率的にキャッシュをコントロールしていくといえる。だが、実際に運用するとなるとさまざまなデータ(銀行の残高データなど外部のデータも含まれる)をリアルタイムに把握する必要があり、決して簡単ではない。当然だが、支払う段階で子会社にキャッシュが足りないと大変なことになる。海外であれば、時差や為替も考慮する必要がある。
つまり、グローバルキャッシュマネジメントでは、キャッシュに関するさまざまなデータを「正確かつリアルタイムに見える化」する必要があるのだ。支払い予定、入金予定などの細目情報をリアルタイムで可視化し、情報を統合し、プロセスを最適化することが求められる。同時にどのタイミングで、どの程度の資金を、どこに移動すべきかというモデリングに基づくシミュレーションも必須だ。しかも刻々と変化する状況に対応するため、高速な処理が求められる。
移転価格や収益管理の高度化に活用
データアナリティクスは、グローバルキャッシュマネジメント以外にも例えば移転価格や収益管理の高度化に活用することができる。データアナリティクスが財務経理部門にとって多くの可能性を秘めていることが分かるだろう。グローバルキャッシュマネジメントなど財務経理部門に求められるデータアナリティクスでは、マーケティングデータの分析に見られるようにデータ量が幾何学的に増大するケースは多くない。重要なのは大量データの取り扱いではなく、リアルタイムに高速処理できることだ。高速処理を行うことで短時間で何度もシミュレーションが可能になり、情報の精度が高まる。データアナリティクスの導入に当たっては、どのタイミングでどのデータをどれくらいのスピードで処理する必要があるのかを厳密に定義する必要があるだろう。この要件の整理が財務経理部門にとって最初のポイントだ。
次回は企業競争力の向上に向けて、データアナリティクスの具体的な活用を説明する。
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