事例が示すビッグデータの可能性と課題【前編】
Amazon、Google、NTTドコモの事例が示すビッグデータの可能性
販売促進、研究開発、公共など、さまざまなビッグデータの活用が国内外で進んでいる。アナリストが紹介したビッグデータ活用事例をピックアップして紹介する。
ビッグデータ活用をけん引する“Gang of Four”
野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント鈴木良介氏は、2012年3月8日に開催された@IT情報マネジメント主催カンファレンス「大量・多種類のデータを、いかに“価値“に還元するか? ROI最大化、収益向上に寄与するビッグデータの真意と活用の鍵」の基調講演で、国内外のビッグデータ活用事例を紹介した。
「ビッグデータ活用」は昨今IT業界で特に耳にすることの多いキーワードだが、実際どのようなデータをどのように活用すればいいのだろうか。鈴木氏は企業におけるビッグデータ活用は、「Webサービス事業者が先導していることは間違いない」と説明する。特に「Gang of Four」と呼ばれる米Amazon、米Google、米Apple、米Facebookは消費者のさまざまなデータを取得・活用することに長けており、彼らがビッグデータ活用を強くけん引しているという。
「彼らは自らがやりたい事業を実現するために必要な、ITに関するテクノロジーを自ら作り出してしまう“内製事業者”。作ることで自社のビジネスがうまく回り、次のステップに行くためにさらに技術を洗練させる。自社内で内燃的にこのプロセスをぐるぐる回している」(鈴木氏)
以降ではそれらの企業がどのようにデータ活用しているのかを見ていこう。
読者に刺さるキーワードを収集、販売促進に活用するAmazon
販売促進にビッグデータを活用している事例として、鈴木氏はAmazonのあるサービスを紹介した。Amazonが提供する電子書籍デバイス「Amazon Kindle」には、電子書籍にユーザーがアンダーラインを引ける機能がある。Amazonは、この「どの電子書籍のどの部分にアンダーラインを引いたか」というデータを自社のクラウドに吸い上げることができる(ユーザーがAmazonへの情報提供を許諾した場合のみ)。このデータを用いて、Amazonは「Amazon Kindle Popular Highlights」というサービスを提供している。
Amazon Kindle Popular Highlightsは、電子書籍の中でアンダーラインが多く引かれた部分を紹介することで、その書籍の要点や注目すべきポイントを紹介するサービスだ。つまり、書店員や出版業界の担当営業が経験や勘に基づいて作るPOPと同じようなサービスを、Amazonは一般消費者の統計データを用いることで行っているわけだ。
Amazonのサービスは全般的にパーソナライズが可能なため、例えば20代の女性が見に来たときには20代の女性ばかりがアンダーライン引いている箇所を売り文句にするといったことも可能だ。また、AmazonはAmazon.comで収集した膨大な消費者行動データを統計解析し、性別や年代に応じた出版社への出版企画も手掛けており、米国では既に出版社の買収も行っている。「いずれはこのアンダーラインのデータを、例えば『30代の男性にはこういったキーワードが響く』といった出版企画の提案にも利用していくだろう」(鈴木氏)
音声情報を集め音声認識の研究開発に生かしたGoogle
Googleはかつて、「GOOG-411」というサービスを提供していた。GOOG-411は、米国で提供していた電話番号案内サービス。同社初の音声認識技術を使ったサービスとして2007年にスタートしたが、2011年11月にサービスを終了している。
鈴木氏によると、「このサービスが始まった当初は、Googleが何をしようとしているのか皆不思議に思った」という。なぜなら、音声だけで完結してしまうサービスのため、Googleの収益減である広告を挟む余地がなかったからだ。
実は、Googleはこのサービス自体で収益を得ることは考えていなかった。Googleはこのサービスを介して「人がものを尋ねる際の声のデータ」を収集することで、今後スマートフォンなどに搭載するための音声アルゴリズムを強化することが目的だったのだ。ビッグデータを研究開発目的で活用した好事例といえるだろう。
ビッグデータ活用で公共分野の取り組みを支援するNTTドコモ
一方で、国内でもビッグデータの活用事例は出始めている。鈴木氏は国内事例の1つとして、NTTドコモが実験的に行っている「モバイル空間統計」を紹介した。モバイル空間統計は、ネットワークの運用データから全国の人口分布を推計する取り組みだ。携帯電話は(利用可能な場所では)必ずどこかの基地局の配下にあるため、基地局側では現在配下にどのような携帯電話があるかを把握していることになる。NTTドコモではそのデータを周期的に取得することで、防災や街づくりに生かすための研究をしているという。
こうしたデータについて鈴木氏は「昔から取得できなかったデータではない」と指摘する。例えば、道路にカウンターを持った人を配置して手作業で通行状況を収集し、「昼にどこにいた人は夜どこに帰るのか?」といった分析は昔から行われていた。
「そのコストは膨大だったけれども、『自ずと取得できるデータ』をプライバシーを侵害することなく再利用できれば、極めて低コストで同じ分析が可能だ。また、人を配置するのと同じコストを掛ければ、雨の日や晴れの日、曜日ごとの違いといったより細かい条件設定の下で状況把握ができるだろう」(鈴木氏)
NTTドコモは携帯電話事業を行う中で蓄積された利用者の位置情報を匿名化・集計化することで、世の中に広く提供していくことを考えているという。
以上、Amazon、Google、NTTドコモにおけるビッグデータ活用事例を紹介してきた。公共、私企業にかかわらず、さまざまな活用へと応用できる示唆に富む事例といえるだろう。その一方で、ビッグデータの活用には少なからず課題もある。後編ではさらに鈴木氏が示したビッグデータの活用事例を紹介するとともに、それらによって見えてくるビッグデータ活用の課題を解説したい。
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