ヴイエムウェアのIaaSを検証
vCloud Airをユーザーが辛口批評「まだ競合と並ぶラインに来ていない」
ヴイエムウェアの新しいクラウド「vCloud Air」を事前検証したユーザー3組が、同社への期待を込めて辛口批評を繰り広げた。ヴイエムウェアは仮想化基盤で作り上げた実績と信頼をクラウドでも構築できるか。
ヴイエムウェアとソフトバンクグループは2014年11月10日、クラウドサービス「VMware vCloud Air」(旧「VMware vCloud Hybrid Service」)の国内提供を開始した。2014年7月に発表があってから今回のローンチに向けて、50社を超えるエンドユーザーやパートナー企業がvCloud Airのβプログラムと称する事前検証を行ってきたという。
2014年11月5日に開催された「vForum 2014」では、早くからβプログラムに参加し活発に検証を行ってきた3組のユーザー組織が、vCloud Air(主にパブリッククラウドサービス部分)に対する率直な意見を述べた。その模様をリポートする。
クラウド ナビ
パネリスト
柏崎礼生氏(大阪大学 情報推進機構 助教)
篠田敏幸氏(協和発酵キリン 情報システム部長)
澤本光裕氏(大和総研 基盤技術第二部 副部長)
モデレーター
福本 薫氏(ヴイエムウェア プログラムマネージャー)
――自己紹介をお願いします。
柏崎氏 大阪大学で学内の情報化に取り組む情報推進機構に所属しています。大阪大学では現在約2万人の学生と約1万人の教職員が在籍し、ITシステムのアカウント数は約3万5000個です。世界的な大学評価機関である英Quacquarelli Symondsが発表した「QS World University Rankings(世界大学ランキング)」では、国内の大学に絞ると3位ですが、世界では55位。ここに危機意識を感じています。
2014年9月に「阪大キャンパスクラウド」を作りました。これは2009年に作った仮想化基盤のリプレースに当たり、「VMware vSphere 5.5」「VMware vCloud Suite Standard」を使用して5台の物理サーバに100~200台の仮想マシンを稼働させています。2年半後には規模を変えずにパフォーマンスをアップさせる増強施策を予定しています。今後はこの基盤を使って、システムを全面的にパブリッククラウドへ移行していきたいと考えています。
篠田氏 協和発酵キリンではプライベートネットワーク(社内ネットワーク)を基点に、オンプレミス、パブリッククラウド、SaaSを運用しています。パブリッククラウドは「Amazon Web Services」(AWS)を利用し、3割のサーバがAWSで、残り7割はオンプレミスのデータセンターで稼働しています。サーバ数は四百数十台で、システム数はその3分の1程度です。今後はAWSに加えて、vCloud Airの利用も検討しています。
澤本氏 大和証券のシンクタンクである大和総研は、2010年10月に「大和クラウド」というオンプレミスのクラウド(プライベートクラウド)を始めました。約100台の物理サーバ上で1700台の仮想マシンが稼働しています。システム数は400種程度。今後3年間の中期計画では、パブリッククラウドの検証を進めます。今回はその一環でvCloud Airを検証しました。
パブリッククラウドを検討するに至った経緯
――なぜ今、パブリッククラウドが必要なのでしょうか。安価ですぐに使え、用途に合ったパブリッククラウドが多数登場したことで、使わない手はないという意識がユーザーの間で働いているように感じています。
柏崎氏 そもそも計算機(コンピュータ)は組織のアイデンティティーになりませんよね? 計算機を多く持っているからすごい、という評価にはならないのです。計算機がごく普通のインフラになったことで、持つこと自体には価値が生まれなくなりました。そのため、ITを自分たちで所有して管理する必要はない、オペレーションは外部に任せてしまった方がいいと考えています。
篠田氏 IT部門におけるメインの業務が、サーバをメンテナンスすることから、業務に貢献することへ変わってきています。われわれは製薬企業なので、薬の安全に対してきちんとしたシステムを構築していくことが求められます。ハードウェアやウイルス対策に時間を取られ、本業に手が回らないようでは困ります。そのため、インフラの保守にはあまり手を掛けたくありませんし、サービスインを速くしたいのです。
また、今後目指すグローバル共通のプラットフォームを自分たちだけで構築するのは至難の業です。クラウドサービスはうまく使っていきたいと考えています。
澤本氏 CPUリソースをいかに安く速く手に入れるかは重要です。パブリッククラウドはそのために検討しています。今回、vCloud Airを検証して引っ掛かったのはオンプレミスからの移行性です。2010年から稼働している大和クラウドは、そろそろライフサイクルの節目を迎えます。仮に新たなオンプレミスへ移行する場合、移行プロセスの過程でリソースを二重に持たなければなりません。しかし、パブリッククラウドであればその必要はない点に期待しています。ただし、全てのシステムをすぐに移行できないのが悩みどころです。
――パブリッククラウドに移行するという話がありましたが、完全にパブリッククラウドに移行するのが最終形なのでしょうか。あるいはオンプレミスとパブリッククラウドである程度バランスを取るのでしょうか。
柏崎氏 法律および組織のポリシー次第でしょう。持たなければならないと規定されていない限り、自社で持つ動機はありません。
篠田氏 資産をどう持つかという考え方によります。バランスを取ることは大事です。パブリッククラウドのようなインフラの専用サービスがあるならお願いしたいですが、そこに不安要素がある場合は、多少なりとも自分たちでインフラを持っておくこともやむを得ません。その線引きが難しいところです。
澤本氏 情報資産を外部に置くリスクが無いのであれば完全にパブリッククラウドに移行することもあり得ます。しかし、そのリスクがゼロではない以上、法律や組織のポリシーに縛られ、内部に置かなければならないシステムもあるでしょう。
――1つの形態で全てにフィットするという環境は考えにくいということですね。
ハイブリッドクラウドに求められる要件
――企業における今のIT資産状況を見たときに、一朝一夕でパブリッククラウドにワークロードを移行することはできないと考えます。パブリッククラウドとオンプレミスの両方の環境を運用するハイブリッドクラウドのスタイルがしばらくは続くことが想定されます。ハイブリッドクラウドの運用をいかにスムーズにするか。そこがvCloud Airの存在意義だとヴイエムウェアは考えています。
篠田 われわれはユーザー企業なので、インフラの管理よりはアプリケーションを作ったり、業務改革に貢献していくことを重視しています。ヴイエムウェアには、仮想化システムでの信頼性をクラウドでも実現してくれることを期待しています。その上で、移行性は重要です。
ヴイエムウェアは「vCloud Airによって既存の仮想環境をそのまま移行することが可能」と言いますが、本当にそのまま移行できるのかはこれから使っていかなければ分かりません。テスト期間は2カ月と短く、実際に使ったのは約1カ月です。もっと使い込んで機能を確認してから移行すべきだと考えています。
柏崎氏 vCloud Airのパフォーマンステストをしたところ、すごく良い性能が出ました。しかし、それはあくまでもβプログラムの検証結果でしかありません。2014年11月10日のサービスイン以降、多くのユーザーからアクセスが集中した際も同じようにパフォーマンスを保持していけるのでしょうか。
――確かにβプログラムでは、全体のキャパシティーと比べて使用量が少なかったのは事実です。当然ながらパフォーマンスは重要ですが、弊社がvCloud Airで特に重視しているのはデータの互換性です。仮想マシンがオンプレミスとクラウド間を移行するたびにデータを変換しなければならないのは運用性を下げることになります。また、インフラ環境ごとに管理ツールが異なればトレーニングが必要になります。
さらに、アプリケーションのスムーズな移行を考えたときに、パブリッククラウド側にサポートされているOSやアプリケーションの数が少ないと、オンプレミスで動いているアプリケーションを移行するたびにアプリケーションベンダーを巻き込んで大掛かりな改修作業が必要になるでしょう。vSphere側で動いているOS、アプリケーションがクラウドでもそのまま動くということであれば、スムーズに移行できる可能性が上がるといえます。
澤本氏 参考までにわれわれの検証結果をお伝えします。まずはパフォーマンスですが、CPUに関しては2010年に導入したオンプレミスのサーバと比較してvCloud Airの方が約1.2倍高速でした。ストレージのIOPSは、「Amazon Elastic Block Store」(Amazon EBS)と比較して、SSDでは約10倍、磁気ディスクでは約5倍、vCloud Airの方が速かったです。
次に移行性です。弊社には約20人のVCP(VMware Certified Professional)取得メンバーがおり、VMware技術にはそれなりの自信があります。彼らによって、vCloud Airへは約3時間で移行することができました。一方、AWSへの移行では、エージェントのバグを踏んでしまったことが原因か、3日ほどかかりどうにか移行することができました。AWSは、Windows環境においてはフレームワークを入れなければならない、IPアドレス設計をDSCP(Differentiated Services Code Point)にしなければならないなど、幾つかの大きな変更を要しました。その点、vCloud Airの移行性は良かったと評価しています。
ただし、今回検証したのは仮想マシンレベルのみです。運用フェーズに移ったとき、AWSにあるようなバックアップ機能、ログ機能、バックアップを暗号化する機能は、vCloud Airにはありません。また、ドキュメントに関して、AWSは非常に充実していますが、vCloud Airはまだ十分だとはいえません。vCloud Airには、痒いところに手が届くような機能やベストプラクティスがもっと必要です。
柏崎氏 ヴイエムウェアはよく「サポートOSが大変潤沢だ」と言いますが、実はvSphere 5.5にアップデートした際、OSのサポートが結構切られたんですよね。そのせいで、Red Hat Enterprise Linuxの一定バージョンのOSがVMware環境へ移行できなくなりました。次にvSphere 6.0が出たときには、どのOSバージョンがサポートから外されるか冷や冷やしています。ですから、移行性が本当に高いかは疑問です。結局、検証は必要ですよね?
――企業によってVMware ESX/ESXiのバージョンが全てそろっていると限らないですし、検証が必要無いとはいえません。相対的な話ですが、AWSと比べればvCloud Airの移行性は高いといえると思うのです。
澤本氏 確かに、移行の際に変更点が少ないというのは、移行につまずく頻度が下がるので、移行しやすさのポイントにはなると思います。
柏崎氏 移行性はコストの側面で見ることも重要です。VMware環境をAWSへ移行する、つまり迂回して異なるハイパーバイザーへ移行するコストと、ヴイエムウェアに毎年払う“お布施”(サポート料金)5年分のコストを比較して、果たしてvCloud Airの方が安いと言い切れるのでしょうか。
澤本氏 確かにそれは重要な視点です。しかし、オンプレミスで一部でもVMware環境が残る限りは、VMwareの知識を持った「TAM(Technical Account Manager)」のような人材や、専門チームによる個別サポートである「BCS(Business Critical Support)」のようなサービスが必要になるでしょう。そうすると、AWSの使用料とヴイエムウェアへの“お布施”が二重に掛かってしまいます。
篠田氏 ヴイエムウェアへの“お布施”がどれくらいの金額かにもよりますが、他のクラウドベンダーは利用料を年に何回か下げるという施策も行っています。vCloud Airの金額が今後どう変化していくのかには期待したいですね。
柏崎氏 ヴイエムウェアさん、そこは純粋に市場原理で行ってくれるんですよね?
――(苦笑)。価格感は、20Gバイト分の仮想メモリと10GHz分の仮想CPUを含む「仮想プライベートクラウド」(VPC)というプランで月額約10万円です(※編注)。10台程度の仮想マシンが立てられると想定すると、仮想マシン1台当たり月額1万円程度ですから、他のパブリッククラウドと比べてもそれほど高いとは思いません。
大事なのはパフォーマンス当たりの単価です。仮想マシン当たりのスペックではAWSの方が安価に見えるかもしれません。ただしvCloud AirにはAWSのようにI/0を確保するための追加投資がないので、パフォーマンス当たりのコストはvCloud Airの方が安いと、弊社は試算しています。
※編注:基本リソース単価が月額6万4459円であることから、この文脈では恐らく2Tバイトのストレージ(月額1万3813円/2万7625円)を含む価格を指していると思われる。
柏崎氏 気になるのは、vCloud Airが過剰投資にならないかどうか、ということです。AWSには多様な粒度のインスタンスがあります。要求するスペックやパフォーマンスをユーザーは選ぶことができます。しかし、vCloud Airは3つのモデルしかありません。粒度が大きすぎないでしょうか。
――弊社のパブリッククラウドは、まだ始まって1年です。ユースケースとして一番需要がありそうな粒度から始めようとして3つになった経緯があります。細かい粒度は今後ということで……。
澤本氏 始まったばかりですからね。
――そうです、日本では2014年11月10日開始ですよ(笑)。
澤本氏 しかし、パブリッククラウドではヴイエムウェアは“スタートアップ”ですから、やはり他者と闘っていけるレベルにまで上がっていただかないと。
――今はそのレベルには無いと……。
篠田氏 まだまだだと思います、これからです。サービスインした後にも安定して使えるかどうかが大事です。混んできたときに、どこまでパフォーマンスが低下するのか。他社でも混んできたときにサーバが立ち上がらなくなったなど、さまざまなトラブルがあります。
パブリッククラウドはあくまで共用リソースです。だから安いのです。われわれユーザーは注意して使う必要があります。複数のクラウドサービスを視野に入れ、その都度使いやすく良いものを選択していくことは、われわれにも課されていることです。
プライベートクラウドの限界
――ユーザー企業がプライベートクラウドを構築し維持し続けることは非常に大変ではないでしょうか。自分たちで自動化のスキルを開発し、それをメンテナンス、サポートするサイクルに入ったとき、ある程度の規模で限界がくるのではないかと思います。いかがでしょうか。
澤本氏 プライベートクラウドの運用自体に限界はまだ感じていません。ただ、バージョンアップは非常に大変です。ベンダーが保守期間を延ばしてくれれば今の環境を維持し続けられるのですが。
もう1つ、移行性に関しては、規模が大きくなれば例外的なシステムも増えるため、簡単に移行ができないという問題は起こります。それ以外は問題ないです。
――最後に一言。ヴイエムウェアに対する要望やvCloud Airに対する期待などをお願いします。
篠田氏 人を育ててビジネスを育てるという意味で、テスト用の無料枠をもう少し増やしてほしいです。価格が月額10万円というのは安いようにも見えますが、テストをしようとすると年間百数十万円が掛かることになります。それでは勉強をすることも難しいです。
また、米国や英国のデータセンターでは複数の第三者認証を取得していますが、国内の方でも第三者認証を取得していただきたいです。ユーザー企業の大切な業務を預けるシステムになるのですから、安心して使えるよう、きちんとした監査を受けて情報を開示していただきたいです。
――オンデマンドの価格体系は米国ではスタートしていますので、国内でも2015年には予定しています。ちなみにセールスキャンペーンとしては、3カ月以上の契約をしていただければ1カ月無料のキャンペーンはやっております……。
澤本氏 1カ月で何の検証ができるのか教えてほしいんですけど(笑)。例えば、ユーザーがドキュメントをきちんと納めることで長期間無償で利用できるようにするなどの施策は、ヴイエムウェア自身がノウハウをためるためにも必要だと思います。競合と肩を並べるのであれば、各種監査の取得や競争力のある価格体系の設定で、パブリッククラウドとしてのベースラインを上げることが先決です。その上で何を差別化するかだと思います。多くの企業が使っているVMware環境からの移行性が良いというのも今までの成果の1つですが、さらに1つ、2つ魅力のあるサービスや導入効果、価値の提供をぜひ期待しています。
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