新人IT担当者のためのネットワーク機器入門【第1回】
ネットワークの基本「OSI参照モデル」とは何か?
ネットワークと関連機器に関する「今さら聞けない」基礎知識をこっそりおさらいしようというこの連載。今回はネットワークの基本中の基本、OSI参照モデルから説明します。
ITの各分野の中でも、ネットワークはとりわけ抽象的で難解に見られがちです。この連載ではタイトルに「新人IT担当者のための」と銘打ったように、初めてネットワークに触れるIT担当者でも日々の業務を遂行できるよう、ネットワークの基本的な仕組みと各種機器の機能、技術動向などを、できるだけやさしく解説していきたいと思います。
私もかつてはネットワークのことを全く知らない新米エンジニアでした。その頃から現在に至るまで、私なりに、たくさんの本を読んで、いろいろなネットワークを構築してきました。その過程で見えてきたこと。それは「ネットワークは使用するものが決まっている」ということです。
ネットワークは、長い時間をかけて熟成された、ほぼ完成している世界です。今や使用する技術も機器も、そして構成すらも、ある程度決まってきています。OSやアプリケーションほど劇的に変化しないし、進化のスピードも比較的ゆっくりです。たとえ分厚いネットワーク関連本をたくさん読んだとしても、実際に使用するものはそれほど多くはありません。
結局のところ、重要なのは、ポイントを押さえることなのです。今から勉強を始めても絶対に遅くはありません。そこで本連載では、ネットワークを学習していく中で、必要なポイントをピックアップしつつ、いろんな機器や技術について説明していきます。
ネットワークの基本は「OSI参照モデル」
ネットワークを勉強し始めると、最初にぶち当たる壁が「OSI参照モデル」でしょう。OSIは開放型システム間相互接続(Open Systems Interconnection)という意味で、国際標準化機構(ISO)がコンピュータの通信機能を階層構造に分けて整理したモデルです。
恐らくネットワークに関するどんな本を読んでも、どんなセミナーに行っても、まずこのモデルの説明から入ることになるはずです。私もネットワークの世界に入って10年以上になりますが、やはり基本はこのOSI参照モデルであり、むしろネットワークの世界に深く関れば関わるほど、その重要性を再認識できます。
といっても、名前も小難しい感じだし、定義を聞いても抽象的で意味が分からないという人もいるでしょう、確かに、初心者にとっては少しとっつきにくいかもしれません。ただ、慣れてしまいさえすれば、知識の吸収力が格段に高まりますし、整理もしやすくなります。取りあえずはざっくりと、ネットワークはOSI参照モデルで説明されるということだけ押さえておきましょう。
OSI参照モデルとは、簡単に言うと「決めごとの集まり」です。ネットワークにおける決めごとは「プロトコル」と呼ばれます。例えばWebサイトを見るときに「http:// www.example.com」といったURLをWebブラウザに入力したことがありませんか? ここで最初に入力する「http」がプロトコルに当たります。HTTPは「ハイパーテキストトランスポートプロトコル(Hypertext Transport Protocol)」の略で、WebサーバとWebブラウザの間でデータを送受信するときに使用する通信の決めごと(通信プロトコル)ということになります。
OSI参照モデルでは、このプロトコルを7つの階層構造(レイヤー)にしています。レイヤーはそれぞれに役割を持ち、基本的に独立して動作するようになっています。従って、レイヤーのどこかに何か仕様変更や仕様拡張があったとしても、他のレイヤーに対する影響は少なくなっています。また、どこかでトラブルが起きたとしても、レイヤーごとに分離してトラブルシューティングできるようになっています。
OSI参照モデルは、具体的には以下の7階層で構成されます。
私は上から「あ」「ぷ」「せ」「と」「ね」「で」「ぶ」と、呪文のように唱えて覚えていました。もちろんその呪文に意味はありません。覚え方は人それぞれなので、自分にあった覚え方で覚えればいいと思います。もっとも、呪文を覚えて全レイヤーのプロトコルを完全に理解しても、実はそれ自体は、あまり意味がありません。
上述の通り、ネットワークは今や、ほぼ確立した技術です。使用するプロトコルも以前ほど乱立していません。レイヤー1とレイヤー2は「イーサネット」、レイヤー3は「IP(Internet Protocol)」「ICMP(Internet Control Message Protocol)」「ARP(Address Resolution Protocol)」、レイヤー4は「TCP(Transmission Control Protocol)」「UDP(User Datagram Protocol)」、そしてレイヤー5からレイヤー7は「アプリケーションプロトコル」というように、ポイントとなるものをピックアップして理解した方が効率的でしょう。
プロトコルの役割は「カプセル化」と「非カプセル化」
これらのプロトコルは、ネットワーク上で行われるデータの送受信において、どのように作用するのでしょうか。以下に説明します。
OSI参照モデルにおける、プロトコルの最も重要な役割が「カプセル化」と「非カプセル化」です。ネットワークは、レイヤーを越えるたびに、データを入れ物(カプセル)に入れたり出したりします。カプセルに入れる処理がカプセル化、カプセルから取り出す処理が非カプセル化です。これら2つの処理は、ロシアのお土産で有名なマトリョーシカ人形とよく似ています。カプセル化と非カプセル化は、送信側と受信側で分けて考えると理解しやすくなります。それぞれの処理を見ていきましょう。
送信側の端末で行う処理がカプセル化です。送信側の端末は、レイヤーの上流から下流に向けてカプセル化の処理を行い、転送用のデータを作っていきます。送信側のアプリケーションは、データを作ると、そのままの状態でトランスポート層に渡します。トランスポート層は、受け取ったアプリケーションデータをTCP、あるいはUDPのカプセルに入れて、ネットワーク層に渡します。このTCP/UDPでカプセル化したデータのことを「セグメント」といいます。
ネットワーク層は、受け取ったセグメントをIPのカプセルに入れて、データリンク層に渡します。このIPでカプセル化したデータのことを「パケット」といいます。データリンク層は、受け取ったパケットをイーサネットのカプセルに入れて、物理層に渡します。このイーサネットでカプセル化したデータのことを「フレーム」といいます。物理層は受け取ったフレームを、信号に乗せやすい「ビット」に変換した後、電気信号や光信号にして送ります。
それに対して、受信側の端末で行う処理が非カプセル化です。受信側の端末はレイヤーの下流から上流へ向けて非カプセル化の処理を行い、オリジナルのアプリケーションデータに戻していきます。物理層で電気信号や光信号を受け取ると、ビットに変換した後、フレームにして、データリンク層へと渡します。データリンク層は、受け取ったフレームからパケットを取り出して、ネットワーク層へと渡します。ネットワーク層は、受け取ったパケットからセグメントを取り出して、トランスポート層へと渡します。トランスポート層は、受け取ったセグメントからデータを取り出して、オリジナルデータをアプリケーションへと渡します。
レイヤーとネットワーク機器を対応づける
ここでいよいよ、ネットワーク機器とOSI参照モデルの関係について説明します。まず前提として、ネットワーク上に存在する全てのネットワーク機器が、全てのレイヤーのプロトコルの情報を見て処理できるわけではないことを知っておいてください。ネットワーク機器は、種類によって、処理できる範囲が異なります。あるレイヤーで動作する機器は、それ以下のレイヤーの基本的なプロトコルは処理できますが、そのレイヤーより上の階層のプロトコルは処理できません(機種によっては上の階層のプロトコルまで処理できるものもあるのですが、今のところはこのように考えておいてよいでしょう)。例えば、L2スイッチであればレイヤー2まで、つまりイーサネットを処理することができます。L7スイッチ(負荷分散装置)であればレイヤー7まで。つまり、イーサネットからアプリケーションまで、全てのレイヤーのプロトコルを処理できます。
以下に、一般的によく使用するネットワーク機器の種類と、それらが処理できる範囲をまとめておきました。参考にしてください。
次回以降の連載では、それぞれのレイヤーにあるネットワーク機器がどのようにデータを処理しているか、基本的な動きを説明しながら、最近の製品やネットワーク技術の動向についても紹介していきます。
執筆者紹介
みやたひろし
大学と大学院で地球環境科学の分野を研究した後、某システムインテグレーターにシステムエンジニアとして入社。その後、ネットワーク機器ベンダーのコンサルタントに転身。設計から構築、検証に至るまで、ネットワークに関連する業務全般を行い、今日もどこかで自己研さんを積んでいる。CCIE(Cisco Certified Internetwork Expert)。F5 Certified Technology Specialists。著書に『インフラ/ネットワークエンジニアのためのネットワーク技術&設計入門』『サーバ負荷分散入門』(いずれもSBクリエイティブ)
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