ベンチマークテストでうまくいくネットワーク機器選び【第2回】
スイッチに期待できる能力をスペックの行間から読み解く
カタログ情報だけでは分からない製品の本当の実力を見抜くため、重要な手掛かりとなるのがベンチマークテスト。まずは「スイッチ」について、リポートの見方を学ぶ。
前回のコラムで、ベンチマークテストリポートがあればネットワーク機器の本当の性能(パフォーマンス)を知ることができると説明した。今回からは少しずつ、実際のベンチマークテストの結果を見ながらリポートの読み方をお伝えしていく。ベンチマークテストリポートを正しく読み取ることができると「こういう使い方をしたときはどれくらいの性能を期待していいか」という隠れた情報が手に入る。ベンダーが公表している情報に加えて、製品を選ぶ際の指標にしてみてほしい。
まず「スイッチ」について、ベンチマークテストリポートの見方を今回と次回の2回に分けて見ていきたい。
連載:ベンチマークテストでうまくいくネットワーク機器選び
そもそもスイッチの価格差は何を意味するのか
はじめにネットワークにおけるスイッチの役割と、どのような製品が市場で使用されているかを確認しておく。スイッチはOSI参照モデルのレイヤー2で動作する「レイヤー2スイッチ」とレイヤー3で動作する「レイヤー3スイッチ」とに大別される。
ネットワークにおけるスイッチの役割を一言でいうと、データの転送である。より具体的には、イーサネットのデータ送信単位であるイーサネットフレーム(以下、フレーム)、もしくはTCP/IPのデータ送信単位であるIPパケット(以下、パケット)を転送する。細かな動作の違いはあるものの、いずれにしてもフレームやパケットといったデータを正しく転送することが、スイッチの役割である。
スイッチについて調べてみると、実に多くの製品、ツールがある。ここであえて“ツール”と表現しているのは、フリーのソフトウェアとサーバの組み合わせで実現できるスイッチもあるからである。筆者が調べた限りでは、ハードウェア製品、ソフトウェア製品とも、価格帯は大まかに1万円未満、1万~30万円未満、30万円以上の3つに分かれ、よりクリティカルな用途になるほど、高価になる。LAN同士をつなぐレイヤー3スイッチとなると、さすがに1万円以下のものは見当たらないが、ソフトウェア製品の中にはレイヤー3スイッチの機能を持ったフリーソフトも存在する。
| 価格 | 用途 |
|---|---|
| 1万円未満(フリーソフトを含む) | 小規模オフィス向け |
| 1万~30万円未満 | エンタープライズ向け |
| 30万円以上 | サービスプロバイダー、データセンター事業者向け |
量販店が販売している数千円のスイッチから、エンタープライズ向け、サービスプロバイダー向け、サーバで動作するフリー/有償のソフトウェア製品まで全てのスイッチに共通することは、上述の通り受け取ったフレームやパケットを正しく転送することである。スイッチが受け取るフレームもしくはパケットがアドレス通りに正しく転送できるかどうかをベンチマークテストすることは、ほとんどない。なぜなら、そもそもこれが実現できないようなスイッチは、製品としてベンダーからリリースされることはまずないからである。
では、上記の価格差はなぜ生じるのだろう。大きな理由の1つが、スイッチの具備するポート数とそのインタフェーススピードである。当然ながらポート数が多かったり、対応しているスピードが速ければ金額は高くなる。価格差の根拠としてはその他にも、スイッチが備えている管理機能やセキュリティ機能といった各種機能の違いがあるが、ここでは、機能差に関しては基本的に触れないこととする。あらかじめご了承いただきたい。
スイッチの転送処理には上限がある
ポート数とスピードについて話を掘り下げていく。まず、ポート数が多ければ多いほどケーブルをたくさん接続でき、多くのネットワーク機器をつなげることができる。ただし、多くつなげれば、それだけスイッチが転送しなければならないフレーム/パケットの数も増えるので、どこかでスイッチの転送処理に限界が来れば、それ以上の動作を期待できない。
この転送処理できる限界をあらかじめ知っておくことが「隠れた情報」を読み解く第一歩である。
- ポイント1:スイッチの転送処理限界を把握しておく
スイッチでは1秒に転送できるフレーム/パケットの最大個数を「フレーム転送レート」もしくは「パケット転送レート」と表現する。この数値が、スイッチの転送処理できる上限ということになる。ベンダーが発表している製品のカタログを注意深く見てみるとfps(frame per second)やpps(packet per second)という説明が書いてあることがあるが、これらがまさにフレーム転送レートとパケット転送レートに当たる。
同じフレーム/パケット転送レートを持ったスイッチに2台1組の機器が接続され、各機器が同様のデータを送受信しているケースと、5台10組の機器が接続された場合を比較してみよう。
上図の例では「100」という数値がこのスイッチの転送処理限界になっている。スイッチの能力は100で固定のまま、接続する機器を増やすと1組当たりの機器同士のフレーム/パケット転送レートが機器の数に反比例して減ることになる。
このフレーム/パケット転送レートの数値(fpsまたはpps)が大きいほど、一言でいうと「性能が良いスイッチ」となり、価格も高くなる。スイッチが具備するポート数とインタフェーススピードは製品情報として必ず提供されているので、その情報から必要なスイッチを選択してほしい。加えてフレーム/パケット転送レートを読み取ることで、皆さんの用途に適したスイッチを選択できることになる。
補足になるが、自宅やオフィス内のデスク島(10人程度までのデスクの固まり)で使用するスイッチであれば、製品を選択する際にfpsやppsを気にする必要はまずないと思う。その程度の規模であれば、量販店で販売されている安価な製品であっても十分に耐えられるだけの処理能力を有しているからだ。
フレーム/パケット転送レートを気にしてほしいのは、デスク島をまとめるスイッチや、フロア間を接続するスイッチ、外部の通信回線との接続点で使用するスイッチ、あるいはデータセンターやサービスプロバイダーの通信設備として使用されるインフラスイッチを選定するときである。
以下はあるボックス型スイッチの製品Webページから抜粋した製品のスペックである。
| ポート数 | 10ポート | |
|---|---|---|
| 帯域 | 1G/10Gbps | |
| MTU(最大転送データ長) | 9000バイト | |
| パケット転送レート | 15Mpps |
さて、このスイッチは1Gbps/10Gbpsどちらも使える10ポートスイッチで、使い勝手が良さそうである。価格も今まで検討していた他社ベンダーのスイッチより安い。では、パケット転送レートからはどんなことが分かるだろう。
この製品が有する最大のパケット転送レートが15Mppsと書いてある。これはスイッチ1台当たり1秒で1500万個のパケットを転送処理できるという仕様である。ppsは“bps”と見間違いやすいので注意してほしい。ppsは上述の通りで、bpsは光回線サービスや携帯電話のデータ通信スピードを示す広告などで普段よく目にする数値で「bit per second」つまり「1秒当たりのビット数」である。
このスイッチでは、物理ポートを10ポート具備しているが、そのうち何ポートを使おうとも、パケット転送処理の限界はスイッチ本体で15Mpps、つまり1秒当たりのパケット数が1500万個である。このスイッチを選定しようと考えている方は、それ以上の能力を期待してはいけない。
ちなみにパケット転送レートはレイヤー2スイッチの場合はフレーム転送レートと読み換えてほしい。
フレーム/パケット転送レートとスループット
フレーム/パケット転送レートは「スループット」という言葉と関係している。ご存じの方も多いと思うが、理解をより深めるために数式で確認しておこう。
フレームの長さは「バイト」で表されることが多い。イーサネットフレームの最小値は64バイト。データサイズの上限は1500バイトである。しかし、技術の進歩で1500バイト以上のデータサイズを持つフレームを転送することができるようになった。上の例のスイッチでは、MTU(最大転送データ長)で示されている通り9000バイトまでのデータサイズを持つフレームを転送できる。
フレーム/パケット転送レートは、あくまで“1秒間に転送できるフレーム/パケットの個数”である。フレームやパケットの長さは関係ない。言い換えればフレームやパケットが短かろうが長かろうが、転送できる個数の上限値はスイッチごとに決まっているのである。
例えば、上述のスイッチで全て最短のフレーム(64バイト)を転送する場合、フレームの先頭に必ず必要なプリアンブル8バイトと、最低限必要なフレーム間ギャップ12バイトの計20バイトをセットにして1秒当たりの最大送信ビット数を計算すると、
(64バイト+20バイト) × 8ビット/バイト × 1500万個 = 10.08Gbpsとなる。
全て1518バイト(※1)のフレームを転送する場合、(1518バイト+20バイト)× 8ビット/バイト × 1500万個 = 184.56Gbpsとなる。
※1 イーサネット標準で定義される最大フレーム長。データサイズの上限1500バイトにイーサネットヘッダとフレームチェックシーケンスを足して1518バイト。
全て9018バイト(※2)のフレームを転送する場合、(9018バイト+20バイト)× 8ビット/バイト × 1500万個 = 1084.56Gbpsとなる。
※2 ジャンボフレームのデータサイズの上限9000バイトにイーサネットヘッダとフレームチェックシーケンスを足して9018バイト。
このスイッチは計算上、全て64バイトのフレームがやりとりされるとした場合には10.08Gbpsのスループットを得ることができる。ここで一般的に、スイッチ全てのポートを1Gbpsで使用した場合は 1Gbps × 10ポートで、スループットの理論値は10Gbpsになる。送信と受信が同時に可能な全二重通信を採用するスイッチであれば、双方向併せた理論値は20Gbpsだ。これに対して今回のスイッチは10.08Gbpsであり、理論値である20Gbpsの50.4%のスループットまで期待できることになる。スループットの理論値に対して、期待できるスループットの割合を期待率と呼んでいる。仮に全てのフレームが1518バイトだった場合は184.56Gbpsまで処理できるので、100%のスループットを期待できる。
以下、ポートの帯域と使用ポート数に応じた1秒当たりの送信ビット数を計算する。
1Gbps × 10ポートで使用した場合
- 全て64バイトとした場合: 10.08Gbps(期待率50.4%)
- 全て1518バイトとした場合: 184.56Gbps(期待率100%)
1Gbps × 5ポート、10G × 5ポートとして使用した場合
- 全て64バイトとした場合: 10.08Gbps(期待率9.16%)
- 全て1518バイトとした場合: 184.56Gbps(期待率100%)
10Gbps × 10ポートとして使用した場合
- 全て64バイトとした場合: 10.08Gbps(期待率5.04%)
- 全て1518バイトとした場合: 184.56Gbps(期待率92.3%)
全て同じ長さのフレームだけが流れることは本来あり得ないので、あくまで計算上の説明になっているが、使用するポート構成や流れるフレーム長によって、理論値に対して期待できるスループットは大きく変わることが分かると思う。
ここまではあくまで製品の紹介ページにフレーム/パケット転送レートの情報があった場合にあらかじめ読み取れる“隠れた情報”を説明してきた。しかし、このフレーム/パケット転送レートがベンダーから公開されていない場合もある。そんなときこそ、ベンチマークテストリポートの出番となる。
ベンチマークテストリポートからスループットを読み取る前に、もう1つだけポイントを押さえてほしい。よく目にするこのスループットという言葉には、実は以下の2つの意味がある。
- フレーム/パケット損失がないときのフレーム/パケット転送レートおよびスループット
- スイッチのフレーム/パケット転送レートおよびスループット
1と2は一見すると同じことを言っているように聞こえるが、明確な違いがあるので覚えておいてほしい。より分かりやすく言うならば、1はフレーム転送失敗(フレーム損失)を1回も起こさずにできるだけ多くのフレームを転送した結果であり、2は転送に失敗するフレーム(フレーム損失)があっても、とにかく多くのフレームを転送した結果ということになる。
実際の通信を考えると、1と2は「コネクション型アプリケーション通信」において大きな挙動の違いを生む。コネクション型アプリケーション通信とはパケットが相手に届いたかどうか確認し、届いていなければ再送する通信である。つまり、2の場合は再度同じパケットを再送しなければいけない事態が発生し得るので、結果としてアプリケーションレイヤーのスループットの差が生じることにつながる(この点については別の機会にあらためて解説する)。
通常、スループットというと1の「損失が起きないときの最大フレーム/パケット転送レート」を指す。筆者が関わっている会員制検証サービス「@benchmark」でも1を採用している。読者の皆さんもスループットという結果を読み取るときに1と2どちらの結果であるかを気に掛けてほしい。
- ポイント2:スループットには2つの意味がある
次回は、実際にスイッチのベンチマークテストでフレーム/パケット転送レートを測定した結果を見ながら、リポートから読み取れる内容を解説していく。
執筆者紹介
中村彰宏 (なかむら あきひろ) 株式会社東陽テクニカ
検証用測定器のセールス、サポートを通じて測定の個別コンサルティング(プロフェッショナルサービス)を展開中。近年はIT機器ベンチマークテストサービス「@benchmark」を立ち上げパステルネットワークスと共同で運営。会員(有料)に対してベンチマークテストの実施、テストリポートの公開、技術情報の公開(リポートの活用方法、検証に関する技術情報)、コミュニティー(情報交換の場)といったサービスを提供している。
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