入試採点の効率化とペーパーレス化を実現
iPadで入試採点をより早く、正確に――洗足学園のタブレット活用術
米Appleのタブレット「iPad」を入学試験の効率化に生かすのが、洗足学園音楽大学などを運営する洗足学園だ。iPad活用の実態や導入効果について、同学園の担当者に聞いた。
洗足学園音楽大学や洗足こども短期大学を運営する洗足学園(神奈川県川崎市)は、米Appleのタブレット「iPad」とファイルメーカーのデータベースアプリケーション開発ツール「FileMaker」を入学試験業務の効率化に生かしている。その導入の経緯や活用実態について、入試業務へのIT活用を担当した洗足学園音楽大学・大学院/洗足こども短期大学 入試センターの長谷川 正樹氏と、同じく2014年3月まで入試センターに所属し、現在は洗足こども短期大学 事務局に所属する渡邊 亮氏に話を聞いた。
iPad50台を実技採点に活用
大学院から幼稚園までを擁する洗足学園。同学園でiPadを活用しているのは、そのうち洗足学園音楽大学/大学院と洗足こども短期大学だ。これらの学校の入試業務を担う入試センター向けに、第3世代iPadを50台導入。入試センターの職員がiPadを教員に配り、主に入試における実技の採点に利用している。
教員は実技試験のとき、手元にあるiPadの専用アプリケーション(採点アプリ)へ点数を入力する。すると、採点アプリが入力結果を入試関連の業務処理を担う基幹システムへと転送する仕組みだ。採点アプリには、受験生の願書をスキャンしたデータを取り込み、教員が採点時に願書情報を参照できるようにするなどの工夫も凝らす。
「読み合わせ」廃止で採点業務を効率化 ペーパーレス化も実現
教員にとっては、点数の記載先が紙からiPadへ変わっただけであり、大きな負荷軽減に結び付いているわけではない。iPadとFileMakerの導入に伴う最大の効果は、入試センターの職員の負荷を大幅に軽減できたことだ。中でも、教員が紙に記入した採点結果を基幹システムへ導入する手間が無くなったことが大きいという。
今までは、採点結果をシステムへ入力する際、OCRを使って紙に書かれた点数をデータ化していた。ただしOCRの精度は100%ではないため、入試センターの複数の職員で読み合わせをして、正確性を担保していた。
入試における実技試験は、コースによって人数は異なるものの、1人の学生に対して複数人の教員が採点に臨む。従来の紙ベースの採点方法では、採点する教員の数だけ読み合わせの手間が掛かることになる。受験生の人生を左右するかもしれないというプレッシャーもあり、職員には「心配な部分や不安な部分があった」と長谷川氏は語る。
iPadとFileMakerによる採点業務のシステム化で、教員がiPadに点数を入力するだけでシステムへの点数登録が完了するようになった。「職員は気持ち的に楽になり、時間的にも効率化された」(渡邊氏)。さらに、入試前後に長引きがちな業務時間の短縮にもつながったという。
ペーパーレス化にも貢献した。従来は受験生の数と採点員役の教員の数をかけ算した数だけ採点用紙が必要だったのに加え、受験生の願書情報も紙に印刷して教員に配布していた。採点も願書情報の閲覧もiPadとFileMakerで済ませることができるようになり、こうした紙を削減できた。
シンプルさの追求で導入のハードルを下げる
iPad導入に伴う教員の混乱はほぼ無かったという。これはiPadの操作性ももちろんだが、開発したアプリが、採点項目を選んで点数を入力し、終わったら「採点済み」というボタンを押すだけで操作は完了する、といったシンプルなものだったことが大きい。「『画面を開いて、画面の指示に従って数字を入れていけば特に問題はない』と説明するだけで、特に問題無く利用してもらえた」(長谷川氏)。
アプリの開発に当たっては、教員に試用してもらって教員からのフィードバックを受け、「ボタンの数を変更するなどユーザーインタフェース(UI)の微調整を進めた」(渡邊氏)。最終的には、余計なボタンを無くしてシンプルなUIに落ち着いた。分かりやすいUIにした方が、利用が定着するという考えからだ。
米音大の導入事例がiPad導入を後押し
同大学がiPadやFileMakerを導入するきっかけとなったのは、米マサチューセッツ州にあるBerklee College of Music(バークリー音楽大学)が同じくiPadとFileMakerを活用し、入試業務を効率化した先行事例の存在だったという。ファイルメーカーが同事例を明らかにした2012年5月の翌月である6月から導入検討を始め、2013年7月に本格利用を開始。毎年度7月に始まる定期試験に間に合わせた。
FileMakerで開発したデータベースアプリケーションはWebブラウザで利用するので、AndroidタブレットやWindowsタブレットでも利用できる。ただし、現時点では「iPadで必要なことができてしまっているので、特に他の端末に変える考えはない」(長谷川氏)という。ただし、「これから活用を進めていく中で、改善要望などが見えてくる可能性はある」(同)と指摘する。
受験準備講習会にも貢献、今後は定期試験での活用も視野
洗足学園は入試だけでなく、他の分野にもiPadやFileMakerの活用対象を広げつつある。その1つが、入試センターが洗足学園音楽大学の入学希望者向けに年4回開催する、音楽講義や実技レッスンなどの受験準備講習会だ。講習会の参加申し込みの受け付け、実技レッスンのスケジュール管理、受講生へのスケジュール案内といった機能を備える講習会システムをFileMakerで開発し、2013年の夏期受験講習会から利用している。
さらに洗足学園音楽大学では、中間試験や期末試験といった定期試験の実技試験にもiPadの活用を進めている。これは洗足学園音楽大学の基幹システム刷新が影響しているという。刷新に伴い、以前の定期試験で採点に利用していたOMR(光学式マーク読み取り装置)の関連システムが使えなくなってしまったのだ。既に入試や講習会で実績のあるiPadとFileMakerの組み合わせに白羽の矢が立ち、入試と同様の仕組みで採点業務をシステム化した。
上述の通り、iPadとFileMakerを現在活用しているのは洗足学園音楽大学/大学院と洗足こども短期大学が中心である。学園全体で導入する考えは、今のところないという。例えば、洗足学園中学校・高等学校には入試に実技試験が無いなどの違いがあり、洗足学園音楽大学と同じ仕組みを全学にそのまま広げるのは無理がある、という判断からだ。ただし、洗足学園音楽大学と同様に学期末ピアノ実技試験を実施している洗足こども短期大学であれば「一緒の取り組みとして進めやすいのではないか」と渡邊氏は見ている。
iPadやFileMakerといったIT製品を生かす洗足学園。既に業務効率化やペーパーレス化への貢献といった効果は得ているものの、活用をさらに進めるには「IT製品をうまく使える教職員が増えることが大切だ」と長谷川氏は指摘する。上述の通り、iPadやFileMakerの導入に伴ってそれほど大きなトラブルはないものの、操作に不慣れな教職員も少なからず存在することも事実だという。
渡邉氏は、「まずはIT製品に慣れてもらい、利用が広がればいい」と考えている。IT製品に慣れた教職員が増えた結果、「全体的な活用が進み、活用方法についていろいろな意見が出ることを期待している」(同)。こうして出てきた意見から、IT活用の次の一手を打つヒントが得られるかもしれない。
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