ベンチマークテストでうまくいくネットワーク機器選び【第3回】
スループットの計測はテストの前提条件に注目せよ
カタログ情報だけでは分からない製品の本当の実力を見抜くため、重要な手掛かりとなるのがベンチマークテスト。今回はテストの方法とともに実測したスループットの読み方を解説する。
スイッチの能力を測る主な指標は「スループット」と「レイテンシ(遅延)」だ。前回「スイッチに期待できる能力をスペックの行間から読み解く」で説明した通り、スループットとは、転送時にフレーム/パケットの損失がないときの最大転送レートのことをいう。レイテンシはパケットの転送にかかる時間と考えればいいだろう。今回はまず、テストリポートからスループットを読み取る際のポイントについて解説する。
連載:ベンチマークテストでうまくいくネットワーク機器選び
ベンチマークテストの方法
まず、実際にベンチマークテストがどのように行われるか紹介しよう。ベンチマークテストには専用の測定器を用いる。図1を見てほしい。
図1中の「DUT」とはDevice Under Testの略で、試験対象装置のこと。今回はスイッチがそれに当たる。「Gig1」「Gig2」はそれぞれ、スイッチが持つギガビットポートの1番ポートと2番ポートを指す。スイッチはGig1とGig2を通じて、テストを行う測定器とケーブルで接続されている。
測定器はテスト用のフレーム/パケットを作成し、スイッチに送信する。そして、スイッチから返ってくるテストフレーム/パケットを受信してフレーム/パケットのロス(損失個)数やレイテンシ、到達順番の変化などを測定・記録する機能を持つ。
送信するフレーム/パケットのレートはユーザーが任意に設定・変更できる。この測定器を使って、あるスイッチのレイヤー2スループットテストを行った際の測定結果が、図2である。
図2の水色の棒グラフは、64~1518バイトの長さを持つフレームを、それぞれ測定器からできるだけ多く送信し、どれだけのフレームを転送したかを記録したものだ。
フレームが短ければ1つのフレームで運べるデータ量は少なくなる。故に、多くのデータを運ぶためには多数のフレームを転送する必要が生じる。反対に、フレームが長ければ1つのフレームで運べるデータ量は多くなる。そのため、スイッチが転送すべきフレーム数は少なくなる。最も短い64バイトのフレームがたくさん転送されているのはそのためである。
青色の折れ線グラフは、スイッチがフレームを1つも廃棄せずに転送できた割合を示す。ここでは、全てのフレーム長について、ギガビットポートで100%のスループット(ギガビットワイヤレート)という素晴らしい結果を残した。
テストの前提条件をそろえることが重要
リポートを見る際に理解しておきたいのは、それがどの機器をどのような状態で試験した結果であるかという前提条件だ。
図2に「RFC 2544」と記されていることに注目してほしい。インターネット技術に関するさまざまな決まりごとを推進するIETF(Internet Engineering Task Force)という国際任意団体がある。ここで検討された内容が公表される際に用いられる一連の文書がRFC(Request For Comment)であり、RFC 2544はその1つである。
RFC 2544においてはスループット試験手法が以下の表1のように定義されており、これこそが事実上の標準試験になっている。RFC 2544で定められた通りに実施されたテストの結果は「RFC 2544スループットテストの結果」として宣言することができる。
ベンダーが製品カタログに自社製品の優位性を強調するために、何らかのテスト結果を公開することはよくある。だが、実際には独自のテスト手法を採用していることも少なくない。
もし複数の製品のスループットを比較する場合、テスト内容が共通でなければ、テスト結果の比較ができない。つまり、RFC 2544は、ネットワーク装置のスループット性能を比べる際の共通した指標となるわけだ。
筆者が従事している「@benchmark」というテストリポート作成サービスでは、DUTの種類別にRFC 2544試験を実施しており、テスト結果にはRFC 2544テストであることを明示している。読者の皆さんもテストリポートを見る際に注意してほしい。
続いて構成を少し変更して、今度は同じスイッチのレイヤー3スループットテストを実行した結果を見てみる。図4を見てほしい。
図4は一見すると図1とほとんど同じに見えるかもしれない。だが図1ではGig1とGig2というスイッチのLANポートを使用しているのに対して、図3では同じスイッチのGig7のLANポートとGig8のWANポートをそれぞれ測定器とケーブルで接続している。
企業のネットワークでは通常、LANポートは社内の通信、WANポートはオフィスからインターネットへ出ていく境界のポートとして動作している。WANポートはLANポートと同様のフレーム転送以外にも、インターネットへの通信を行うためにさまざまな仕事をしているので、どうしてもスループットが下がる傾向にある。その傾向をスループットテストの結果から見てみよう。
図5がスイッチのレイヤー3スループットテスト結果だ。青色の棒グラフと水色の折れ線グラフの形状が図2のそれと明らかに違うことが分かる。また、左に示したfpsの数値の違いにも注目してほしい。
1024バイトより長いフレームでは、スイッチのフレーム転送能力(fps)の方が上回るためフレームが1つも廃棄されることなく全て転送され、テスト結果として100%のスループットを記録している。フレーム/パケットが短いときはスループットが低く、長いパケットのときに100%スループットとなるのは、前回「スイッチに期待できる能力をスペックの行間から読み解く」で説明した通りである。
このグラフからは、以下の2つのことが分かる。
- Gig7のLANポートから入ってGig8のWANポートへ流れるフレームは双方向でスループットの上限が約30万fpsで頭打ちとなる
- フレーム転送レートが同じならフレームの長さが短い方がスループットは低い
図2ではGig1のLANポートから入ってGig2のLANポートへ流れるフレームの双方向スループットの結果で、LANポート間のフレーム転送となるためスイッチの高速ハードウェア処理によりフレームの長さにかかわらず100%スループットとなった。一方、Gig8のWANポートでは、ルータとして動作するためスイッチ内部でソフトウェア処理が加わり、このようなスループットの低下が起こる。
スイッチが使用するポートや機能、設定によりスループットが変わるという点まではカタログに記載されないので、十分に気を付けたいところだ。
iMIXでのテスト実施有無
なお、図5の「1518バイト」の文字の右側に「iMIX」という見慣れない言葉が出てきたので補足する。iMIXはInternet Mix Trafficの略で、複数の長さのパケットをミックスさせたものである。
実際にはインターネットを流れるフレーム/パケットの長さはさまざまで、全て同じ長さであることは、ほぼあり得ない。つまり、特定の長さのフレームだけでなく、複数の長さのフレーム/パケットをミックスさせたパターンで試験をしておくことで、実際の利用環境に近い結果を測定することができる。
iMIXにおいては、フレーム/パケットの長さの種類と比率を自由に定義できるが、iMIXを使う場合は必ずその定義を示さなければいけない。@benchmarkでは以下のようなフォーマットでiMIXパターンを明記している。
| iMIXDistrubution | Ethernet Size(byte) | Weight | Percentage(%) |
|---|---|---|---|
| Short | 64 | 7 | 58.33 |
| Mid | 570 | 4 | 33.33 |
| Long | 1518 | 1 | 8.33 |
| iMIXパターンの定義例(@benchmarkの場合) | |||
64バイト、570バイト、1518バイトのフレーム/パケットを、それぞれ58.33%、33.33%、8.33%の割合でミックスし、iMIXパターンとしてテストしているというわけだ。図5ではiMIXにおいては、50%弱のスループットとなることが読み取れる。これはGig8(WANポート)の転送レート制限によるものだ。
上述の通り、図1と図4のテスト構成は非常に似ているが、使用しているスイッチのポートが違う。そして、図2と図5を見ると結果は明らかに異なる。
読者の皆さんに覚えていただきたいのは、図5こそベンチマークテストで初めて知ることになるスイッチのパフォーマンスである、ということだ。
一般的にスイッチの製品カタログに記載されるのは図2のテスト結果だけだ。それをもって「100%のスループット」と表記するのは間違いではないものの、実際にインターネット通信をする場合のパフォーマンスとは異なることが多い。
カタログに記載されているパフォーマンスデータはどのポート、機能の数値であるか見極める必要がある。図5のテスト結果こそ、本来知っておくべく数値である。
例えばこのスイッチを使用してインターネット回線に接続し、支社間のデータ通信で使用するとしよう。やりとりするパケットの長さによっては回線のギガビットよりもはるかに低い性能しか出ないことが、このリポートを読むだけで分かるだろう。購入前にそれを知っておくことがどれだけ役に立つか、IT担当者ならお分かりいただけると思う。
まとめ
- ネットワーク装置のスループット測定手法はRFC 2544で定義されている
- スイッチのポートや機能、設定によりスループットが変わることがある
- iMIXとは複数のフレーム/パケットの長さを混在させたときのモデルであり、リポートを読む際は、iMIXでのテスト実施有無と、使用したiMIXパターンを確認する
前回から2回にわたり、スループットの観点からベンチマークテストリポートの読み方を説明してきた。
次回はスイッチがフレーム/パケットを転送する際にどうしても必要になる処理時間=レイテンシにフォーカスしてみたいと思う。
昨今、低処理遅延を製品の特長とする製品が多くのベンダーからリリースされている。その背景にも触れながら分かりやすく解説していく。
執筆者紹介
中村彰宏 (なかむら あきひろ) 株式会社東陽テクニカ
検証用測定器のセールス、サポートを通じて測定の個別コンサルティング(プロフェッショナルサービス)を展開中。近年はIT機器ベンチマークテストサービス「@benchmark」を立ち上げパステルネットワークスと共同で運営。会員(有料)に対してベンチマークテストの実施、テストリポートの公開、技術情報の公開(リポートの活用方法、検証に関する技術情報)、コミュニティー(情報交換の場)といったサービスを提供している。
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