米国の代表的な事例を紹介
エボラ熱の発生を検知、「医療ビッグデータ」活用の最前線を見る
医療費を引き下げるには、機械学習や患者エンゲージメントなどの技術が効果的だ。集団健康管理(PHM)に寄与できるこれらの技術をどう活用すべきか。実際の活用事例を見ていこう。
医療費の増加は近年、多くの政治運動の焦点となり、医療改革の原動力となっている。医療費が持続不可能な勢いで増加している背景には、医療費のかさむ慢性病患者が多いという現実がある。米疾病管理予防センター(CDC)によると、慢性病患者の治療費は米国の年間の医療費総額2兆ドルの約75%を占めている。
医療ITの変革には、連邦政府と州政府、医師、その他の医療事業体、患者など全てが関係している。医療業界はデジタル化に踏み出し、電子カルテ(EHR)、医療情報交換(HIE)、モバイル医療(mHealth)アプリなどの採用も進んでいる。だがこうした変化は「治療結果を改善し、医療費を削減する」という患者や医療提供者の望みを満たすには至っていない。そのため、医療関係者はいまだに、技術革新を活用してより少ないコストで集団の健康を管理するための方法を模索している。
データアナリティクスと機械学習は、事業者らが集団健康管理(PHM:Population Health Management)データの処理に活用できる手段であり、これらを活用して以下のように重要な洞察を引き出すことができる。
1. 感染病の発生を早期に発見
最近のエボラ出血熱の大流行で、致死率の高いこの感染症に世間の注目が集まった。メディアの過熱報道は、過剰な反応を引き起こしたと同時に、早期発見の重要性を強く認識させることにもつながった。機械学習などの技術を使って病気を早期発見段階で分析できれば、患者集団にとっては死亡率の低下と医療費の抑制というプラスの効果がある。高度な分析技術を使えば、米疾病管理予防センターなど公共の医療健康機関は病気の拡散を阻止するための対策を早急に講じられる。米国防高等研究計画局(DARPA)の推計によると「感染症の発生を検知して公共機関が対応するまでの日数を2日間短縮できれば、死亡者数を6分の1に減らせる」という。
機械学習は、データサイエンスの1分野であり、高度なアルゴリズムとコンピューティングシステムを使ってデータを処理し、予測や分析を行うための技術だ。機械学習は長年、金融系のモデリングに使われてきたが、新たに医療分野でも活用され始めている。
2. メンタルヘルスとプライマリケアの統合
慢性病患者の治療結果の改善とメンタルヘルスとの関連性は、研究によって認められている。その結果、総合的な患者データと治療計画にメンタルヘルスのデータを組み込むための取り組みも各種進められている。医療ITシステムの相互運用性の確保を目指す全米医療IT調整官室(ONC)のロードマップには、電子医療記録の保管をめぐる変更の詳細が記され、患者の電子カルテには関連の健康データを全て含めることが定められている。IT業界では、スマートフォンでの行動分析に基づく健康サービスを手掛ける米Ginger.ioが、患者自身が申告するデータとモバイルデバイスから収集する感覚データを集めて医療提供者向けの製品を発表している。この製品は、精神的ストレスや身体的ストレスの警告システムとして機能する他、単に患者をモニターするための新たな手段としても活用できる。
3. 予防医療をサポート
医療費の削減には、公共セクタも民間セクタも躍起だ。医療の質の評価で主要なパフォーマンス指標を満たせなければ、医療提供者は支払保険料の上昇だけでなく、罰金を科される可能性にも直面する。
患者も医療提供者も医療費の増加は避けたい。新興企業にとってこうした状況は、患者が自身の長期的な健康管理や病気予防にもっと積極的に関与できるような新製品を開発するチャンスだ。米IBMのスーパーコンピュータ「IBM Watson」によって動作する米Welltokの「CafeWell Concierge」など、患者の健康やライフスタイルに関するデータを追跡し、パーソナライズされた健康目標の達成を奨励する患者エンゲージメントプラットフォームも登場している(関連記事:スパコン「Watson」が教える医療ITの成功法則)。
集団の健康には政策や健康習慣、治療法、疾病予防の研究など、多数の要因が影響を及ぼす。ビッグデータ、人工知能(AI)、機械学習、先進アナリティクスなどの最新技術を活用すれば、集団健康の改善に役立つはずだ。今後、医療分野でデータサイエンスの活用が進むにつれ、データの価値は急激に高まり、ひいてはそれが長期的な医療費削減に寄与することになるだろう。
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