「大学改革セミナー」リポート
共愛学園前橋国際大学が開発する“公開履歴書システム”の中身とは?
「アクティブラーニング」などの学習スタイル変革は、全ての学生に効果があるのか。それを検証し、かつ学生の成長内容を蓄積した“公開履歴書”の構築を進める共愛学園前橋国際大学の取り組みを紹介する。
群馬県前橋市の共愛学園前橋国際大学は1999年の開学以来、学生の満足度や学習の質を向上すべく、IT活用をはじめとするさまざまな取り組みを推し進めてきた。2010年度には学生や教職員に米Appleの音楽プレーヤー「iPod touch」やタブレットの「iPad」を導入したり、学生の主体的な学習を促す「アクティブラーニング」を推進するなど、その内容は多岐にわたる。
そんな中、共愛学園前橋国際大学は1つの疑問に突き当たる。これらの取り組みは、学生に本当にメリットをもたらしているのか――。端末導入や学習スタイルの変革は確かに華々しいが、それが実際に学生の基礎学力やコミュニケーション力などの向上につながらなければ意味が無い。学生にとっても、多くの活動をこなしたものの、自分が活動を通してどう成長したのか分からなければ、就職活動などでもアピールのしようがない。
共愛学園前橋国際大学はこうした状況を踏まえ、自らの取り組みが学生に及ぼす影響の可視化にとどまらず、学生1人ひとりの成長内容を企業などの学外にも開示できるようにする計画を進めている。その内容とはどのようなものなのか。内田洋行が2015年4月に開催した大学関係者向けイベント「大学改革セミナー」で講演した、共愛学園前橋国際大学の大森昭生副学長の話を基に紹介する。
学生の93%がアクティブラーニングを体験
共愛学園前橋国際大学は、国際社会学部 国際社会学科の1学部1学科のみの単科大学だ。入学定員は1年次225人、収容定員910人の小規模大学である。その規模の小ささを生かし、ここでは大学の方向性を決める意思決定は教授会ではなく、全教職員がそろうスタッフ会議に委ねられている。そのため、「学長のガバナンスやリーダーシップが非常に利いている」と大森副学長は語る。学生の85%が群馬県出身で、卒業生の70%が群馬県内に就職するなど、地元に根ざした大学でもある。
そんな共愛学園前橋国際大学は、上述の通りIT活用やアクティブラーニングなどの学習改革に力を入れてきた。特にアクティブラーニングに注力しており、アクティブラーニングの専用施設としてアカデミックコモンズの「KYOAI COMMONS」を設立。教員にも講義でのアクティブラーニングの実践を促し、「93%の学生が何らかのアクティブラーニングを経験して卒業していく」と大森副学長は説明する。学生はその一環として、地元の中学生の海外研修を引率したり、海外の現地法人でビジネスミッションをこなしたりと多彩な活動を体験しているという。
「いろいろやっている」だけではいけない
学生に多彩な経験の機会を与えてきた共愛学園前橋国際大学。大森副学長は「やるべきことをたくさんやってきたという自負はある」と語る一方、「正直なところ、今まではただ『やっているだけ』だったといわざるを得ない」と明かす。各活動が学生にとって効果をもたらしたかどうかは、教員が感覚的に理解するのにとどまっていたという。「海外研修などの活動から帰ってきた学生は目が輝いているし、プレゼンも上手にできるようになる。教員はこうした様子を見て、『学生が成長した、よかった』との感覚を抱いていた」(同)
だが大森副学長は「もう1歩先に進まないといけない時期が来た」と語る。その背景には、少子化などによる学生獲得競争の激化がある。大学にとって、入学希望者を送り込む高等学校に、自らの取り組みの効果を裏付けのある形でアピールすることは重要な要素となるという。「高等学校の教員に、『うちはこれだけやっていますよ』と言うだけでは足りない。その結果として『学生にこのような力を付けています』と言えないといけない」(大森副学長)
学生にとっても特に就職活動では、自らの能力や可能性を具体的に説明できる必要がある。「面接のとき、学生が『こんなに厳しい研修に参加しました』と言ったところで、企業の人事担当者にとっては『だから何?』となる。学生が本来主張すべきなのは、『私はこれができるようになりました』といった自らの成長のはずだ」と同副学長は強調する。学生の好調な就職実績は大学にとっても、新規学生獲得に当たって重要な要素となる。
共愛学園前橋国際大学はこうした状況を受け、動き始めている。教育改革を進める大学を支援する文部科学省のプログラム「大学教育再生加速プログラム(AP: Acceleration Program for University Education Rebuilding)」に採択され、アクティブラーニングの実践に加え、その効果を可視化するなどの取り組みを進めている。
「ディスカッションは集中度が高まる」は必ずしも正しくない
そして、アクティブラーニングの効果を検証したところ、意外な事実が明らかになったという。
アクティブラーニングの一形態として、従来型講義とディスカッションを組み合わせる方法がある。単純に考えれば、受け身型である従来型の講義よりも能動的な参加が求められるディスカッションの方が、学生がアクティブに活動し、集中力や理解力も高まると判断しそうだ。
だが本当にそうなのか。共愛学園前橋国際大学は、英語を使ったアクティブラーニングを実践する実際の講義で学生にアンケートを取り、その効果を検証した。アンケートには、教員の質問に対して学生がリアルタイムに回答できるシステム「クリッカー」を利用し、従来型講義とディスカッションの双方で、集中度や理解度を聞いた。
その結果、多くの学生は従来型講義よりもディスカッションの方が集中度や理解度が高いかほぼ横ばいとなり、全体的には想定通りの結果となった(写真1)。ただし、一部の学生については、従来型講義よりもディスカッションの方が、集中度が大幅に低くなっていたという。
他の講義でも同様の調査を実施したところ、やはり同様の学生が一定数存在することが分かった。「皆でわいわいと進めるディスカッションにはついていけないと感じたり、基礎事項の理解が十分でないなどの理由で、なかなか集中できない学生がいる」と、大森副学長は語る。
「ディスカッションやグループワークは、知識が定着するよい取り組みだ」と思って実践している教員は少なくないだろう。実際に、多くの学生にとっては想定通りの効果がある。ただし、必ずしも全学生に同じ効果があるわけではないことが、検証を通じて理解できたと大森副学長は説明する。「集中度が低い学生がいるグループにはティーチングアシスタント(TA)を付けたり、理解度が十分でない学生を集めて事前学習の教材を渡すなど、学生1人ひとりに合ったアクティブラーニングの質保証を考える必要がある」(同副学長)
アルバイトも含め学生の活動を集約した“公開履歴書”構築へ
共愛学園前橋国際大学は、こうしたデータ活用を今後も推し進める。注目すべき取り組みの1つが、学生に関するさまざまな情報を外部公開する「ショーケース」と呼ぶシステムだ。
ショーケースの大まかな仕組みは次のようになる。講義や海外研修に加え、部活動やアルバイトを含む学内外の活動履歴を「ポートフォリオ」として学生ごとに蓄積。ポートフォリオの中から必要な情報を取捨選択し、自己PR文などを含めた“公開履歴書”として公開する。これはもちろん、企業の人事担当者が就職活動時の学生評価の参考情報として活用することを想定する(写真2)。
「学内外を含め、全ての活動がその学生を作っていく。各活動に参加した上で、そこで自分は何を学んだかをきちんと振り返る癖を付けてもらい、自己プロデュースができるようになってほしい」と大森副学長は語る。ショーケースは、現在はポートフォリオからのデータ取得方法やセキュリティ対策などを検討しつつ開発が進められているという。
アクティブラーニング導入をはじめとする学習活動の多様化だけで終わらず、学生1人ひとりに与える効果や質を可視化する。学生の成長や就職の成功を経営課題と捉え、データやシステムを活用して成長を把握しやすくし、就職活動のツールとしても生かせるようにしていく。こうした共愛学園前橋国際大学の取り組みは、大学だけでなく多くの教育機関の参考になるはずだ。
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