教育ITキーワード解説
大学が世界で勝ち残る秘策、「大学マーケティング」とは?
米国を中心に、マーケティングを大学の課題解決に生かそうという「大学マーケティング」が広がりつつある。大学マーケティングに注目すべき理由や実現のためのシステムを整理する。
需要拡大や市場創造のための活動であるマーケティングに、大学が挑む――。米国を中心に、こうした「大学マーケティング」と呼ばれる動きが広がりつつある。大学間競争が世界規模に広がる中、大学を取り巻く課題の解決策として、マーケティングを積極的に生かそうという取り組みだ。
大学マーケティングに注目すべき理由とは何か。そのために必要となるシステムとは。米Adobe Systemsでグローバルの文教市場を統括する、World Wide Education & Government担当シニアディレクターのトレバー・ベイリー氏と、アドビシステムズのマーケティング本部教育市場部担当部長の増渕 賢一郎氏に話を聞いた。
大学マーケティングとは:人材獲得のグローバル化で勝ち残る策
その名の通り、大学が進めるマーケティング活動を指すのが大学マーケティングだ。利用する手法は、企業のマーケティングと基本的には変わらない。
大学マーケティングの目的は幾つかある。特に、「優秀な“トップレイヤー”の学生や教員を引きつけるために、大学マーケティングの重要性が高まっている」とベイリー氏は語る。その背景にあるのは、大学間競争のグローバル化だ。優秀な学習者は、国内に目指すべき大学がなければ海外へと視線を向ける。教員も、より充実した研究環境や待遇が得られる大学が他国にあるのであれば、自国の大学に固執する必要はない。ただし、「そもそもグローバルに認知されている大学でなければ、こうした人材からは選ばれない」(同)。
グローバルの視点だけではなく、「大学が拠点を置く地域社会に対して、自らが何をしているのかを説明することも重要だ」とベイリー氏は説明する。入学希望者だけでなく、在学中や卒業した学生に対する情報発信も大切だ。「今キャンパスで何が起きているのか、学生は卒業後何をしているのかなどの情報を積極的に広く提供する必要がある」(同)。大学の重要な運営資金の1つである、寄付金の確保にも影響するためだ。
国内の大学にとっては、少子化の進行や大学間競争の激化に伴う大学入学者数の減少を食い止めるための策としても、大学マーケティングは有効な手段となり得る。
最新動向:「デジタル」が主戦場に
大学マーケティングを進める上で重要性が高まっているのが、Webサイトやソーシャルメディアなどのインターネットメディアを舞台としたデジタルマーケティングである。「従来のテレビや新聞、ラジオといった媒体や独自の出版物に加え、『Facebook』『Twitter』をどうマーケティングに生かすかが重要となる」(ベイリー氏)
ベイリー氏は、大学がデジタルマーケティングに取り組む上で、以下の3つがポイントになると指摘する。
- パーソナライズ
- リアルタイム
- モバイル
1つ目のパーソナライズは、大学の公式サイトを訪れた1人ひとりが最も必要とする情報を提供することだ。例えば留学希望者は、インターネットで情報収集することも多いだろう。IPアドレスなどの接続情報を使い、大学の公式Webサイトの訪問者が海外からアクセスしていると分かれば、その訪問者は留学希望者である可能性がある。こうした訪問者には、留学生向けプログラムの案内を優先して示すといったことが実現できれば、「留学希望者に、留学生の受け入れ体制があることをより印象づけることができる」(ベイリー氏)。
2つ目のリアルタイムは、情報の表示と意思決定の迅速化である。「Webサイトの内容が人の心をつかむかどうかは、1、2秒で決まってしまう」(ベイリー氏)。1つ目のパーソナライズとも関連するが、「1人ひとりに特化した情報をアクセス直後から示すことが重要になる」(同)。
「デジタルマーケティングをリアルタイムの意思決定に生かすことも重要だ」とベイリー氏は指摘する。「今までのマーケティング手法では、意思決定に必要な情報を収集するのに時間がかかった。デジタルマーケティングでは、データの活用で、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかが即座に分かる」(同)
3つ目のモバイルは、今や学習者の必需品となったスマートフォンなどのモバイル端末を積極的に活用したデジタルマーケティングの展開である。「家のテレビ画面をスワイプしようとする子どもがいるほど、学習者にとってタッチ画面付きのモバイルデバイスは一般的になった。モバイルデバイスが持つマーケティングの可能性を最大限に生かすべきだ」(ベイリー氏)
1つの策としてベイリー氏が挙げるのは、モバイルアプリケーションの提供である。モバイルアプリ提供の効果は、「学習者の興味を引き、ブランドの影響力を高めることができることだ」と同氏は説明する。「Google Play」「App Store」といった主要なモバイルアプリマーケットは、基本的には全世界にモバイルアプリを提供できる。「モバイルアプリがうまく受け入れられれば、大学の知名度をグローバルで高めることができる」(同)
データ活用に向け産業界からの人材引き抜きも
米国では、データを大学マーケティングに生かすために、産業界からの人材獲得に動く大学も増えつつあるという。「ソーシャルメディアを熟知した専門家や、統計学や分析のスキルを持つ人材を産業界から引き抜く動きが広がりつつある」とベイリー氏は説明する。
実現を支援するIT:中核となるシステム要素は6種
上述の通り、大学マーケティングは特別なマーケティング手法を使うわけではなく、大学マーケティングの支援に特化したIT製品/サービスがあるわけでもない。既存の企業向けに提供されているデジタルマーケティングツールが、大学マーケティングでもそのまま有効活用できる。
上述した3つのポイントを押さえた大学マーケティングを進める際、中核となるシステム要素として、Adobe Systemsは以下の6種を挙げる。これらを包含するツールとしては、同社が提供するマーケティング支援SaaS群「Adobe Marketing Cloud」などがある。
- 顧客データの分析(Webサイト訪問者の閲覧行動の分析など)
- コンテンツ管理(Webコンテンツの作成、管理、配信など)
- テスト/ターゲティング(コンテンツのパーソナライズなど)
- ソーシャルメディア管理(投稿作成や会話の監視など)
- 広告管理・最適化(効果予測やキャンペーン運用支援など)
- クロスチャネルキャンペーン管理(適切なチャネル選択の支援やメッセージ配信など)
普及状況:国内での浸透はこれから
国内の大学では、大学マーケティングはどの程度普及しているのか。増渕氏は、「高校での出張授業やオープンキャンパスなど、従来のアナログな取り組みを中心に据えている大学がまだ多い」と指摘。ソーシャルメディアをはじめ、インターネットメディアを使った情報発信に取り組む大学は多いが、上述した3つのポイントを押さえた大学マーケティングの普及はこれからだという。
世界的に見ても、先駆的な大学マーケティングを進めている大学は、海外から多くの学生が集まる米国の大学など一部に限られる。歴史が長いわけでもなく、確固としたベストプラクティスがあるわけでもない。誰がイニシアチブを取るのか、実作業はどの部署が担当するのかといった組織的な課題もある。こうした状況を踏まえると、国内の大学が大学マーケティングの取り組みをこれから本格化させたとしても「具体的な成果が出るまでには、少なくとも3年はかかる」というのが増渕氏の見方だ。
少子化にグローバル競争と、大学が対処すべき課題は多い。こうした課題を解決する手段として、国内でも大学マーケティングに取り組む動きは遅かれ速かれ広がるだろう。今は具体的な取り組みが始まっていないとしても、大学のIT担当者にとって、大学マーケティングを見据えたシステムの検討を進めておくことは意味があるはずだ。
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