J-SUMMITS 連載コラム「電気羊はユーザーメードがお好き!?」
医師にも“やさしい”電子カルテへの改善のススメ(2/2 ページ)
“やさしさ”に包まれたなら
さて、電子カルテを使えば、診察開始から終了までの時間を短縮できるだろうか?
もちろん、患者との会話や必要な問診、身体診察、説明に必要な時間を短縮するべきでないのは、電子カルテであろうと紙カルテであろうと同じである。変化が少ない患者の診察の場合、電子カルテは効率的で有用である。前回の検査指示、処方記録を基に「Do処方(前回と同じ処方)」ができ、カルテの記載もコピーして前回からの変化を書き込めば終了するなど2回目以後の診察は早い。経時的な変化を把握する意味で、安定した症例ではカルテのコピー機能は有効である。問題は、初めて来院する患者の診察、診察室に入って初めて判明する通常と異なる状態の患者の診察である。こうした予定外や変化しているケースでは、診察に時間がかかるため、待ち時間は次第に延びていく。
電子カルテは、同じ操作を繰り返し実行することに関しては効率的であり、幾つかのクリックと入力操作で診察を終了することができる。患者にもスタッフに対しても優しい笑顔を提供できる。ところが、例外に遭遇すると、マウスを操作する手は右往左往、キーボードもたくさん使うことになる。既にせっかちな私の診察室のキーボードは2代目となった。
一方、マウスの使い勝手も重要である。システム更新当初は、当院でもクライアントPC付属のマウスを使用していたが、これが何ともいただけない。自分の思い通りに動かないのである。クローズドボックスから狙いがはずれたり、クリックするタイミングがずれると既に記載したテキストが消えてしまったりして閉口した。また、マウスの中央に位置しているスクロールホイールをうまく使えると閲覧が高速になる。展開されるウィンドウの広さは決まっているので、はみ出した部分を閲覧するにはスクロールすることになる。当初は、スクロールホイールが一部のウィンドウしか機能せず、的を外しがちなマウスでスクロールバーを操作していたのである。こうしたイライラは、正確でちょっと高級なマウスへの交換と、全てのウィンドウでスクロールホイールが使用可能となるように改修してもらうことで解消した。
例外に出会ったときに重要なのは、使用頻度が低い処理や機能、オーダ項目を素早く探し出すことができ、かつ直感的に操作を完了できることだ。それには優秀な検索機能と分かりやすいインタフェースが必要となる。アイコン表示や右クリックした場合の名称、配置、動作に対して一貫性が乏しいと無駄が生じる。例えば、こちらの思いは「中止したい」なのだが、相手からは削除、中止、取り消しと三択を迫られたりする。正しく終了するまで、何度もやり直しを求められる。電子カルテベンダーには、操作者の意図を一回で実現してくれるインタフェースを求めたい。オーダなら、ステータスにかかわらず、中止だけで後はお任せで処理して欲しい。それにはベンダーの努力はもちろんのこと、複雑な運用を回避する院内調整も必要となる。検索語の設定も、院内でフィードバックを継続する仕組みを求めたい。
先日、医事課職員に問い合わせた結果「2型糖尿病」の病名をやっと見つけることができた。「ニガタ」で見つけられずこれまで敵前逃亡してきたのだが、「2ガタ」で検索できることが分かった。病名だけでなく、検査項目など英数混じりの内容は多い。医療職はとても我慢強いので、2、3回裏切られただけでは不満や改善を訴えないのだ。操作者からの要望に対して、医療情報部を中心に積極的な対応を求めたい。
私はタッチタイプが苦手なので、会話しながら、あるいは患者さんの顔を見ながらキーボード入力ができない。きっと診察時間が延びてくると、言うことを聞かない相手を前に、ひきつった顔をしているに違いない。優しさを感じない表情をしていると思う。病歴をはじめとして、診察所見やアセスメントなど私たちの診療科(総合内科)で記載するカルテはとても長い。指導者としてカルテ記載をきちんと行わない限り、若手の医師にアセスメントを含む記録の重要性を伝えることはできない。外来ではそれを短時間で、完了しなければならないのである。
加藤先生が“やさしさの源”として例示している文字入力支援ソフトウェア「Input Method(IM)」は、スムーズな診療を求めるとしたら、なくてはならないツールといえる。当院でも電子カルテの導入とともに、医師からの要望が強かった医療辞書と個人辞書の配信を実現した。どこからでも電子カルテへアクセスできる環境、すなわち複数端末を利用する環境を前提に考えると必須の機能だといえよう。高齢者では10種類前後の薬剤を内服していることは珍しくない。他院での内服情報の把握は、治療方針の決定や有害事象を回避する上でも重要である。内服薬が多いとお薬手帳があったとしても商品名、一般名、後発薬名称が混在して記載されているため、内服薬をカルテに転記するだけで何分も時間がかかる。医療辞書があれば、数文字の入力で適切な薬剤名の候補を提示してくれるのでとても効率的である。
医療用語に関しても、すぐに見つからないと変換候補を探すためにスクロールする時間と候補になく徒労に終わる脱力感が増加する一方、カルテを記載する気力は減少する。カルテ記載はワープロ入力そのものであり、どの端末を操作しても、同じ入力環境を提供できるシステムは使いやすい。
“やさしさ”がもたらす物
マウス操作、直感的インタフェース、文字入力支援ソフトを代表とするIMへの投資は収入につながらないものと思われがちだが、医師を中心に電子カルテを扱う全てのスタッフの“やさしさの源”であることは間違いない。患者への優しさを求めるなら、職員にも“やさしい”労働環境、そして電子カルテへの有用な投資は惜しんではならない。
“やさしさ”に包まれたなら、きっと優しくなれると思う。
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