「Googleは石橋をたたいて渡るような企業ではない」
Googleの「Alphabet」設立に見る、イノベーションとギークの在るべき姿
米Googleが新たに設立したAlphabet Inc.は、企業のイノベーション文化を持続することを目的としている。テクノロジー業界にとって、この動きは果たしてどのような意味があるのだろうか。
米Googleに組織再編をちゅうちょする考えはない。たとえそれが、自社自身を全面的に見直すことになってもだ。同社は先日、組織を再編して持ち株会社制に移行すると発表した。主力のインターネット事業をベンチャー事業などから分離し、今後は全ての事業を「Alphabet Inc.」と呼ばれる新会社の傘下で運営する。非常に大きな変更だが、Googleは石橋をたたいて渡るような企業ではない。
「企業は時間とともに同じことの繰り返しに慣れていき、変化のスピードは緩やかになりがちである。われわれは長い間そう考えてきた。だがテクノロジー業界では、革新的なアイデアが次の大きな成長領域を切り開く。この業界で生き残るためには、あまり落ち着き払っていてはいけない」とGoogleの共同創業者であるラリー・ペイジ氏はブログ投稿で述べた。
ペイジ氏はAlphabet Inc.の最高経営責任者(CEO)に、同じく共同創業者のセルゲイ・ブリン氏は同社社長に就任する。Googleの新CEOにはスンダー・ピチャイ氏が抜てきされた。
「ペイジ氏は管理者や官僚の在るべき姿について、いつもいら立ちを覚えていた。そういった点からCEOを務めたが、根はイノベーターなのである。今回の組織再編によって、CEO職に関する心配事の大部分をピチャイ氏に移すことができる」と調査会社の米ガートナーでアナリストを務めるトム・オースティン氏は話す。
新たな組織構造の下、中核となるGoogleの製品とサービス(検索、Chrome、Google Maps、Gmail、YouTube、Androidなど)は今後もGoogleブランドで提供する。“moonshot”プロジェクト(Life Sciences、Calico、Google Xラボ、ロボット事業など)は、Alphabetの傘下で個別の組織となる。その目標は、透明性の向上を図ることに加え、イノベーションに力を注ぎながらも、Googleの今日の成長を支えた製品やサービスを継続的に提供することである。
「ペイジ氏とブリン氏を業務から解放し、彼らがより重要で楽しいと感じるアイデアにより多くの時間を割けるようになるだろう。二人とも従来の感覚で会社運営をしたいと思っていないだろう。ただGoogleを経営するよりも、ずっと大きなミッションに情熱を燃やす素晴らしきギークたちだ」と調査会社の米Forrester Researchで副社長 兼 調査責任者を務めるグレン・オドンネル氏は話す。
Googleの株価は急上昇
Gartnerのオースティン氏によると、今回の組織再編は投資面からみても良い動きであり、透明性を向上することでウォールストリートの投資家らが抱く懸念を払拭することができるという。それによりペイジ氏とブリン氏は、不確かな大型投資の切り詰めに対するプレッシャーを抑えられる。実際、投資家らはこの再編を好感し、発表直後にGoogleの株価は6%上昇した。
Alphabetの重要な点は、ペイジ氏とブリン氏を自由にしてより大きなプロジェクトを通じてイノベーションを起こすことにある。グルコースの濃度を測定するコンタクトレンズや自動車の自動運転技術、気球を使ったWi-Fi網整備、人間の寿命を延ばす取り組みなど分野は多岐にわたる。米メディアのVox Mediaが報じているように、こうした野心的な取り組みをGoogleなどのビジネス事業と分離することで、企業全体の事業計画の中でその重要性を正当化しようとしている。
「Googleで最も賢い二人(ペイジ氏とブリン氏)をCEOとCOOの日常業務から引き離した。支配力(議決権など)は維持するが、創造や構想、革新、変革を自由に行える立場になった」とオースティン氏は指摘する。
Googleの動きに追従すべき企業とは
米パロアルト市でCIOを務めるジョナサン・レイチェンタール氏は、Alphabetの将来に対する期待とその発表を称賛した。
「Alphabetの設立はペイジ氏とブリン氏だからなせる技で、同社の今後が楽しみだ。Googleとイノベーションにとって最高の日になった」
このイノベーションファーストのアプローチは、その他のテクノロジー企業や創造的発想を必要とするCIOにとって見習うべき点が多いかもしれない。
「CIOをはじめ多くのビジネスリーダーは、イノベーションの背後にある空想や想像といった英知を見ることになるだろう。ビジネスパーソンはもっと夢想的になる必要がある。夢想はイノベーションの源泉だ。ばかげていると批判されるかもしれないが、そういう夢を持った人たちがいつも世界を変えてきた」(オドネル氏)
Googleの新CEOは、Alphabet傘下の他事業を気にすることなく、自社の製品に専念することができるようになる。それにより、「Google for Work」などの企業向けスイートの開発をより迅速化できるかもしれない、とレイチェンタール氏は話す。
ただ、ある企業でうまくいったことが全ての企業でも同じようにうまくいくといえるだろうか。つまり、Googleで成功したことが他社では失敗するかもしれないということだ。問題は、他の企業がこの動きに追従すべきか、あるいはできるのかという点である。
米The New York Timesのファルハド・マンジョー氏は、Alphabetを「モダンなテクノロジー企業が次なる進化を遂げるためのテンプレート」となるとまで言及している。一方でオースティン氏は、他社が追従できるかどうか分からないとしている。
「同じ状況の企業はどれだけあるだろうか。恐らくないだろう。Googleはただ自分たちのペースで物事を進めているのだ」(オースティン氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[日本オラクル株式会社] ピンチをチャンスに変えたEPR製品は? 先行企業の導入事例3選 -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] 無自覚なリスク 秘伝Excelファイルが監査の壁、不正・ミスの温床となる理由 -
製品資料
[日本オラクル株式会社] 戦略的経理の第一歩 失敗のない「脱Excel」を実現する秘訣とは? -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] いまさら聞けないオンプレERPとクラウドERPの違い 最適な製品をどう見極める? -
事例
[株式会社ビザスク] 連結売上高が約2倍に成長、富士フイルムが実践した新規事業創出の戦略とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
3
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
4
「業務改善とツール活用」に関するアンケート
-
5
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
6
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
7
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
8
「GitHub Copilot」3000人に配布も基本機能しか使われない 保険大手が得た教訓
-
9
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
10
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
2
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
バックアップは“取っているから大丈夫”なのか? ランサムウェア時代の備え方
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
5分で分かる Microsoft 365のデータ損失に備えるためのバックアップの仕組み
-
9
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
10
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー