“パスワード限界論”で再考する「認証システム」の現実解【第3回】
Windows 10も搭載、“パスワードのない世界”を作る「FIDO」とは?(3/3 ページ)
FIDOの仕組み
本題であるFIDOに話を戻そう。FIDOは、ID/パスワード以外による認証を実現する「UAF」(Universal Authentication Framework)と、前述の知識要素と所有要素による2要素認証を実現する「U2F」(Universal Second Framework)という2つのプロトコルで構成される。
UAF
1つ目のUAFは、ID/パスワードではなく、指紋認証や顔認証といった生体情報、または「PIN」と呼ばれる4桁程度の短い暗証番号を使った認証を可能にするプロトコルだ。
UAFによる認証を利用するには、エンドユーザーはFIDO準拠のソフトウェアやハードウェアを備えた端末(以下、FIDO対応端末)を利用する必要がある。また利用したいオンラインサービスについても、FIDOによる認証を可能にしているオンラインサービス(以下、FIDO対応サービス)であることが前提となる。
さらに、認証に当たっては事前準備が必要になる。まずエンドユーザーは、FIDO対応端末に、認証要素として生体情報またはPINを登録する。生体情報を認証要素に使う場合、端末に備わる生体認証装置を使って取得する。生体情報またはPINの登録を終えると、FIDO対応端末はエンドユーザーの秘密鍵と公開鍵を生成する。次に、FIDO対応端末は、エンドユーザーが利用したいFIDO対応サービスに生成した公開鍵を登録する。
事前準備を済ませたFIDO対応サービスにエンドユーザーがログインするときは、「チャレンジ・レスポンス認証」という仕組みを使ってエンドユーザーを認証する。まず、エンドユーザーがFIDO対応端末からFIDO対応サービスにアクセスする。FIDO対応サービスはログイン時、FIDO対応端末へ「チャレンジ」というデータを送信。FIDO対応端末は事前登録した生体情報やPINが入力されると、チャレンジと秘密鍵を基に「レスポンス」というデータを作成し、FIDO対応サービスへ送信する。FIDO対応サービスはこのレスポンスを事前登録された公開鍵で検証し、正規のエンドユーザーだと判断すればログインを許可する。
UAFではこのように、ID/パスワードを使うことなく認証が完了する。加えて、エンドユーザーの情報は端末側だけで保存・確認し、オンラインサービス側にはエンドユーザーの公開鍵を送信するだけなど、セキュリティ強度も確保している。利用には端末側とサービス側がFIDOに準拠している必要があるものの、利便性と安全性を両立できる有力な認証プロトコルだといえるだろう。
U2F
U2Fは、UAFとは異なりID/パスワードを認証要素として利用する。知識要素であるID/パスワードに加え、所有要素として「U2Fデバイス」という専用機器を2つ目の認証要素として用いる。詳細は割愛するが、U2Fデバイスは秘密鍵と公開鍵を生成し、FIDO対応サービスに公開鍵を事前登録して認証する。U2FデバイスにはUSB経由で端末と接続するUSBドングルの他、Bluetoothなどによる通信機能を備えた機器が想定されている。ID/パスワードは依然として必要になるが、UAFと比べて比較的容易に導入できるのがU2Fの利点だ。
「Windows 10」への実装でFIDO普及が加速か
FIDOが広く普及するかどうかを考える上で、見逃せない出来事がある。米Microsoftが2015年7月にリリースした最新OS「Windows10」で、認証機能としてFIDOが採用されたのだ。具体的には、「Windows Hello」「Microsoft Passport」という機能として実装されている。
Windows Hello
Windows Helloは生体認証機能だ。認証手段として、指紋認証、顔認証、虹彩認証の利用を可能にしている。顔認証では赤外線センサーにより顔の凹凸を判別することを想定しており、本人の顔写真で認証することはできない。また認証精度も高く、認識失敗率は2~4%程度と非常に低いようだ。
Microsoft Passport
一方のMicrosoft Passportは、上述したUAFと同じく、ID/パスワードを利用しない認証機能だ。一連の処理は先ほど紹介したUAFのプロトコルと同様である。認証要素には4桁のPINまたはWindows Helloを利用する。Windows Helloの利用は必須ではないので、生体認証装置のないクライアントPCでも認証強度を高めることができる。オンラインサービス利用時には秘密鍵と公開鍵を生成し、Windows 10端末側に秘密鍵、オンラインサービス側に公開鍵を登録する。
広く普及するWindowsがFIDOの認証方式を採用したということは、FIDOは事実上の業界標準技術だと考えてもよいだろう。2015年秋口からはWindows 10をプリインストールしたクライアントPCも相次いで発売される。FIDO準拠の生体認証装置を備えたクライアントPCが市場を席巻すれば、FIDO対応サービスは一気に広がるはずだ。
「IoT」や「マイナンバー」が認証再考を促す
FIDOをはじめ、認証の在り方を再考する動きが活発化している背景には、認証が活躍するシーンの広がりがある。あらゆるモノをインターネットに接続して、モノから生じる情報を企業活動に生かす仕組みである「IoT(Internet of Things)」の世界でも、認証は活用されている。モノといえども、インターネットに接続されていればどこからでもアクセス可能になる。攻撃者に対して攻撃の糸口を作ることにもなりかねず、モノへのアクセスには認証による制限が必須だといえる。
最近では、ペットの監視や留守宅の監視用途でネットワークカメラが利用されている。ネットワークカメラの多くは、スマートフォンなどを使ってリモート接続し、現在の映像を確認可能にする機能を持つ。リモート接続にはパスワード認証が必要になるものの、このパスワードを適切に設定しておらず、自宅の映像が筒抜けになっていたケースもあったという。ホームセキュリティの確保のために活用されていた手段が、逆にセキュリティの脅威となっていたわけだ。この事件は家庭での話だが、企業でもオフィスや工場などにネットワークカメラを設置している際は、同様の事態を招く可能性がある。
モノを販売するメーカーにとっては、認証の不備によって顧客に脅威をもたらす可能性も否定できない。例えば、現在の車はコンピュータ制御で動き、電子機器の塊である。自動車によってはインターネットを通じて外部と情報をやりとりし、必要な情報を外部から自動車へ、自動車から外部へと通信する。先日、米国でハッカーが車の制御システムに侵入し、自動車を操作している映像が公開されるという事件が大きく報道された。この事件を引き金に、ハッカー対策のためのリコールやソフトウェアの更新といった措置を講じたメーカーもある。この事件は、IoTの利便性と裏腹にある危険性とともに、車載システムへのアクセスを制限する認証の必要性を浮き彫りにしたといえる。
2015年10月には国民への個人番号交付が始まる「社会保障・税番号(マイナンバー)制度」。連載第1回でも触れたが、マイナンバーを扱う組織は、一定程度のセキュリティ対策や情報漏えい対策、いわゆる「安全管理措置」を講じる必要がある。マイナンバーのガイドラインでは、安全管理措置の一環として「アクセス者の識別と認証」に言及。正当なアクセス権を有する担当者だけがマイナンバーを扱えるようにするために、認証の実施を求めている。マイナンバーにひも付ける氏名や従業員番号といった個人情報は、「特定個人情報」として厳格な扱いが求められる。仮に漏えいした場合は、3年以下の懲役または150万円以下の罰金という比較的重い罰則が科せられる。早急に手を打つべきだ。
君塚俊哉(きみづか・としや) ノベル株式会社
システムエンジニアとして業務系システムの要件定義や設計、開発に従事した後、ITコンサルティング会社でコンサルタントとして、ITの視点から顧客の業務をサポート。現在、セキュリティ、サーバ監視、オープンソースを担う企業の技術責任者を務める。
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“パスワード限界論”で再考する「認証システム」の現実解
ID/パスワード中心の認証システムが岐路に立っている。パスワード撤廃を視野に、認証の仕組みを根本的に見直す機運も高まるが、実現は容易ではない。企業が目指すべき認証の在り方とは何か。その具体策を探る。
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