デジタル時代のERP再考(1)
情報技術の“ルネサンス期”、ERPの在り方とは?(3/3 ページ)
これからのERPに求められるアクションとは
次に本題である「ERP」とは何かを考えてみたい。ERPとはご存じの通り、Enterprise Resource Planning(企業資源計画)の頭文字を取ったものだが、現在では本来の意味を超えて企業の基幹となる情報システムとして使われることが多くなっている。
では、情報システムの本質とは何だろうか。「企業の状況を把握すること」だろうか。確かに間違いではないが本質的でもない。何のために状況を把握しなければならないのかを考える必要がある。
いかに正確に現時点の状況を把握することができても、そのこと自体には価値は無い。全ての情報は、それを元に判断し、アクションを起こすためにあるのだ。究極的には、経営や業務の課題に対して正しいアクションにつなげることが情報システムの本質といえる。
そして、正しいアクションにも幾つかレベルがある。具体的には次の通りだ。
- レベル1:問題を検知し、個別最適、もしくはそれに類する直接的かつ短期的な問題解決をするためのアクション
- レベル2:問題を検知し、全体最適、もしくはそれに類する本質的な問題解決をするためのアクション
- レベル3:レベル2に加えて、直面している問題を解決するだけではなく、類似の問題の再発を防止するためのアクション
- レベル4:発生した問題が深刻化する前に検知し、未然に防止するためのアクション(全体最適に基づいた解決策)
- レベル5:問題が起こる前にその兆候を把握し、問題発生を防止するためのアクション
他にもさまざまな分類の仕方はあるが、ここでは問題検知のタイミングの違いと問題解決アクションのレベルの違いに着目してみた。すなわち、問題が深刻化してから検知するのか、それとも軽微な問題の時点で検知するのか、問題発生前の兆候を検知するかという検知タイミングにおける違いと、目の前の問題を解決するだけのアクションから、全体最適も考慮に入れた問題解決のアクション、再発防止のためのアクション、そして、そもそも問題を起こさないようにするためのアクションという違いである。
多くの情報システムはレベル2、レベル3の貢献度合(レベル1のアクションはときに正しくないこともあり、貢献とは見なさない)であり、アクションについては人の判断に委ねられることが多い。せっかくリアルタイムで上がってきた情報も人が介入することで判断やアクションが遅れ、その恩恵を十分に享受できないケースも出てくるだろう。
今後の情報システムはレベル3以上での貢献を目指すべきだ。もちろん、重要なアクションは人による確認が必要かもしれないが、アクションおよびその代替案の提案までは情報システムに任せる方が好ましい。情報システムは、人とは比べものにならないほど高速かつ複雑なシミュレーションができたり、大量データからデータ間の隠された関連を見つけ出したりすることができるからだ。情報システムが最新の状況を把握し、それに基づいた最適なアクションまでを提案する。人は情報システムが実行したシミュレーション結果や分析結果を見て、システムの提案が適切なものであるかどうかを確認する。通常のオペレーションにおいてありがちな問題であれば、事前に用意された解決策を自動で実行することもあり得るだろう。
このように新技術を活用した次世代のERPは、従来のERPでは成し得なかった課題を解決できる可能性を秘めている。人は重要な判断をすることに注力できるようになるわけだ。
また、ERP自体の守備範囲も一企業だけではなく、関連する上流/下流の企業にも拡がり、さらに業界の枠すら越えた情報システム基盤になる可能性もある。デジタル化が進むことにより、これまでは想像すらできなかった異業種間のつながりも、当たり前のように出てくるであろう。
今から数十年後、きっとこの時代は情報技術におけるルネサンス期のように呼ばれることだろう。そして、大きな進歩を遂げることができた勝ち組と、ちょっとしたためらいによって競争相手から差をつけられてしまった負け組が明確に生まれてくるだろう。得られたデータをどのようにビジネスに活用するか、これをとことんまで考え尽くし、情報システムに反映させる努力こそ勝ち組となる決め手ではなかろうか。
次回は普及期に突入しつつあるインメモリコンピューティングやクラウドがもたらす リアルタイムアナリティクスについて解説する。
米澤 創一
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
SAPビジネスインテグレーショングループ統括 マネジング・ディレクター
京都大学経済学部経営学科卒業。Northwestern Univ. Kellogg Advanced Business Management Program修了。アクセンチュア SAPビジネスビジネスインテグレーショングループの日本統括、またプロジェクトマネジメントに関する専門家として数多くの大規模な企業情報システム構築プロジェクトや企業変革支援プロジェクトに携わってきた経験を持つ。また、テクノロジー コンサルティング本部の教育責任者、アクセンチュア グローバルにおけるSAP専門組織のCapability Developmentのリードなども務める。システム構築方法論、ソフトウェア工学に関しても豊富な知識・経験を有しており、共著書に「CMMI 基本と実践」「ソフトウェアテストと品質保証の実際」、共訳書に「成功するソフトウェア開発-CMMによるガイドライン」などがある。
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