導入手法、カスタマイズはどうする?
読めば分かる! ERP導入の基本
多数の人が関係し、その予算も比較的に多いERPの導入プロジェクト。さまざまな導入方法が語られているがその基本とは? ユーザー企業の悩みの種となることがあるカスタマイズと併せて解説する。
ビッグバン導入と段階的導入
ERP導入プロジェクトの初期に考えたいのは、どのような手法でERPを導入していくかだ。ERPの導入手法として2つを挙げることができる。1つは企業内の全業務に対して一気に導入する「ビッグバン導入」。もう1つは、最初に会計業務、次は販売業務というように最初は一部の業務に対して導入し徐々に適用範囲を広げていく「段階的導入」だ。
ビッグバン導入は、ERPを一気に全業務に導入するので、会社全体の業務改革の成果が早い段階で出やすいというメリットがある。一方、大規模システムの導入で、初期導入費用やプロジェクト体制が大きくなる。万一、プロジェクトがうまく行かなかった場合の影響が大きい。
段階的導入はビッグバン導入に比べ初期導入費用は抑えられ、導入効果を見ながら今後の導入範囲や時期を決定していくことができる点がメリットである。しかし、1つ1つの導入期間は短くても、全社業務の観点で見ると導入期間はビッグバン導入より長くなることが多く、会社全体の導入効果が表れるまで時間がかかる。
ERP導入の考え方には、このように一長一短がありどちらが良いというわけではない。企業の状況に合わせていずれかの方法を選択することになる。
ERP導入プロジェクトの流れ
次にERP導入プロジェクトの流れを簡単に紹介する。もちろん、プロジェクトの進め方はERPパッケージ、導入企業などで違いがあるので、あくまで1つの例としてとらえてほしい。
まず行うことは自社の現状分析だ。現在の業務の問題点を洗い出す。次に、ERPパッケージの標準の業務プロセスに基づいた「プロトタイプ構築」と、実現したい業務プロセスとERPパッケージが想定している業務プロセスとの乖離(かいり)をチェックする「フィット&ギャップ分析」を行う。これは、ERPパッケージによるシステム構築で特徴的な工程である。ERP以外のシステム構築では、プロトタイプではなくドキュメントによる仕様の確認を行うことが多いため、業務要件の認識の食い違いがあっても気付きにくく、システム完成後に認識の違いが発覚することもある。
プロトタイプ構築とフィット&ギャップ分析により、導入企業は新システムのイメージを理解でき、自社の業務要件がERPパッケージの標準機能にフィット(適合)するのか、ギャップ(隔たり)があるのかを細かく分析できる。ギャップがあった機能については、業務をERPパッケージの標準に合わせるのか、アドオン開発(追加開発)を含めたカスタマイズを行うのか、システム適用範囲から除外するのかなどを検討していく。
その後、最終的にシステム適用範囲と機能を確定させ、開発を行う。開発は、パラメーター設定とアドオン機能の開発を同時に行う。その後は通常のシステム構築の場合と同様に、テスト、納品、稼働と進んでいく。その他にユーザートレーニングや既存システムからのデータ移行などシステム稼働に向けた作業が行われる。
カスタマイズのメリット、デメリット
日本にERPが入ってきた際、欧米の代表的な企業が既に導入していたことから「ベストプラクティス」が集まっていると考えられていたことは前回記事「読めば分かる! ERPの基本」で、説明した。そのようないきさつから日本企業は、自社の業務をERPパッケージに合わせて効率化を図るべきだという考えで導入を進めることが多かった。つまり、自社の業務要件とERPの機能にギャップが生じた場合は、ERPを(カスタマイズによって)自社に合わせることはせずに、ERP本来の機能をそのまま使おうと考えたのである。
当然のことながら、カスタマイズを行わずERPをそのまま導入するメリットは大きい。例えば、短期導入が可能、導入コストが抑えられる、バージョンアップの際のリスクが軽減される、などである。実際、ERPを自社の業務に合わせるために多くのカスタマイズを行ったプロジェクトでは、想定よりも実際の工数が膨らみ、スケジュールを大幅に見直すことを迫られたり、費用が当初予算を大きく超えてしまうなどの問題に直面するケースがあった。
一方、カスタマイズを行わず、ERPの標準機能をそのまま使うことを決めた企業の中には、ベストプラクティスを実践して業務の効率化を実現したケースを見ることができる。ただ、標準機能をそのまま使うことで結果的に業務に支障を来してしまったケースもゼロではなく、無理して使うことでERPが使い勝手の悪いシステムであるとユーザーから思われている例もある。
進化するERP導入
ERPは「想定よりも高額」や「業務に合わずに使いにくい」などユーザーの不満の声に応える形でこれまで進化してきた。機能や導入方法、運用形態など進化の方向はさまざまである。ここでは幾つか紹介したい。
テンプレートや特化型ERPによる短期導入
ERPが持つ機能の中には以下の2つのタイプが含まれている。1つはどの業種でも共通する業務に関する機能(法定帳票を出力するための財務会計機能など)。もう1つは、同一業種内の共通する業務に関連する機能(生産管理や販売管理などが該当する場合がある)だ。
後者の機能に注目して生まれたのが特定業種の業務に適用できるテンプレートだ。このテンプレート(場合によってはアドオン開発機能も含まれる)は特定業種の業務向けにパラメーターがあらかじめ設定されている。ERPベンダーやそのパートナー企業が提供するケースが多い。また最初から特定の業種に特化したERPなども開発・販売されている。企業はテンプレートや特化型ERPを活用することで、業務要件への適合率をより高めたシステム導入や導入期間の短期化などのメリットを享受できる。
なお、業種の他にも会社規模や海外子会社向けなどさまざまなテンプレートや特化型ERPが提供されている。
SOA対応、セミオーダー型ERPも登場
2000年代後半ごろ、ERPの大手ベンダーを中心にSOA(サービス指向アーキテクチャ)を取り入れた製品が提供されるようになった。SOA対応のERPを使うユーザー企業は、ERPが提供する「受注する」「請求書を発行する」「入金処理を行う」などのさまざまなサービスの中から、自社に必要なサービスを組み合わせて利用できる。
さらに、パッケージに搭載されている機能の組み合わせだけでなく、ユーザー企業が自社固有の機能を簡単に開発し、ERPに組み込むことができる開発基盤を有したERP製品も登場した(セミオーダー型ERPと呼ぶこともある)。これまで自社に合ったERPパッケージがなく、無理に現状の業務をERPに合わせていた企業や、ERPの導入自体を諦めた企業にとっては、セミオーダー型ERPはとても効果の高い手法だと考えられる。
また、セミオーダー型ERPは、企業の業務の変化に合わせて将来的なシステムの改修や拡張にも柔軟に対応できるため、「一度導入したらシステム変更が困難」と考えられていたこれまでのERPの弱点を補える。
SaaS、クラウドなど多様化する提供形態
ERPの提供形態についても新しい方法が提案されている。以前はERPの導入は自社管理下でシステムを運用する形態が一般的だったが、アプリケーションをインターネットなどのネットワーク経由で使うことができるASP(Application Service Provider)やSaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングなどのサービスが登場。さまざまなERPベンダーが提供するようになった(関連記事:2011年は「クラウドERP」元年になる)。
ERPは企業のニーズに合わせる形で多様化してきた。ユーザー企業は、ERPの中から自社にマッチした製品を選定する眼がより必要になってきたともいえるだろう。
木塚愛美(きづかめぐみ)
株式会社ビーブレイクシステムズ 営業部 広報・営業推進チーム リーダー
外資系ERPパッケージベンダーにて、会計導入コンサルタントとしてさまざまなERP導入プロジェクトに参画。その後、2005年にビーブレイクシステムズに入社。ERPパッケージ「MA-EYES」を中心に企業にとって“使える”業務システムを広く提案している
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