クラウドERPを選定する際の考え方は?
失敗しないERPの選び方:会計モジュール編
モジュールごとに導入することが多いERP。本連載ではモジュールごとに製品選定のコツを紹介する。初回の会計モジュールでは財務会計機能と管理会計機能の選び方、クラウドERPを選定する場合の考え方などを解説。
多数のERPパッケージから自社に合った適切な製品を選ぶのは難しい。ERPはモジュールごとに導入することが多く、選定に際してはモジュールの特性を理解することが重要だ。本連載ではERPに詳しい専門家にERPモジュールごとの選び方を聞く。第1弾はERPの基本モジュールとなることが多い会計モジュール。上場企業で経理部長を務めてきた公認会計士の五島伸二氏の話をまとめた。
会計モジュールは大きく財務会計機能と管理会計機能に分かれる(参考記事:読めば分かる! ERPの財務・管理会計)。財務会計は決算短信や有価証券報告書、税務申告書など法制度で決まっている会計処理を行い、書類の提出や申告を行うための機能だ。
一方、管理会計は予算管理や実績管理、コスト管理など企業の経営に役立つ機能を提供する。ERPによっては財務会計と管理会計を1つのモジュールで提供しているケースもあるが、2つのモジュールで提供する場合もある。法制度対応のために財務会計機能は利用したいが、管理会計は「Microsoft Excel」で十分という企業もある。会計モジュールを選ぶ際は財務会計と管理会計のどの範囲をカバーしているかのチェックが欠かせない。
財務会計、管理会計についての記事
ERPの想定ユーザーを確認する
既存のERPや会計システムの財務会計機能は、どれも必要十分な機能を備えているといえるだろう。普通に使えば法制度に対応した書類を作成可能だ。ただ、そのERPや会計システムがどのような利用の仕方を想定しているかは、事前に確認が必要。ERPは非上場企業、上場企業、上場のグループ企業など、企業の規模別に機能が異なる。その企業の状態によって作成する書類・提出はさまざまだ。
また、現在は非上場だが、将来は上場する予定の企業であれば、選択するERPが上場後も利用できるかどうかは必須の確認項目だ(参考記事:定番ERPだけじゃない、中堅・中小企業のERP選びに第2の選択肢)。さらに子会社を作って企業グループを組織するのであれば、連結決算に対応できるかどうかのチェックも必須だろう。海外対応も課題になる。会計モジュールの財務会計機能を選ぶ際は、企業の規模や状態に合わせた拡張性があるかどうかを確認しないと、将来に二重投資が発生してしまう。
財務会計機能を選ぶ上でのもう1つのポイントは、頻繁に行われる会計基準や税法の改正に迅速に対応しているかどうかだ。会計基準や税法が改正された場合、多くのERPベンダーは財務会計機能に修正プログラムや修正パッチを提供し、対応させている。経理部門や情報システム部門にとっては、なるべく早く提供された方が準備の上で都合がいい。過去の法制度変更にそのERPがどのようなタイミングで対応したかは事前に確認したい。また、その修正プログラムが保守サポートの範囲内で行われたか、または別途有償だったのかも確かめる必要がある。
管理会計で考えたい「誰が使うのか」
会計モジュールの管理会計機能の選択で重要なのは、「誰が使うのか」という視点だ。会計モジュールの製品選択に関わるのは経理部や情報システム部門が一般的。しかし、管理会計機能が出力する会計情報を最も必要とするのは、その会計情報で経営判断を行う経営層だ。経理部や情報システム部門が選択すると、どうしても今までの管理会計業務が効率的に回るかどうかの視点になりがちだ。だが、その管理会計に経営層は満足していないかもしれない。会計情報のユーザーである経営層が管理会計機能の選択に関わるべきだ。
実際に経営層が製品選択のプロセスに入るのが難しいのであれば、事前に経営層に対してヒアリングを行い、プロトタイプも見せるような配慮が必要になる。最近のERPは、財務会計と管理会計の一体的な管理(いわゆる財管一致)を特徴とする会計モジュールが増えている。財務会計機能は多くのERPで成熟が進んでいて大きな機能差がないのが実際だ。一方、管理会計機能はまだ機能差が大きい。経営層が望む会計情報を簡単に出力できるのかという視点に重きを置いてERPを選ぶのも1つの考えだろう。
本社化から海外子会社をモニタリング可能か
最近のERPのトレンドは、企業の海外グループ展開を支援する機能の強化だ。会計モジュールでは、多言語対応や他通貨対応の他、各国の法制度などにテンプレートで対応するケースがある。企業は日本の本社で使っているERPをそのまま海外で利用する、または海外用に別のERPを導入する、現地のERPを使うなどの選択肢がある。
ERPのグループ展開についての記事
海外で利用するERPの会計モジュール選定で注意すべきなのは、本社からきちんと海外子会社をモニタリングできるかどうかだ。本社は海外子会社の業績が予定通りに推移しているか、物品の調達や生産、販売が決められた業務プロセス通りに行われているか、不正な会計処理が行われていないかなどをチェックすることが求められる。通常は週次や月次のリポートを海外子会社から受け取り業務をチェックするが、業績に問題があったり、不正会計が疑われる場合は、本社から海外子会社のERPに直接アクセスし、個別の会計処理までさかのぼって調査する。緊急時にこのような操作が可能かどうかを選定時に調べたい。
海外子会社にクラウドコンピューティングを使ったERPや会計システムを導入するケースも増えている。海外子会社がハードウェアを用意することなく、運用管理の手間も不要ですぐに使い始められるからだ。だが、この場合も本社がそのクラウドERPに対して適切なモニタリングができるかどうかが重要になる。コストとの兼ね合いになるが、海外子会社の内部統制を重要視するのであれば、本社と同じERPを海外子会社に導入し、統合的に会計処理をチェックできるようにした方が安心できる場合もあるだろう。
重要性が増す決算継続プランニング
クラウドを使ったERPや会計システムが注目されている背景には、東日本大震災以降、システムのBCP(事業継続計画)が重要になっていることもある(参考記事:ユーザー企業調査が伝える「大震災後のIT投資動向」)。特に財務会計では法制度で決算短信や有価証券報告書の提出期限が決まっている。仮に震災などで社屋などが被害を受けても、クラウドERPであればデータは外部のデータセンターにあるので、決算処理が可能になるケースが多い。
一方、ERPや会計システムを自社設備内に保有していてそのシステムが被災した場合は、ERPや会計システムと連携する販売管理や在庫管理、人材管理など、無事なシステムからデータを取得して決算処理を行う必要がある。緊急時にそのような「決算継続プランニング」(KCP)が可能かどうかも、ERPや会計システムの選定時に確認したい項目だ。
会計モジュールを選ぶポイント
- 財務会計、管理会計と機能ごとに選定する
- 財務会計では法制度変更への対応に注目
- 管理会計はユーザーである経営層の意向を確認する
- 海外子会社で使うERPは本社からモニタリング可能かどうかを確認
- 非常時の「決算継続プランニング」が可能なERPかどうかをチェック
五島伸二(ごしましんじ)
アドバ・コンサルティング株式会社 代表取締役 公認会計士・ITストラテジスト
監査法人トーマツにて会計監査、IPO支援、マネジメントコンサルティングに従事。トーマツ退所後は多数のシステム開発プロジェクトやERP導入プロジェクトに参画し基幹システム構築を行う。その後、上場会社の経理部長を経て、2010年3月にアドバ・コンサルティング株式会社を設立。それまでの経験を生かし、会計とITの専門家としてシステム開発や業務改善コンサルティングに取り組んでいる。
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失敗しないERPの選び方
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