【連載コラム】医療ITの現場から
2016年度診療報酬改定で気になる「医療IT」への評価付け
2016年(平成28年)度診療報酬改定について、医療IT業界ではIT関連の点数が新設されるのではという期待が高まっている。中医協での議論を基にその行方を占う。
次期改定でのIT関連点数の新設に期待
2016年(平成28年)度診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(中医協)での議論が活発化しています。2014年度改定における「答申書附帯意見」では、「ICTを活用した医療情報の共有の評価の在り方を検討すること」と明記されました。答申書附帯意見は、積み残された内容について、次回改定に向けて議論し、何らかの方向性を打ち出すことを目的として作られています。そのため、医療IT業界では2016年度の制度改定でIT関連点数が新設されるのではという期待が高まっています。
そこで今回は、2015年7月22日に行われた中医協 診療報酬基本問題小委員会での議論を基にIT関連の評価の行方を占ってみることにします。
医療機関同士の情報連携の現状
2016年度改定でも重点項目に挙げられている「地域包括ケアシステムの推進」を考慮すると、医療ITを活用して医療機関同士がスムーズに情報共有を図る体制をどのように構築するかがポイントとなると予想されます。
現在、医療機関同士の情報共有・連携は、もっぱら紙ベースで行われています。実際、電子カルテで診療情報提供書を作成する場合、電子文書を作成しても紙に印刷した書類を医師が押印の上で患者に手渡し、患者は紹介された医療機関に持ち込んでいます。これは、地域医療情報連携ネットワークを活用する場合もほぼ同様で、紹介元医療機関からの電子データが紹介先医療機関へ先に送付されていたとしても、患者は紹介元医療機関から紙の診療情報提供書を受け取り、紹介先医療機関にあらためて持ち込んでいます。また、持ち込まれた紹介先医療機関も、電子データとして既に受け取っているにもかかわらず、紙による原本保存の観点からスキャナーで取り込むなどして管理しています。
電子化データの情報共有が評価されるのでは?
こうした現状を受けて、中医協では「診療報酬算定のために作成される文書は電子的に作成しても紙と同等に扱われることとされているが、一部の文書では、様式として記名・押印が必要とされているなど、電子的に送受した際の取り扱いが明確でない」と指摘しています。
そのため、医療機関で情報共有の際に取り扱われる書類に対して、デジタルでのやりとりを認めるための法的変更が必要となります。例えば、診療所と病院、病院と病院における診療情報提供書、医療機関と訪問看護ステーションでの「訪問看護指示書」、医療機関と薬局「服薬情報提供料に係る情報提供書」などの書類が対象になります。
具体的には、電子データであっても紙文書と同等と認めるための担保を何らかの形で付与することで、電子データのみでのやりとりを認めるという変更です。また、こうした情報共有関連文書のデジタル化普及を推進するためには、加算の新設が必要ではないかと考えます。
診療情報提供書などの文書のデジタル化が評価されることの影響
仮に次回の制度改定で、診療情報提供書や訪問看護指示書、服薬情報提供料に係る情報提供書などの電子化が評価された場合、どのような影響が考えられるでしょうか。
- 文書をデジタル化するために必要な機器として、電子カルテの導入が進む(紙カルテを見ながら、クライアントPCで書類を作るのは効率的ではない)
- 情報共有のためのインフラとして、地域医療情報連携ネットワークの構築と利用が進む
- 上記2つが進むことで、患者の利便性が向上する(診療情報提供書をあらためて取りに行くといった手間がなくなる)
情報共有文書の電子化に関する加算によって期待される、文書の即時発行や紹介の即時完了は患者にとっても大きなメリットをもたらします。そのため、「外来迅速検体検査加算」(※1)のように即時発行自体も評価してもよいかもしれません。
※1 迅速な検査および結果提示を推進するために新設。検体検査について、当日中に結果を説明した上で文書により情報を提供し、結果に基づく診療が行われた場合に「5項目」を限度として、検体検査実施料の各項目の所定点数にそれぞれ10点を加算する。
情報共有加算は医療分野のICT普及の後押しに
これまで医療機関において、電子カルテを導入しない理由として「電子カルテを導入してもメリットを感じられない」「電子カルテ導入の費用対効果が明確でない」「診療報酬上の評価がない」といった声が多くありました。また、地域医療情報連携ネットワークに積極的に参加しない医療機関からも「参加してもメリットが少ない」「費用対効果が見えない」といった意見がありました。
こうした声に共通するのは、電子化の負担は医療機関が担うにもかかわらず、診療報酬上の評価がなく、費用対効果が感じられないというのです。この点が、電子カルテや地域医療情報連携ネットワークの普及を阻害していたのではないでしょうか。
これまでも法改正や診療報酬での評価という流れにより、「レセプトのオンライン化(電子化加算」(※2)や「画像管理のデジタル化(電子画像管理加算)」(※3)が進められてきました。これまでの経験を踏まえても、次回の改定で「情報共有に関するIT化の評価」が実現すれば、大きな効果が期待できます。
※2 レセプトのIT化などの医療機関のIT化を集中的に推進していくために新設。2011年3月末までの時限的措置として、初診料に3点加算することができたが、2012年度改定では時限的措置を含めた電子化加算がいったん廃止。
※3 レントゲンのフィルムレス推進のために新設。電子化して管理および保存した場合に算定した点数に、一連の撮影について一定の点数(単純撮影の場合は57点など)を加算する。ただし、フィルムの費用は算定できない。
著者紹介
大西大輔(おおにし だいすけ) メディキャスト株式会社 メディプラザ統括マネージャー
2001年一橋大学大学院MBAコース卒業後、同年日本経営入社。2002年に医療機関の“選ぶ”を支援する展示場「メディプラザ」の1号店を東京(神田)に立ち上げ、その後2003年にメディプラザ大阪、2005年にメディプラザ福岡を順次開設。2007年より東京・大阪・福岡の3拠点を統括する統括マネージャーに就任。専門の医療IT分野については、医師会、保険医協会などの公的団体を中心にセミナー講師を多数実施。
【関連サイト】
電子カルテ活用のためのショールーム「メディプラザ」
医師の右腕を育成する「電子カルテ+クラーク養成講座」
医院・クリニックのオフィシャルホームページ制作システム「Wevery!」
メディプラザ特設ブース「地域包括ケアで活用できるシステム」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー