レスポンスが2~3秒まで短縮
事例:DWH高速化をフラッシュストレージで実現した愛媛大学医学部附属病院
2014年5月に新システムの本稼働を開始した愛媛大学医学部附属病院。リアルタイムなデータ分析を実現するため、DWHにフラッシュストレージを採用した。その取り組みを紹介する。
1976年に開院した愛媛大学医学部附属病院(愛媛県東温市)は「学生・医療人の卒前・卒後教育、質の高い医療の提供および医学医療の発展のための研究・開発」を使命に掲げ、愛媛県の地域医療の向上発展に寄与することを目指している。標榜(ひょうぼう)診療科は17科、病床数は626床。愛媛県にある唯一の大学病院として特定機能病院、がん診療連携拠点病院、愛媛県災害拠点病院などに指定されている。
ストレージ環境の高速化を目指し、システムを刷新
2006年から愛媛大学医学部附属病院 中央診療施設 医療情報部 副部長を務める木村映善氏(愛媛大学 大学院医学系研究科 医学専攻、社会・健康領域 医療情報学講座 准教授)は「2003年に電子カルテを導入し、紙カルテと併用しながら運用するなどITシステムの導入歴は長い」と語る。
同病院は、2009年に電子化に完全移行するタイミングで電子カルテシステムを富士通製から日本アイ・ビー・エム(IBM)製に切り替え、同時にデータウェアハウス(DWH)も刷新した。その後、病院情報システム(HIS)である「HIME(Health Information System of Medical Ehime University)」の刷新プロジェクトを推進。従来のデータ管理の課題を解決するシステム構築に着手し、2014年5月に新システムの本稼働を開始した。
「オブジェクトストレージの採用と、DWHの処理高速化を二本柱にシステムを刷新した。これまでは5年ごとにシステムを更新していたが、データ保管のコストが高くつくため、データ移行を諦めたデータもあった。刷新プロジェクトでは仮想環境とストレージ環境の設計から着手し、システム運用はベンダーに任せるが、ストレージに格納された情報に直接アクセスできるインタフェースを確保。当院による保管されたデータへのアクセスを保証する体制に変更した。ベンダーや仮想環境が変わっても、データへのアクセスが保証されるため、これまでのデータ移行時のデータ引き渡し時の契約や手続きのコストに振り回される可能性を減少させるようにした」(木村氏)
「ioDrive2」を採用して高速な処理を実現
木村氏は「電子化されたデータを溜めることから使いこなすことに注力しようとしたが、刷新前はストレージのパフォーマンスに不満があった。また、電子カルテやレセプトコンピュータのデータをDWHで活用できるように変換、取り込むのにものすごく時間がかかっていた」と刷新プロジェクト前の状況を振り返る。電子カルテベンダーのDWHではトランザクションデータであり、分析に用いるためのデータ形式に変換する手間が掛かっていたという。
DWHの処理高速化について、木村氏は「臨床診断にも用いられる高速性」を求めた。2012年末にシステムの仕様を検討し始めた。当時市場には、フラッシュメモリを搭載したストレージはそれほどなかった。そうした中で、個々の処理のレイテンシが低く、耐障害性に優れたフラッシュストレージを選定した。その結果、DWHのデータベース部分に従来のHDDに代わり、フュージョンアイオー(現サンディスク)のフラッシュストレージ「ioDrive2」を採用した。
2014年5月に本格稼働したDWHでは、IBM製「MD-View」を採用し、電子カルテなどのデータをETL(抽出、変換、登録)ツールでBI(ビジネスインテリジェンス)分析用データに変換して格納。DWHからの各種クエリ(問い合わせ)に対して、高速に検索できる環境を構築している。ETLでは、更新頻度の高いデータは数分間に1回の頻度で実行させるなどして、最新の情報をDWHに反映させる工夫もしている。
「DWHはデータの整合性を調べないため、データが破損していないことを保証する信頼できるメディアに入れることが必要。患者データには正確性は欠かせない。診断基準にもなり得るリアルタイムで分析できるものが必要だった」。その点、ioDrive2は他の一般的なSSDに比べ、1000分の1~1万分の1程度のビットエラー発生率であり信頼性が高かった。「後はコストを勘案。DWH全体の予算を1500万円で見積もっており、フラッシュストレージが200~300万円程度で導入できることに驚いた」(木村氏)。さらにフラッシュストレージに切り替えたことで、ストレージシステムの物理スペースのスリム化も実現できたという。
愛媛大学医学部附属病院で現在稼働するDWHでは、例えば1日約1400人の外来患者に対する病名や処方などのオーダーに関するクエリを、3時間で7万回処理する能力を有する。「こうした問い合わせ処理は電子カルテのデータベースや、そのデータベースの構造をレプリケーションしただけの参照系DBでは負荷が高い」と、木村氏はフラッシュストレージに構築したDWHの導入意義を強調する。
レスポンスを高速化すべく、ユーザーメードのアプリケーションで1分間に1回トリガーが出たら処理を行う仕組みを採用した。その結果、HDDを用いた従来環境では3~5分かかっていたレスポンスが2~3秒まで短縮したという。また同院では、月次単位で情報を取りまとめていた電子カルテデータを日次単位で収集し活用。よりタイムリーに経営分析が行えるようにしている。
「意思決定のためのデータ入手の時間が、1カ月単位から週次、数分単位に変化した。それによって、人の意識が変わってくる。IT化の1つのゴールは、データをリアルタイムに入手してその場での行動を変えることにつなげられると感じている」(木村氏)
アーカイブ環境にオブジェクトストレージを採用
木村氏は「電子カルテやPACS(医用画像管理システム)、各部門システムが保有するデータは膨大な量で、ファイルの種類も多い。現在は150T(テラ)バイトだが、今後5年間で350Tバイトまで膨れ上がる」と予測する。愛媛大学医学部附属病院ではそうしたデータの長期保管(アーカイブ)を目的に、デルのストレージ「Dell Compellent」とアステックのオブジェクトストレージ構築ソフトウェア「intrabox」を基盤とするオブジェクトストレージを構築した。5年以上前のデータを格納する階層化ストレージの一部に組み込んでいる。
同病院のオブジェクトストレージは、1.5P(ペタ)バイトの物理容量を持つ。2015年1月時点で3億ファイル、メタデータを含めると15億件のデータを保有する。今後は手術動画や心電図など格納するデータの種類を増やす予定である。
未来型医療を支えるシステムへの挑戦は続く
稼働から1年以上経過したが、新システムは大きなトラブルもなく安定しているという。ただ、「ユーザーの意識が追い付いておらず、リアルタイムなデータ分析を生かしているユーザーは少ない」(木村氏)。現在は医療情報室に看護師を常駐させてトレーニングを実施するなど啓発段階とのことだ。
木村氏は「医療ITの取り組みは、期待と失望の繰り返しだった」と振り返る。また「今後はよりタイムリーな経営分析を支援できる可能性を求め、医療安全や臨床判断支援など医療分野におけるビッグデータ活用も視野に入れている」と語る。ただ、現在の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」がソフトウェアを「医療機器プログラム」として規制対象とすることで、診断を支援するデータ活用の障壁であるという認識を持っているという。
今後の医療ITで求められる人材については「システムの要件定義能力が強く求められる。現場の人にどう使ってもらえるかをしっかりとコミュニケーションしてシステム構築に取り組む必要がある」と語る。
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