デジタル時代のERP再考(2)
インメモリやクラウドが経営を変える ERPの「リアルタイム経営」が生み出す新たな価値(2/2 ページ)
リアルタイムアナリティクスが実現する未来
自社のビジネスにはリアルタイム性など必要ないと考えている企業も多いのではないだろうか。デジタル化が進んだ現代、人やモノが動いているところであればどこででもデータは発生しており、そこには多くの価値ある情報が埋もれている。その中には、その場で活用してこそ、より高い価値を生み出す情報が含まれている。
例えば、顧客のもとを訪れた営業担当者は顧客の引き合いに対してその場で見積額や納期を回答する。その背後では、自社にいる生産や調達の担当者が、顧客が要望している製品の種類や数量をリアルタイムで把握し、最適に提供するためにシミュレーションをしている。営業の顧客に対する回答は、そのシミュレーションの結果に基づいている。
別の顧客では営業担当者が出向くまでもなく、在庫情報や需要予測、生産計画を基に発注数量を決定し、複数サプライヤーに見積や納期の回答依頼するところまで自動化している。サプライヤー側もそのリクエストに自動回答し、数分後には最適なサプライヤーに発注が自動送信される。このような取引のマーケットには、見積もりを提示するのに数時間以上かかる企業は参加すらできない。
その他に、ビジネスでリアルタイムアナリティクス活用が進んでいる分野の1つとして、不正検知や予兆検知がある。例えば下記のような場面で活用されている。
- ネットワークトラフィックのボリュームや発生元の異常を検知
- 進行中の取引のトランザクションデータから、通常とは異なる取引パターンを検出し、取引が確定して支払いが行われる前にアラート
- センサーから送信されるデータから設備の故障・不正動作の予兆を発見
これらは、平常時に大量に発生しているデータから正常なパターンを学習し、その範囲と異なるパターンが発生した瞬間に異常を認識して通知するのである。この通知はリアルタイムであるからこそ価値がある。不正アクセスによるシステムダウンやデータ漏えい、不正取引による損失、設備故障による生産停止などが発生してからではその損失を取り戻すことは容易ではないからだ。
リアルタイムアナリティクスは身近なところにも広まりつつある。コネクティッドカーは走行中のドライバーに近隣のおすすめスポットやガソリンスタンドを教えてくれるだけでなく、速度などの走行情報や道路状況を発信し、そのフィードバックとして目的地に向かうための最適ルートを案内してくれる。買い物に出かければ、スマートフォンアプリケーションが訪れた売場のセール商品やおすすめ商品、合わせて購入すると割安になる商品などを、これまでの購入履歴に基づいて提案してくれる。外国人観光客がWi-Fiにつなげば地域の最新情報や道案内、店舗情報に自国語でアクセスできる。
人やモノがどこにいて、これから何をしようとしているのかといったデータは、これまでは収集することも難しい上に収集しても活用することができなかった。だが、今ではそのデータを用いて、利用者の状況に適した情報を提供することができ、追加の売り上げやロイヤルティーの向上といった新しい価値を生み出すことに活用できる。
リアルタイムアナリティクスを実現し、過去の分析にとどまらず近い将来を予測してアクションを起こすためには、対象となるデータを識別して収集し、分析、共有する各ステップを高速に処理しなければならない。その精度とスピードを担保するには、従来型の蓄積してから加工するプロセスでは間に合わない。収集から分析結果の提供までを一気通貫に行える仕組みが不可欠だ。
それぞれの処理を実行するために、さまざまな技術やアプリケーションがリリースされている。例えば、
- トランザクションシステムやモバイル端末、センサーなどからのデータをリアルタイムに転送するETL(Extract/Transform/Load)やストリーム処理を行うアプリケーション
- 予測分析、シミュレーション、機械学習を可能にするアナリティクスアプリケーション
- 分析結果をユーザーに共有するユーザーインタフェース技術とモバイル端末
などがある。
そしてこれらを加速・補強する技術として、次のようなインメモリコンピューティングやクラウドがある。
- 最小粒度のデータから高速に予測分析やシミュレーションを実行するためのエンジンとなるインメモリデータベース
- 分析やシミュレーションの基礎となる大量データを蓄積するクラウドストレージ
- 大量データの並列処理を可能にするCPU能力を伸縮自在に提供するクラウドコンピューティング
こういった技術やサービスをうまく組み合わせて、適切な人に価値あるデータをタイムリーに届けることが、リアルタイムアナリティクス、ひいてはリアルタイム経営の実現にとって重要だ。
これまでアナリティクスはNice to Have(あれば嬉しいもの)と扱われることが多かった。過去の結果を振り返るために使われている間は確かに、なければないで済むものだった。だが、一部の企業は既に日々のビジネス上の判断を的確に行い、売り上げを向上させたり損失を防いだりするためにリアルタイムアナリティクスを活用し始めている。その分野においてアナリティクスは競争に参加するためにMust Have(不可欠なもの)だ。自社が競争への参加権を失いつつないか、新たな価値を生み出す機会を見逃していないか、ぜひビジネスを見直してみるのが良いだろう。
次回は、大量のデータを生み出す、さまざまなモノがつながる世界、IoTとそのもたらすものについて解説する。
家田 恵
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部
SAPビジネスインテグレーショングループ プリンシパル
SAPテクニカルコンサルタントとして、さまざまな業界のクライアントにおける基幹システム導入の構想策定から運用に至るまでを支援してきた経験を持つ。2012年からはSAP HANAを中心とする新技術活用を推進するグローバルチームの一員として活動し、SAP HANAテクノロジーの第一人者として複数の案件に参画する。2015年、SAP社よりマイスター of ビッグデータとして表彰。
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