デジタル時代のERP再考(3)【前編】
あなたの身近にもある、IoT活用の変革事例(2/2 ページ)
つながる世界が生み出す新たな価値
先ほどの考察で、IoTが、われわれの身近なところにまで広がりを見せたことに触れた。IoTは実際、生活にどのような価値をもたらすのだろうか。2つの身近な例で見てみよう。
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン「ブラウンオーラルB」
1つ目は、歯ブラシがもたらす価値の向上である。歯科検診に行く度に「もっとしっかり磨いてください」と言われた経験はないだろうか。自分ではしっかり磨いているつもりなのに、いまだに正しい歯磨きをマスターできていない、といった何十年来の課題を、IoTで解決できるかもしれないのである。プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&G)が2014年に発売した「ブラウンオーラルB」は、電動歯ブラシとスマートフォン用アプリケーションが連動し、日々の歯磨き時間を可視化したり、力を入れて磨き過ぎた場合にアラートを鳴らしてくれる。また、うまく磨けていない箇所をグラフィカルに結果を表示してくれるので、磨き残しの箇所が分かりやすい(図2)。
このように、歯ブラシという日用品を考えただけでも、ネットワークにつながることでさまざまな新しい体験価値提供のチャンスを見いだしていくことができるようになる。例えば、ブラシの交換のタイミングで自動的にインターネットを検索し、価格の安いWebサイトからの購入までをサポートできる機能があれば、ユーザーの使い勝手はさらに良くなるだろう。また本体に取り付けられたセンサーからデータを収集し、予防保守、パーツ交換など本体の状態に応じたアフターサービスを拡張できるかもしれない。
こうした取り組みにより私たちは、「歯を磨く道具を購入する」という価値だけではなく、「歯磨きをする」という本来の目的に対する、より広範囲のサービスを価値として享受することが可能になる。一方企業は、収集したデータを基に、さらなる価値向上のために、どのようなサービスの提供が望ましいのかを検討することが可能となる。例えば、気候や食べ物の種類など、地域の特性を加味した磨き方の提案をしたり、人種ごとの特性に応じた歯ブラシを開発したりと、長期的に顧客とのエンゲージメントを高める手段を獲得できるだろう。
日本酒「獺祭」
2つ目は、食における顧客価値の向上である。少子高齢化が進む日本において、伝統技術の継承は大きな課題である。現在、国内外で高い評価を受けている日本酒「獺祭」も、技術継承の課題に直面した。その製造は専門的な職人の技術に頼っていたため、杜氏(とうじ)の不足という危機に直面し、生産の継続が危ぶまれていたのである(図3)。
酒造りにおいて重要なのは温度管理であるといわれている。同じ酒蔵で作っても、出来、不出来を左右するもので、繊細な管理が求められる。また原材料である山田錦の出来によって、味や香り、色が変わってしまうそうだ。しかしIoTを活用することで、このような課題を解決することができるのである。
旭酒造では、杜氏の頭の中にブラックボックス化してしまっていた獺祭製造のノウハウを可視化するため、全工程からデータを収集し、蓄積して、“ITによる酒造り”という改革をした。この改革により、品質にバラつきなく獺祭を生産することができるようになった。さらに、伝統の酒蔵では冬場にしか仕込みができなかったが、1年を通して生産することが可能となり、出荷量を伸ばすことに成功した(図4)。
この取り組みにより私たちは、入手困難な銘酒を購入するという価値ではなく、獺祭を手軽に楽しむという新たな価値を享受することが可能になった。今後はさらに、原材料の安定的な確保という領域においても、IoTが利用できるかもしれない。獺祭の原材料となる山田錦の栽培は、酒造りと同じく長年のノウハウが必要だといわれている。先に述べた通り、ノウハウはITによって可視化することが可能だ。山田錦の栽培においても、土壌や気候、水質などのデータをセンサーから取得し分析することで、データに基づいた綿密な生産管理/工程管理が可能となるだろう。結果、IoTで原材料の調達と、品質双方の安定化を実現できる。伝統の継承と社会問題への貢献もIoTがもたらす新たな価値といえるのではないだろうか。
新たな価値を顧客に提供するためは、そのビジネスモデル、プロセスを支えるバックエンドシステムも変化せざるを得ない。後編では、IoTの普及によって求められるERPシステムについて紹介する。
坂田英宣
アクセンチュア
デジタル コンサルティング本部
シニア・マネジャー
英University of Southampton Business School(サウサンプトン大学ビジネススクール)でMaster of Business Administration(MBA:経営学修士)課程を修了。アクセンチュアのデジタル コンサルティング本部でデジタルマーケティング関連のソリューションをリードする。Eコマースを中心に数多くの大規模なシステム構築プロジェクトやマーケティング支援プロジェクトに携わってきた経験を持つ。IoTを活用した店舗デジタルソリューションやオムニチャネルソリューションに対して豊富な知識を有しており、外部セミナーでの講演など、積極的な情報発信を行っている。
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