kintoneでベテランのノウハウをツール化
「あの人じゃないと分からない」をなくす、中小企業こそできる案件管理システム作成術(2/2 ページ)
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社運をかけた業務改善プロジェクトで、業務フローの問題を根本から見直す
こうした中での今野氏にとっての一筋の光明が、社外勉強会への参加を通じ、業務プロセス改善に精通したコンサルタントである渡辺和宣氏(プロセスデザインエンジニアリング)と知り合ったことだった。同氏のコンサルティング手法を簡潔に説明すれば、業務プロセスを「機能」の連鎖と捉え、業種業態ごとの業務参照モデルを参考に、企業の業務全体を機能の粒度別に把握。併せて、社員への綿密な質問によって引き出された課題がどの機能に起因するかをひも付け、明らかとなった問題の深刻度に応じ、改善策を講じるものである。
この手法は、一般に大企業での縦割り組織の弊害を解決するために用いられる。今野氏は当初、企業の体力面からも、これほど大規模なコンサルティングを完遂できるか否かについて不安を感じていたという。それでも採用を決断した理由は、経営者としての危機意識であった。業務改善プロジェクトを社内で発足したのは2010年7月のこと。メンバーは営業、設計、製造など、各部門機能を代表する総勢6人で、そのほとんどは若手社員であった。
業務改善プロジェクトの柱となる作業は、個々の業務を“機能”で切り分けていくこと、そして個々の機能と業務課題のひも付けだ。それらは極めて抽象的な作業で困難を極めた。「“特注品の受注はベテランでないと難しい”という思い込みから、たとえ業務プロセスが可視化されても、問題の根本解決は到底困難と考える社員も少なくなかった」と今野氏は振り返る。だが、徐々に業務フローが細かな粒度で可視化するにつれ、メンバーの理解は一気に進んだ。具体的な日常業務との関連性に気付き、フローを基にした改善策の議論が自発的に盛り上がり始めた。
業務フローに潜む根本的な問題としてまず挙がったのは、担当者が何役も兼務することに由来していた「業務ノウハウの属人化」だった。例えば設計部門が部品の見積もりを取ることは「設計部門が調達部門の機能を兼任した」ことになる。やれる人がやる、というのは少数精鋭の職場ではフットワークの軽さという大きな強みにつながるが、一方で「あの人以外はその業務が分からない、できない」という状態にもなる。また、設計や製造などにまつわる情報のやりとりが一連の業務の間に何度も発生してしまい、部門ごとに同じ情報をそれぞれ保管していたことで情報の同一性が失われていた。これも、トラブル発生時に迅速な対処を困難にした問題の1つだった。
サイボウズ デヂエやkintoneなどで案件管理システムを内製
このような問題の可視化が一通り終わったのが2011年3月のこと。いよいよ実務への反映という段階で、業務標準化を通じた全社規模での情報共有に着手した。営業スタッフが顧客に対して確認すべき項目の取りまとめを筆頭に、最初は紙ベースでスタートしたところ、その効果はすぐに確認できた。そこで、3拠点での情報共有をより迅速にするため、同社は案件管理システムの整備を開始した。ITシステムに大きな予算を割くことは難しかったため、まずは既に社内で見積書の作成のために利用していた、サイボウズのWebデータベース「サイボウズ デヂエ」でシステムを構築することにした。
「案件管理システムで目指したのは、各自がばらばらの形式で保管してきた情報を、案件ベースでの集約管理に変えることと、案件を通じて社内的な情報流通を円滑化すること。業務フローを機能に置き換えて明確化してきた業務改善プロジェクトの過程で、いつ、誰が、どんな情報を必要とするのか、を十分に整理してきた。その成果か、データベースとシステムの構築自体は容易で、内製でも十分なシステムが作成できた」(今野氏)
サイボウズ デヂエで構築した案件管理システムが稼働したのは2011年5月だ。その運用の途中で、サイボウズからkintoneがリリースされた。kintoneは月額利用料が安く、デヂエで作ったシステムを簡単に拡張できる上、クラウドベースで、コミュニケーション機能もある。「業務の標準化は不可欠だが、仕事にはイレギュラーな対応も必ず発生する。kintoneならば営業スタッフが顧客要求を引き出すノウハウを定型化した項目だけでなく、営業時のちょっとした雑談のような非定型な情報も一緒に共有できるようになる」。そう考えた今野氏は、kintoneがリリースされるとすぐにkintoneへのシステム移行を検討し始めた。2012年3月にkintoneのスタンダードコースに移行したシステムでは、画面のボタンを押すことで関連部署に“情報の入力完了”が通知されるという、ワークフロー機能を実装した。また、生産管理や在庫管理も含めたデータベース部分はアプストウェブの「コンテキサー」を利用し、案件管理システムと連係させた。
社員数は変わらず、売り上げは4倍に
今野氏によると、kintoneで構築した案件管理システムは業務効率化に確実に寄与しているという。実際に2011年の売り上げ実績と比較すると、2015年度は特注品の売り上げが約4倍に増加したという。社員数はほぼ従来と変わらず、特定の誰かに作業が集中することもなくなった。クラウドサービスであるkintoneは外回りの営業スタッフにとっての利便性を高め、メッセージ機能による即時性も生まれた。先輩が後輩にちょっとした顧客情報を引き継ぐことがより容易になり、商談の発注から納品までに要する時間も2割ほど短縮したという。同社がkintoneで構築した案件管理システムの機能は、ベテランの業務ノウハウそのものでもある。このシステムを使うことで、ベテランのノウハウが若手へ安定的に継承していき、業務の属人化は解消されていった。
業務改善プロジェクトを通じてスタッフ同士の信頼関係が育まれていったことも大きな効果だ。従業員が業務プロセスの見直しノウハウを獲得したことで、業務の効率化が現場主導で自発的に行う姿勢が生まれたという。
2014年には、販社を介さずに海外の顧客と直接貿易する案件も受け始めた。そのため輸出貿易関連の細かな管理業務が新たに発生したが、事務スタッフが自発的に業務フローと情報共有フローを洗い出し、kintoneによる業務管理システムを構築したことで、新たな事業も順調に遂行している。kintoneはインタフェースが簡便なため、データベース設計が適切であれば、担当者別進行中案件一覧画面を追加したり、カテゴリ別の案件一覧表示を追加したり、といった機能拡張も容易だ。業務を機能で切り分けてITシステムを自社構築し、使いながら機能拡張していくという“ITカイゼン”の経験が、従業員一人一人の可能性をさらに高めたのだ。
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