kintoneでベテランのノウハウをツール化
「あの人じゃないと分からない」をなくす、中小企業こそできる案件管理システム作成術(1/2 ページ)
今野製作所は1961年創業の老舗企業だ。「油圧爪付きジャッキ」の受注設計生産で業績を回復した秘策は、ベテラン営業の顧客要求の引き出しノウハウをkintoneで可視化し、情報共有するシステムを作ったことにある。
自動車や鉄道のレールといった重量物の移動に欠かせない油圧ジャッキ。それに爪を付けた「油圧爪付きジャッキ」を国内で初めて商品化したのが今野製作所である。同社は油圧機器の設計製作を事業の柱に据え、他に板金加工や福祉機器の開発製造販売といった受託開発事業も手掛ける。創業は1961年。東京本社、大阪営業所、福島工場、の3拠点を構え、従業員は約30人の中小企業だ。
今野製作所の代表取締役社長である今野浩好氏は、顧客ニーズの変化に応じて発生した業務フローの混乱や衝突を、ITシステムで改善しようと考えた。ただし、単なるトップダウン指示と、ITベンダーが提案するシステムを導入しただけでは現場が付いてこない心配があった。まずは現場の業務プロセスの問題を整理し、その上で新しい業務フローに適したシステムを安く作りたい、という今野氏の構想にマッチしていたのが、サイボウズの業務アプリケーション構築クラウドサービス「kintone(キントーン)」であった。1人の従業員が何役も兼任することが多い中堅・中小企業では、業務プロセスが属人化する問題から逃れることは難しい。同社も直面していたこの問題をどのように整理して、システムを構築したのだろうか。
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中堅・中小企業のための「データ見える化」術
従来の業務フローが情報の正しい流れの“足かせ”に
油圧爪付きジャッキは、一般的なジャッキと比べてより低い位置で重量物の持ち上げを可能とした。その利便性から、同製品は重量機械移設や土木工事などさまざまな現場で利用され、同社の成長をリードしてきた。ただし、中堅・中小企業をとりまく経営環境はリーマンショック以後、厳しい状況にある。今野製作所でも同様であった。企業の設備投資の落ち込みは、工場のライン見直しの手控えといった形で現れ、油圧ジャッキの売り上げ減に直結する。こうした中、同社が売り上げを維持し、次なる成長につなげるために注力してきたのが、経営理念に掲げる「顧客の“ほしい”を“かたち”にすることを喜びとする」ことの深化である。具体的には、単品でのイージーオーダーやカスタムメイドによる特注品の販売に軸足をシフトさせてきた。「幸いなことにこの戦略は奏功し、経済財政政策の後押しもあり売り上げ拡大期を迎えている」と語る今野氏だが、ここに至るまでには苦労も少なくなかった。
今野製作所では3拠点約30人の社員が、標準品の設計や製造、販売に携わり、いわば現場主導で業務フローを確立してきた。「やれる社員がやるというのが、当社での現実的な仕事の進め方」と今野氏は話す。だが、特注品の販売強化に向け、明確な業務ルールが存在しないことが、さまざまな弊害を招くこととなった。中でも最大の課題が、従来の標準品受注設計生産に関わる業務フローが、特注品の受注設計生産にはフィットしなかったことである。
特注品の最大の特徴は、当然ながらオーダーごとに仕様が異なることだ。特注品の設計や製造に当たっては、案件ごとに顧客から製品への要求を詳しく“引き出す”必要がある。なぜなら、発注者自身が自社の要望を把握できないことがしばしばあるからだ。油圧爪付きジャッキはさまざまな業界で利用されているため、業界ごとに製品の前提条件が大きく異なる。例えば、ジャッキを使う場所が屋外なのか、屋内なのか、クリーンルームなのか、といったささいな条件の違いが製品仕様の違いに直結する。発注者にとっては当たり前過ぎて伝え忘れているような暗黙的・潜在的要求を、営業スタッフは引き出さなければならない。一般的な“ヒアリング”では、発注者の明示的要求しか聞き出すことはできない。ケアレスミスで確認し忘れるケースもあり得る。
同社では従来、特注品への対応はベテランスタッフを主軸に進んでおり、対応ノウハウはほとんど共有されていなかった。こうして特注品の営業を続けるうち、スタッフに仕様の細かな聞き逃しが頻発し、設計や製造の手戻りが少なからず発生していたという。「現場では電子メールよりも電話やFAXが主に利用され、“言った”“言わない”といったトラブルも発生していた。また、特注品を担当する営業と技術スタッフに業務が集中して多忙を極める一方、標準品を担当する社員の仕事は減っていた。この状況は、組織全体の仕事量のバランスや均質化、効率化の観点から問題と考えていた」(今野氏)
今野氏はこれらをすぐに把握し、対策が急務との結論に至っていた。ただし、情報共有の不徹底という問題は顧客対応の場面に限らず、営業が工場に連絡する場面や、工場が営業に連絡する場面など、業務フローのあらゆる部分に散在しており、どこから手を付けるべきか判断しかねる状態だったという。
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