個別開発に比べコストが数分の1に
通常数千万円の開発案件に「kintone」を適用、SIerの下克上は可能か?
ノンプログラミングで業務アプリケーションを作成し、そのままクラウド上で運用できるサイボウズの「kintone」が、基幹系システムのフロントの在り方を変えた。kintone導入で実績を持つ新興SIerのアリーナシステムに聞いた。
サイボウズの「kintone on cybozu.com」(以下、kintone)は、PaaS(Platform as a Service)に分類されるクラウド型の業務アプリケーション開発プラットフォームだ。営業支援、顧客サポート、業務ワークフローなど、“現場”の活動を支える業務アプリケーションを手軽に開発・運用できる基盤として、2011年11月のサービス開始以来、導入社数は1500を超える。
システムインテグレーター(SIer)もkintoneには熱い視線を注いでいる。ユーザーの既存システムとの連携や、企業間チームワークを支援するWebベースのデータベースアプリケーションの開発・運用がしやすく、多様なユーザーニーズに素早く対応できるためだ。
コストが数分の1になるとビジネスチャンス
2002年設立の新興SIer、アリーナシステムもそうした1社である。同社の特徴は中小企業向けERPに特化したビジネスを手掛けていること。オービックビジネスコンサルタント「奉行シリーズ」、応研「大臣シリーズ」などのERP製品を中心に導入から運用までをトータルに支援している。
その同社がkintoneを取り扱い始めたのは、得意とするERPのフロントシステムに利用できると見込んだからだ。代表取締役の花尾正人氏がこう話す。「フロントシステムにはさまざまなニーズがあるが、最近では必須のモバイル対応1つを取っても、セキュリティを考えながら環境を整えるのは大変だ。kintoneならそうした環境が標準でそろっている。これは使えると思った」
kintoneでは当然、サイボウズのクラウド基盤「cybozu.com」をインフラ層で利用している。ユーザー(委託されたSIer)はハードウェア調達や性能・可用性管理といった煩わしい作業を免れる。また、アプリケーション開発も基本はノンプログラミング。用意された部品をドラッグ&ドロップで配置してフォームを作成したり、既存Microsoft Excelシートからの変換、テンプレートのカスタマイズによって開発できる。さらに標準でグラフ表示を含むリポート、モバイルビュー変換、全文検索などのアプリ機能もそろっている。
ただ、SIerにとって手間の掛かる作業こそ収益機会なのではないか。それがkintoneでは、企画・設計を除けば開発作業はかなり限定される。不足機能をJavaScriptでプログラミングするか、他システムと連携するためにAPIでインタフェースを開発するかである。
この疑問に対して花尾氏はこう指摘する。「もともと当社は導入支援などサポートの収益比率が高い。それと当社のような新興企業はなかなか数千万円クラスの開発案件は受注できないが、それがkintone利用でコストが数分の1に落ちてくると、われわれにも大いにチャンスがある。加えて、お客さんと相対する業務コンサルがプログラマーに頼らずともアプリケーションを開発できる。これも当社にとって大きな魅力だった」。つまり、kintoneはSIerのビジネスを変える可能性も秘めているわけだ。
では、今までなら数千万円が掛かっていた開発案件にkintoneを適用するとどうなるか。以下2つの事例は、アリーナシステムが実際に顧客へ導入したkintoneベースの業務アプリケーションである。
タブレット使い生産現場でリアルタイム製造工程管理
事例1:製造業A社
アリーナシステムが生産管理システムを導入した製造業A社では、現場で日々行う製造工程管理の在り方が問題になっていた。従来は印刷した帳票に工員たちが記入した後、その日の作業後にまとめて生産管理システムにデータ入力するスタイルで、効率が悪くリアルタイム性にも欠けていた。
製造工程管理を支援するフロントシステムを開発するには、工員が作業をしながら入力するために利用するタブレット端末の導入およびタブレット端末へのアプリケーションの最適化、生産する品目によって製造工程管理の項目やフローを変えられる柔軟性の高いアプリケーション開発、生産管理を含む基幹系システムとの連携と、かなりハードルが高かった。そこでkintoneの活用が提案されたのだ。
開発したアプリケーションはkintoneとしては比較的大掛かりだった。標準機能をフルに使い、項目数が200を超える詳細なフォームを作成した。画面がかなり縦長になるため、高速スクロール、画面縮小など表示をスムーズにする機能を盛り込んだ。標準機能にはない値チェック、項目間制御などのコントロールはJavaScriptで開発。A社の生産管理システムや販売管理システムと双方向でデータ連携するためのインタフェースは、kintone専用のREST型APIで開発した。
A社では現在、約70人の工員がタブレット端末を携帯しながら作業を行っている。作業中に入力されたデータはリアルタイムに基幹系システムへ反映され、一部は計算処理されて端末側に返される。生産現場(kintoneアプリのクライアントサイド)、クラウド(kintoneアプリ)、社内(基幹系システム)という3極のスムーズなシステム連携が実現している。
問題のアプリケーションの柔軟性だが、kintoneでは簡単に項目を追加・削除したり、項目の属性やフローを変更したりすることができる。実際、生産品目を切り替える際は、アリーナシステムの技術者がフォームの変更を行う。「影響調査に時間を取られることもなく、3時間ほどで変更できる」という。これなら生産品目の切り替えの妨げになることもない。A社の製造工程管理は大幅に効率化したわけだ。
使い捨ての個別最適化したアプリで監督業務を支援
事例2:中堅ゼネコンB社
ゼネコンの現場監督はやるべき仕事が多岐にわたる。工程/品質/安全/原価を厳密に管理しながら、工種ごとに必要な人材/機材をタイムリーに投入しなければならない。特に好景気な建設業界では今、必要な資格を持つ人材を確保するのが難しくなっている。こういう領域こそkintoneが生きると見たアリーナシステムは中堅ゼネコンB社に対し、現場監督を支援するアプリケーションを提案した。
アプリケーションの中核機能は、協力会社(下請け)各社の人材/機材をデータベース登録し、工種ごとに割り当てるものだ。どの協力会社にどの資格を持つ職工がどれだけいて、必要な期間に手配可能なのかどうかが分かる仕掛けである。タブレット端末を用いてアプリケーションを利用し、どこにいても手配業務が行える。従来は協力会社から提出された紙の職工名簿を基に人材をリストアップしていたが、名簿の情報が古いために手戻りが発生したり、安全管理のため職工の持つ資格が本当に有効期限内かどうかを確認したり、かなりの手間が掛かっていた。それが改善されたのだ。
協力会社は、kintoneアプリケーションを社外ユーザーに開放するためのゲストスペース機能を利用し、データベースに接続したり、手配状況を確認できる。機密性を保つため1スペースに1社を割り当てている(ゲストスペースの数は標準コースで500)。また、多くの協力会社はWeb経由で情報を登録/参照しているが、一部は既存/新規の人事管理アプリケーションとkintoneを連携させている。これもアリーナシステムが開発を請け負っており、システム連携する協力会社を増やしていく考えだ。
アプリケーションは人材/機材データベースの他、工程管理を情報化する機能などを持つ。工程の進捗状況がひと目で分かるガンチャートなどはJavaScriptで独自開発している。一方、中核の共通機能以外は現場ごとに異なるのが特徴だ。つまり、一元的なデータベースの下、現場ごとにアプリケーションを個別最適で作成している。工事が公共か民間か、同じ民間でも施工主により、求められる管理要件が微妙に異なってくるからだ。そして「工事が終われば、そのアプリケーションはバッサリと捨てる」という発想である。苦労せず短期間にアプリケーションを作れるkintoneならではだろう。
企業間のチーム作業を支えるkintoneアプリを提案
以上、アリーナシステムが導入したkintoneアプリケーションを2種類紹介した。いずれも従来の環境/手法で構築する場合、多額のコストや開発期間がかかるのは容易に想像できる。それがkintoneを活用することで、大幅に削減でき、受注につながったのだ。花尾氏は「開発工数が大幅に減る分、企画提案などの付加価値をユーザーにどう見せるかが、SIerとしては鍵になる」と話す。
アリーナシステムとしては今後もkintoneを積極的に活用し、ユーザーのビジネスを支援していく構えだ。「中堅ゼネコンの例でも分かる通り、多くの企業が連携しながら1つのプロジェクトを進めるケースが増えている。そうしたチーム作業にkintoneは最適。活用法を提案していきたい」(花尾氏)
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