ソフトバンクによるARM買収が与える影響【前編】
「iPhone」「iPad」搭載チップのベースも設計、ARM買収の“そもそも”の理由は
「iPhone」や数多くの「Android」デバイスが採用するチップを設計しているARM Holdingsをソフトバンクが買収した。これによりIoT分野はどうなるのだろうか。
ケンブリッジに本社を置くARM Holdingsは長らく、モバイルブームに乗って躍進してきた。現在、ほぼあらゆる「iPhone」や「iPad」「Android」デバイスがARMの設計に基づいて製造されたチップをベースとして搭載している。
それならばなぜ、ARMを320億ドルで買収するというソフトバンクの計画について懐疑的な見方があるのだろう。インターネット大手であるソフトバンクの社長である孫正義氏はこの買収に関する記者会見において、モノのインターネット(IoT)は成長分野であり、次にやってくる「パラダイムシフト」だと買収の狙いを説明した。
この買収はさらにもう1つ別の疑問も提起している。それは、IoTチップ市場におけるARMの立場とは、正確にはどのようなものであるかというものだ。
ARMとIoT
ARMはIoT向けの各種技術を有する。同社のプロセッサはさまざまな組み込みシステムのマルチコントローラーに搭載されている。例えば「Cortex-A」シリーズは、AppleやSamsung Electronics、ソニー、Nokiaなどのスマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末のプロセッサで採用されている。さらにARMは「Cortex-M」シリーズ向けにIoT用のプラットフォームとサブシステムを提供している。Cortex-Mは、インターネットに接続できるスマート衣料やスマートシティーの他、仮想現実(VR)および拡張現実(AR)アプリケーションなどに採用されている組み込み用プロセッサだ。
さらにARMはこの1年間に下記といったIoT関連企業を複数買収している。
- 「ハードウェアセキュリティIP」(知的財産)と「SoC」(System on a Chip)ソフトウェアを提供するイスラエルのセキュリティ企業Sansa Security
- IoT向けのセキュリティソフトウェアを手掛けるオランダのOffspark
- 画像処理や組み込みコンピュータビジョン技術を持つApical
「ARMはバリューチェーンに入り込むことで市場での寿命を伸ばしている。ARMの技術は既に、インターネット接続デバイスのアーキテクチャで優勢に立つことを目指す多くの企業の製品やビジネスモデルに組み込まれている」。数年前からIoT市場の動向を追っている独立系アナリストのジェシカ・グループマン氏はそう指摘する。
グループマン氏によれば、ARMの立ち位置はソフトバンクにもプラスに作用するという。ウェアラブル端末やドローン、スマートシティーアプリケーション、スマートホームデバイスなどの市場で、ソフトバンクは「極めて有利なスタート」を切れることになるからだ。
それでも、ソフトバンクがIoTに寄せる期待が現実的なものかどうか、またARMがモバイル分野と同様IoT分野でも成功できるかどうかについては、懐疑的な見方が少なくない。
Gartnerの調査担当副社長マーク・ハン氏は、IoT市場とモバイル市場は大きく異なり、比較できるものではないと指摘する。
「携帯電話端末の年間出荷台数は20億台近く、タブレット端末は約2億台だ。IoTがこうした数字に到達するには、しばらく時間がかかるだろう」とハン氏は語る。さらに同氏は、よく指摘される210億台という数字を引き合いに出し、「インターネット接続型デバイスの数は2020年に210億台に到達するとみられている。出荷台数の点でも売上高の点でも、スマートフォンの方がはるかに大きな規模だ」と続ける。
ただしハン氏によれば、ARMには成長の余地があり、この市場を支配できる可能性もあるという。とはいえ、今それを判断するのは時期尚早だ。
「ARMは良い位置に付けている。もっとも、今後モバイル市場と同様、IoT市場においても傑出した存在になれると言っているわけではない」と同氏は語る。
後編では、IoTチップ市場におけるARMの立場と今後の展開について紹介する。
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