超薄型の太陽電池が誕生するかも
発電する“スマート衣料”でモノのインターネット(IoT)が当たり前になる日
超薄型の炭素原子シート「グラフェン」が、「モノのインターネット」(IoT)などのスマートテクノロジーの可能性を最大限に発揮するためのセンサー用素材として注目を集めている。
英国ギルフォードのサリー大学に、格子構造を持つ超薄型素材「グラフェン」のシートを開発している研究者がいる。彼らはグラフェンシートについて「コンピューティングやモノのインターネット(IoT)のテクノロジーなど、複数の分野を大きく飛躍させる可能性のある進歩だ」と語っている。
同大学のAdvanced Technology Instituteでセンター長を務めるラビ・シルバ教授は次のように話す。「分野によってはグラフェンシートが発揮する可能性は計り知れない。私たちはグラフェンシートによって次世代のナノデバイスが開発されることを期待している。この素材は日常的に使用されるセンサーに応用可能だ。デバイスの観点では、高品質のセンサーを提供し、情報を送信するためのエネルギーを必要に応じて取得する太陽電池が実現されると私たちは考えている。そして電子デバイスには、エネルギーの管理、取得、保存の面で大きな前進をもたらす。事実上、このテクノロジーによってIoTはその可能性を余すことなく発揮できるようになるだろう」
グラフェンは原子1個分の厚みを持つ高伝導性の炭素同素体で、2004年に初めて単離に成功した。原子は網目構造をしている。強度は驚くほど高いが、光の吸収効率は高くない。
だが、同大学の科学者は「ナノテクスチャリング」という手法を使用して、テクスチャ加工を施した金属の表面にグラフェンを成長させた。その結果、光吸収率が約90%向上した超薄型の新しいグラフェンシートが誕生した。シルバ氏がヒントを得たのは「蛾の目」だという。蛾の目は、非常に暗い場所でも対象を見ることができる微細な構造になっている。
このブレークスルーの偉大さは、グラフェンシートの有用性にあると同氏は語る。この素材で太陽電池をコーティングすれば、薄暗い場所でもエネルギーを得られると同氏は見込んでいる。また、“スマート壁紙”や“スマート窓”として使えば、今まで無駄にしていた光や熱から発電できるかもしれない。さらに、IoTの一環として新種のセンサー開発も期待できる。例えば、小型埋め込みデバイスの力を借りて動力源となるエネルギーを取得・保存する方法を提供してやることで、グラフェンシートは“スマート衣料”やウェアラブルデバイスにエネルギーを供給することも可能だ。
「今後は本格的にパートナーと協力していきたい。具体的には産業界のパートナーだ。私たちには試作構想がある。だが、これをまずテクノロジーとして発展させなければならない。エネルギーの取得や保存に携わる企業の協力を求めている。それから、光学デバイスの小型化を検討している企業の協力も必要だ。私たちが彼らに提案できるのは『より効率的なエネルギー伝達を可能にするもの』だ。例えば、周囲からエネルギーを取得する必要がある太陽電池やサーマルデバイスが挙げられる」(シルバ氏)
また、同氏は次のように付け加えている。「今考える必要があるのは、グラフェンを生かすよう開発された新しいデバイスとテクノロジーで、このようなエネルギーを使用する最善の方法だ」
サリー大学の研究者は、科学雑誌『Science Advances』の2016年2月26日号で研究結果を発表している。
グラフェンの注目度は非常に高い。研究者は2006年ごろからグラフェンについて、ディスプレイやPCチップといった電子機器に活用できる可能性を誇大宣伝してきた。グラフェンの商用利用を先導する企業には、IBMとSamsung Electronicsが含まれる。例えば、IBM Researchのチームは2014年1月に世界初の多層グラフェンRFレシーバーを開発およびテストした。これに勝るグラフェン集積回路は開発されていない。このデバイスのパフォーマンスは、以前のグラフェン集積回路の1万倍優れている。一方、Samsungの中心的な研究開発インキュベーターであるSamsung Advanced Institute of Technologyは、グラフェンを活用するトランジスタ構造を開発した。
その他の企業や研究機関、大学でもグラフェンの研究は同様に進められている。
「グラフェンは驚くべきことを数多く成し遂げる、とても優れた素材の1つだ」と語るのは、米ニュージャージー州ホーボーケンのスティーブンス工科大学機械工学科に所属するE.H.ヤン教授だ。
ただし、ヤン氏はグラフェンが近々革命を起こすという展望は当てにすべきでないという。多数の科学者がグラフェンの可能性について大変楽観的に捉えている一方で、懐疑的な見方を示す科学者もいる。自身の意見はその中間にあると語る同氏は、安価で優れていて効率的なデバイスを実現する可能性をグラフェンのような素材は秘めていると話す。
「グラフェンは、まだその地点には達していない。今はまだテクノロジーの開発段階にある。誇大宣伝されているが、この分野でグラフェンはまだ何も成し遂げていない」とヤン氏はいう。
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