川田大輔のクラウド解体新書【第2回:サマリー版】
クラウド“ビッグ4”のデータセンターは、どのくらいビッグで複雑なのか?(2/3 ページ)
おさらいが長くなったのでそろそろ話を進めよう。インターネットによってフラット化した世界では流動性が高まり、人や物や情報がかつてより活発に移動するようになってきた。一方で、世界の断片化の動きも無視できない。例えばサービスプロバイダーは法域ごとに対応を変える必要がある。国家という経営単位からの要求に従って、対象法域内にデータを置かなければならない場合もあるのだ。EUのように人口と所得水準が高い市場や、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のように人口増加と経済成長が著しい市場など、参入側から見て魅力的な市場であれば殊更だ。MicrosoftやAmazon Web Services(AWS)が中国国内にリージョンを設置したように、サービスプロバイダーは費用と利益をてんびんにかけて個別対応を図る。
より実務的な観点で見ると、クラウド事業者にとってデータセンター設置地域の選定は小売業者の商圏選定と同じ意味を持つ。顧客はどうしても欲しかったり、そこでしか手に入らなかったりする特別な商品(サービス)でなければ、遠くの店(レイテンシの大きな他の大陸にホストされたサービス)にまで出向かず、近所の店(レイテンシの小さなサービス)で用を済ませるものだ。かつては「8秒ルール」(Webサイトのページ応答に8秒以上かかると、閲覧者が離脱してしまうこと)などという牧歌的な応答時間要求仕様が許されていたものだが、インターネット利用が普及し日常的なツールになるにつれ、利用者はサービスレイテンシに対してますます不寛容になっている。
国家(地域)単位、レイヤー単位、技術世代単位、顧客要求水準など、さまざま利害対立の断片がせめぎあう市場の姿が見えてきた。
一般的に伝送距離が延びるほど遅延は大きくなる。利用者の端末性能を基にした適度な複雑さのサービス設計も大切だが、利用者が遅延を感じやすいサービスであるほど、サービスホスト先は利用者の多い場所(大消費地)にデータセンターを設置する努力が必要になる。
そうなれば、世界の多くの人々が求める遅延感度が高いアプリケーションを提供する事業者であるほど、断片化した世界と向き合わなければならなくなる。以前は「カリフォルニア州法に基づき、サンタクララ地方裁判所管轄とする」といった横柄な約款が幅を利かせていたが、サービス提供先地域(国家)の現地法規へ対応も徐々に進みだしている(この状況を作る上でEUが果たした役割は評価されるべきだ)。Facebook、AWS、Google、Microsoftといった事業者が、それぞれのサービス特性に合わせて、大消費地(断片化した世界のうち比較的大きな切片)から手頃な距離感の立地に(地政学的な考慮はするにせよ)データセンターを建設し、現地化運用をしているのは理にかなっている。
「Microsoft Azure」を例に取ると、2016年3月時点で稼働中のリージョンは22拠点(他に米国防総省専用リージョンなど8拠点の計画リージョンも)ある。それぞれのリージョン(※3)には、1U当たり2台収容可能な、通常の半分の幅でCPUソケットを2つ搭載したサーバが57Uの特製ラックに収容されており、1ラック当たり最大で96台のサーバを収容している。この高密度ラックをデータセンター建屋1棟当たり400ラック程度収容し、リージョン当たり最大で16棟の建屋を配備しているという。16コアCPUを採用していると仮定すると最大で4億3253万7600コア(16コア×2ソケット×96台×40ラック×16棟×22拠点)を保有、実働50%程度としても2億コアが稼働している計算になる。これだけ保有・稼働してようやくクラウド市場シェアの10%だ。ちなみにこの計算だとMicrosoftのリージョンは1拠点当たり最大で61万4400台(96台/ラック×400ラック/棟×16棟)のサーバを収容している計算になる。Googleのデータセンターは10万~40万台のサーバを収容しているといわれているので、拠点当たりの収容サーバ台数20万~30万台という規模はトップグループの常識なのだろう。Microsoftは自社データセンターのバーチャルツアーを提供している。興味のある人は訪問してみるとよいだろう。
※3 厳密に言うと、同社はデータセンターの設計時期によって、コンテナ型をはじめ多様な実装形体を取っている。
単純な比較はできないがノードの規模にだけ着目するならクラウドビッグ4(AWS、Microsoft、IBM、Google)は、それぞれ単独で1990年代末から2000年代初頭のインターネット全体と同等以上の複雑さを持っていると言っていい(余談だがMicrosoftがAzure内部ネットワークを、インターネットの経路制御プロトコルBGP<Border Gateway Protocol>で構築しているのも納得の規模だ)。これだけの規模のコンピュータ資源が(リージョン単位などの制御制約はあるにせよ)単一のシステムとしてリアルタイムに挙動監視されながら、単一のコントロールパネルで操作可能になっているだけでも驚くべき進歩といえる。
本稿冒頭でMicrosoftと米司法省の控訴審の件に触れたが、他にも米国IT企業には各法域の要求に対して順法精神を持って対応しつつも、顧客利益保護の観点から、政府による情報開示要請に関して説明する「透明性レポート」を公開する企業もある。国家という経営単位からの要求と顧客利益のバランスをより高い水準で均衡させる取り組みが広がっているのだ。透明性レポートの公開は日本企業には見られない風習だが、日本にはNSA(米国家安全保障局)が存在しないから関係ないと言わずに今後、世界全体を市場として行動する際に必要とされるガバナンス水準を考えると、国家との関わり方を相対化する視座は必ず必要になる。
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