川田大輔のクラウド解体新書【第2回:サマリー版】
クラウド“ビッグ4”のデータセンターは、どのくらいビッグで複雑なのか?(1/3 ページ)
成長を続けるクラウド“ビッグ4”はそれぞれが単独で2000年代初頭のインターネット全体に匹敵する規模に達している。膨れ上がる複雑さを低コストに扱うにはAIが欠かせない。だが誤解も広まっているようだ。
本稿は、連載「川田大輔のクラウド解体新書」第2回のサマリーを掲載したものです。完全版は以下からダウンロードしてご覧ください(会員限定/無料)。
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成長を続けるクラウド“ビッグ4”は、それぞれが単独で2000年代初頭のインターネット全体に匹敵する規模に達している。膨れ上がる「複雑さ」をより低コストに取り扱うためには「人工知能」(AI)が欠かせない。CPS利用と組み合わせ複雑さを増すクラウドはこれからますます「賢く」なっていく。
一方、AIという言葉は勝手に独り歩きし、仕事を奪われるとおびえる極端からユートピアの到来を夢見る極端までさまざまな妄想が広まっている。規制・振興当局ですら野良ロボットが参政権を要求するかもしれないと真面目に議論しているありさまだが、もう少し落ち着いてほしい。世界はこれまでも変化し続けてきたし人々はいつの時代もなんだかんだいいながら変化する環境に適応し続けてきたのだ。何がどのように変化していくのかを落ち着いて観察していけば変化自体は恐ろしくない。むしろチャンスですらある。
第1回のサマリー版「AWS圧勝とは限らない、クラウドシェア争いの現場で起きている“異次元成長”」では、クラウド市場の成長がいまだ序盤戦であることを確認した。
グローバルインフラとして世界を覆いつくすインターネットが、世界をフラット化するとともに新たな断片化を顕在化させている。今後は成長率の低い先進国市場での既存IT需要の置き換えと、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)をきっかけとしたCPS(Cyber Physical Systems)市場の成長を糧に、成長率の高い途上国市場の開拓が進み、「次なる40億人」(※1)にインターネットサービスが広がっていくだろう。
※1 世界経済におけるピラミッドの底辺(BOP: Base of the economic Pyramid)による40億人(世界資源研究所国際金融公社より)。
さて、第1回完全版(「次なる40億人」が決める、クラウドベンダーの勝者と敗者)の内容には、公開後に幾つかの動きがあった。
2016年6月23日に実施された英国におけるEU(欧州連合)離脱是非を問う国民投票は、事前予想(※2)を裏切るまさかのEU離脱決定(Brexit)となった。この国民投票結果を受けて辞任したデーヴィッド・キャメロン首相の後を受けたテリーザ・メイ新首相は、EUに対する正式な離脱通知を2017年以降に提出する方針と伝えられる。今後、新協定締結交渉を含むEU離脱プロセスは、英国からEUへの正式な離脱通知提出後2年以内に協議されることになる。つまり今後約2年にわたって、英国は長期的な取引条件を決定するリスクが近隣EU諸国と比較して相対的に高止まりする。少なくとも英国内のデータセンター利用など、長期に及ぶ英国法人との契約は、離脱協議の結果が見通せるまで手控える動きが広まる可能性がある。
※2 かの国の名物ブックメーカー(賭博屋)による投票日前日のオッズ(予想配当率)では、離脱が4倍、残留が1.25倍と残留が勝つ可能性が高かった。
またIMF(国際通貨基金)は2016年7月19日、EU離脱の投票結果を主因として、2016年と2017年の世界経済の見通しをそれぞれ0.1ポイントずつ引き下げた。仮に経済や社会情勢の急速な悪化で国家存続が危ぶまれる事態となってもクラウドに適切に構築されたシステムであれば(よく設計されていればそれこそライブマイグレーションによって無停止で)、デプロイ先を他国に設置されたデータセンターに変更することが可能な時代となっている。筆者はIMFによる見通しの引き下げは、データセンターを長期間固定することで起こるリスクを回避したい利用者にとって、クラウドシフト加速の要因になるのではと考えている。クラウドノーマルな時代とは、さまざまな仮想システムやサービスが政治・経済(ファンダメンタル)の変化に適応して、自身の稼働場所や稼働条件を動的に変化させていく時代だといえる。
2016年7月12日にはEUの欧州委員会と米国が両者間の個人情報移転に関する協定「EU-US Privacy Shield」を発効した。筆者はEU側の採択にはもう少し時間がかかると予想していたが、欧州委員会はプライバシー原理主義的な立場にくみすることはなかった。EUのプライバシー規制もまた、交渉する材料さえあれば譲歩を引き出せる相対的な概念にすぎないことがこれで証明されたといえる。ただし残念なことに、日本にはEUから譲歩を引き出せそうな交渉材料が見当たらない。
Microsoftは2013年から、米国のサービスプロバイダー管理下にある米国外のサーバに保存された通信データを、米国国内の捜査令状によって提出を命じることの可否について米連邦政府に抵抗してきた。米連邦第2巡回控訴裁判所は2016年7月14日、3対0で地方裁判所の判決を破棄し、米国外のサーバに保存された通信を米国国内の捜査令状によって提出させることはできないと判断した。
米司法省は上訴を検討中と伝えられるため予断を許さない状況だ。だが米国法人に対して米国内で米国法に基づいて捜査令状を発行しさえすれば対象となった、米国法人の海外関連会社が保有するデータについて、現地法を無視して提出させられるという米司法省の主張がしりぞけられた意味は大きい。
米司法省(このケースの場合、直接令状請求したのは米連邦捜査局<FBI>)の言い分が通るなら、米国外に関連会社を持つ米国法人は、米国内で捜査令状が発行された場合、現地法に基づく手続きを何ら経ることなくデータ提供する義務が生じる。本訴訟は日本ではあまり注目されていないが、例えばNTTコミュニケーションズの米国法人NTT Americaに捜査令状が出されたら、NTT Americaを介して日本のNTTコミュニケーションズに対し日本法を無視してデータの提出が命じられるという事態すら起こりかねなかったのだ。
米国法人を持つ国際企業のサービスを利用する際、現地法の他に米国法上のリスクも考慮せざるを得ないとすればどうなるか。たとえ当該サービスが現地法に基づいて現地で提供されていたとしても、利用者の立場からすると米国法人を持つ企業グループとの取引コストは不必要に高くなってしまう。本訴訟は米国法人を持つ企業グループ共通の潜在的リスクだった。米国商工会議所、Amazon.com、Apple、Cisco Systems、CNN、Verizon Communicationsといったそうそうたる企業群がMicrosoftの控訴を支援する意見書を提出し、Microsoft支持を打ち出してまで注目してきたのも無理はない。
判決の前日2016年7月13日にMicrosoftがトロントで主催した「Worldwide Partner Conference 2016」において、同社最高法務責任者(CLO: Chief Legal Officer)を務めるブラッド・スミス氏が、3日目のキーノートで次のように述べていた。「私たちは、世界の人々のために立ち上がる必要があることを認識している。それが、私たちが、私たちの世界中のデータセンターに保存された顧客の電子メールに米国政府は触れることはできないと主張し、米国で訴訟している理由だ」(“We recognize that we need to stand up for people globally. That’s why we’re litigating a case in the United States to argue that the U.S. government cannot reach customers’ email in our datacenters around the world.”)。このことからも、筆者は同社が国際企業として法域区分順守に並々ならぬ決意を持って取り組んでいる証拠と受け止めている。本件で米司法省が上訴に及んだ場合も引き続き注目していきたい。
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