似通ってくるBluetoothと無線LAN
IoT拡大で新規格「Bluetooth 5」「Wi-Fi HaLow」登場、従来の相互補完は風前のともしび
IoT市場の急速な活性化は優れた無線通信規格を必要とする。それが、これまで補完関係で共存してきたBluetoothと無線LANの関係を変えようとしている。
モノのインターネット(IoT)デバイスが急増する中、2つの無線通信規格「Bluetooth」と「無線LAN」に対する関心が高まっている。どちらの規格もIoT向け無線通信の分野で主流の規格となるべく、ビジネス利用も含めた広い市場への展開を目指している。
「IoTの配備は初期段階にある。ネットワークへの接続という点では、Bluetoothと無線LANが市場の主要規格となる候補だ」と語るのは調査会社IDCの上級アナリスト、ノーラン・グリーン氏だ。
この2つの無線通信規格は技術的な登場由来と基本的な機能が全く異なる。Bluetoothは、シリアル通信規格「RS-232」の代替となる無線通信規格として、Ericssonが1994年に開発を開始した。当初はIEEE(米電気電子技術者協会)が標準規格「IEEE 802.15.1」として策定したが、現在は標準化団体「Bluetooth Special Interest Group」(Bluetooth SIG)が規格を策定し、認証テストを実施している。これまでに3万社を超えるベンダーの製品がBluetooth SIGの認証を取得した。
Bluetoothは2.4GHz帯を使用する。シンプルで低コスト、そして省電力な通信規格であるが故に、Bluetoothはフォームファクタが小さく、シンプルなネットワークスタックをサポートでき、無線LANと比べて消費電力が少なくて済む。ごく近い場所にある複数のデバイス間で少量のデータを転送するのに便利な無線接続規格だ。Bluetooth製品はスマートフォンのヘッドセットなど個人向け製品で採用する例が多い。
Bluetooth 5は通信速度が従来の2倍に
Bluetoothは従来、通信速度が弱点だった。登場当初におけるBluetoothの通信速度は800Kbps程度にすぎない。しかし、2016年末か2017年初めに最終的な規格を公開する予定の「Bluetooth 5」は、2Mbpsの通信速度を実現するという。通信範囲は4倍に、データブロードキャスト容量も8倍に増加する。
他にもBluetoothには、大規模なネットワークを構築できないという弱点がある。Bluetoothは従来、独立したネットワークに数台の端末を接続して使ってきた。またBluetoothのペアリングでは、ユーザーがデバイスの接続を設定する必要があった。Bluetooth 5は、コネクションレス型のデータ転送をサポートし、必要な接続タイプ(プロファイル)をデバイスが分析できる。Bluetooth SIGのマーケティング担当副社長エレット・クローター氏によれば、企業はBluetoothネットワークで6万4000台のデバイスをサポートできるという。
セキュリティもBluetoothの弱点だ。Bluetooth 5は暗号化をサポートする。ただし暗号化機能を導入し、社内のセキュリティソリューションと連係させるのは、簡単な作業ではない。
社内ネットワークの無線化
無線LANは1997年に策定した無線通信規格だ。IPネットワークを無線化するための規格として登場した。それ以降、IEEEが「802.11x」という名称でこの規格の策定を統括している。無線LAN業界団体の「Wi-Fi Alliance」は2000年以降、これまでに3万台を超える無線LAN製品を認定しており、世界では現在、数十億台の機器が使われているという。
無線LANベースのネットワークは従来、2.4GHz帯や5GHz帯の帯域を使用し、数百Mbpsから数Gbpsの通信速度をサポートしてきた。無線LAN環境では、デバイスの最大接続台数は無線ルーターによって異なる。無線ルーターは複数の接続をサポートし、最大通信距離は100メートルとBluetoothと比べて3倍ほど長い。Wi-Fi Allianceのマーケティング担当副社長、ケビン・ロビンソン氏によれば、IoT市場で無線LANへの関心が高まっている背景には、社内のデータ伝送配信ネットワーク上の「ダム端末」(情報を表示するだけの端末)にもネットワークインテリジェンスを拡張しようとする動きがあるという。
無線LANのセキュリティは年月をかけて強化を重ねてきた。無線LANで最もよく使うセキュリティ規格に「WEP」(Wired Equivalent Privacy)と「WPA」(Wi-Fi Protected Access)がある。WEPと比べてWPAのセキュリティは強固だ。ただし、セキュアな無線LANネットワークの構築には通常、ネットワークの構成設定やセキュリティ対策に関する十分な専門知識を持つ技術者が必要となる。
無線LANにはもう1つ、消費電力に関する弱点がある。多くのデータを長い距離にわたって伝送し、堅固なセキュリティを提供しようとすれば、より多くの電力を消耗し、バッテリー持続時間は短くなる。
「Wi-Fi HaLow」は省電力で通信距離は2倍
センサーやウェアラブルといったIoTデバイスの多くは小型で、AC電源などの外部電源には接続していない。この問題に対処すべく、Wi-Fi Allianceは2016年1月にあった家電見本市「International Consumer Electronics Show」(以下、CES)において、900MHz帯の周波数帯を使用する新規格「Wi-Fi HaLow」を発表した。新機能の1つ「スリープモード」を使えば、バッテリー持続時間を伸ばすことが可能だ。低周波数帯を使用するので壁などの物理的な障害物を通過できるという利点もある。
ただし、Wi-Fi HaLowは新しい問題が発生する。900MHz帯のソリューションでは、既存の無線LANとは別にアクセスポイントの通信インフラを別途設置する必要がある。IPプロトコルは同じだが、データフォーマットが異なる。そのため企業は、Wi-Fi HaLowリンクの監視と管理用に、既存ソリューションへの拡張機能か新しい製品を追加する必要がある。グローバル企業には他にも対処すべき課題がある。欧州やオーストラリア、アジアの一部の国では900MHz帯の商用利用を認めておらず、国によって使用できる周波数帯が異なる。
実用化までにまだ時間がかかるという点は、Wi-Fi HaLowにとって重大な問題だ。Wi-Fi Allianceは2018年にWi-Fi HaLow製品の認証開始を予定している。「Wi-Fi HaLowは標準策定プロセスで足止めを食らっているようだ」とGartnerの調査担当副社長マーク・ハン氏は語る。
その間にも、Bluetooth 5のような競合技術は企業のシステムに普及していくだろう。この差によって小型IoTデバイス向けの通信規格をめぐる競争の緒戦では、Bluetooth 5が優位に立つことになりそうだ。調査会社ABI Researchによれば、2020年までに3億7100万台を超えるBluetooth対応IoTビーコンが出荷する見通しだという。
Bluetoothと無線LANは従来、異なる分野で勢いを伸ばしてきた。だがIoTの台頭によって、この2つの規格は類似性を増しつつある。これまでは、ネットワークインフラでBluetoothはデバイス間接続が中心だった。だが両規格は互いの領域に侵出しつつある。将来的には、両者の競争は激しさを増し、相互補完は薄れていくことになるだろう。
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