国内外で実績を積んだ医療機器プログラム
1秒が生死を分ける救急医療の現場にITを、画像診断アプリ「Join」が目指す医療IT構想(2/2 ページ)
医療機器プログラムが保険適用を受けるハードル
新しいソフトウェアが医療機器プログラムとしての認可を受けても、それを用いた診療行為が中央社会保険医療協議会(中医協)で保険適用の対象として承認されるためには、有用性を実証することが不可欠である。Joinが保険適用の対象となったのも、保険適用の審査以前から医療現場で使用され、有用性を数字で実証できたことが大きな理由の1つだ。
脳疾患や循環器疾患といった急性期医療の現場では、医療従事者による迅速な対応が患者予後の改善につながることから、医療行為にかかる時間の短縮を目指した取り組みを実施している。しかし地域や時間帯によっては、直ちに診断や治療を開始するのが困難な場合があったり、指導医や担当医の不在により治療が遅延したりするケースもある。
Joinを利用すると、スマートフォンやタブレットで医用画像を参照し、病院にいる医師と遠隔地にいる医師とで情報を共有できる。例えば指導医が病院に不在の間でも、遠隔地から指導医がスマートフォンやタブレットで状況を確認しながら指示を出すことで、現場の医師が確実な治療方針を決める助けとなる。急性期医療の現場ほど、このようなツールの併用が治療時間の短縮に大きく寄与するだろう。
詳細は公表できないが、Joinを導入した病院では、下記の効果を示す解析データが得られたそうだ。
- 専門医が不在になる夜間手術における、検査から手術開始までの時間の短縮。その結果としての在院日数の短縮
- 脳梗塞症例における血管内治療の「来院から治療開始まで」の時間と、「緊急手術(血腫除去術)の術前CT検査から麻酔開始まで」の時間の短縮
- 脳梗塞救急患者の1人当たりの平均在院日数および総医療費の減少
こうした実臨床での定量的な実績が、中医協の保険適用承認を後押しする要素となったのだろう。Joinの活用によって、専門医が現場に待機しなくてはいけない時間を短縮し、医師の負担を軽減した結果、医療の質の向上につながっている。このことも、厚生労働省が医療の課題の1つとして掲げる「効率的かつ質の高い医療提供体制の構築」につながると評価されたのかもしれない。
2016年4月1日からの医療機器の保険適用開始が決まったのは、サイバーダインのロボットスーツ「HAL医療用下肢タイプ」、東レの「SATAKE HotBalloonカテーテル」、アルムのJoinの3件のみ。中でも医療機器プログラムはJoinだけだった。数多くの医療機器プログラムが開発されているが、中医協の保険適用の承認を受けるハードルは非常に高い。
そうした中でJoinが医療機器プログラムのフロントランナーとして、ITによる医療の効率化において有用性を発揮していくことで、さらなる医療機器プログラムの保険適用といった発展の道を開いていくことを期待したい。
医療機器プログラムの課題:患者誤認防止と個人情報保護の両立
Joinに限らず、病院外から医療情報を閲覧できるようにする際に課題となるのは、患者の個人情報とセキュリティである。
病院システムとJoinをつなぐ際には、個人情報を削除して医用画像のみをクラウドに送信する仕組みを採用しており、画像なども閲覧端末上にも保存されないようになっている。しかし個人情報の削除は、一方で「患者の取り違え」というリスクを浮上させることになる。
個人情報保護をはじめとするセキュリティポリシーは病院ごとに異なる。Joinに医用画像を送信する際に名前や住所などの基本的な個人情報のみ削除するケースもあれば、患者IDも含めて削除するケースもある。情報漏えい防止を徹底させようという目的で、Joinのようにクラウドを利用した医療機器プログラムに送信する個人情報を減らすと、患者誤認のリスクが上がることになってしまい、導入した医療機関でも課題となっている。
セキュリティと患者情報共有の両立および二律背反。この問題は、Joinに限らず地域医療連携や医療・介護の多職種連携など、クラウドを利用した医療情報システム全てにおいて課題となっており、こうした医療情報におけるセキュリティガイドラインの策定が待たれる。
Joinの海外展開、これからの構想
Joinは海外でも高い評価を受け、多くの病院が導入している。例えば米国では国土が広いために、救急車を呼んでも病院までの搬送に時間がかかる場合が少なくない。そのような海外の事情にあわせて、Joinは医師の早期診断を支援するために、救急で行われた治療履歴と治療ステータスをチャットタイムライン上で記録・共有する「Time Stamp」や救急搬送中の救急車の現在位置が追える「Time Tracker」といった機能をRush University(米国イリノイ州とインディアナ州)向けに提供している(図2)。
この他、2015年10月にブラジル向けに遠隔診断支援サービスも開始した(図3)。アルムはこのように早期診断、遠隔診断の仕組みをパッケージ化し、国ごとに医療機器ベンダーや販売店などと代理店契約を結んで海外展開を強化しているのだ。
アルムはJoin以外の医療用ソフトウェアやサービスなども幅広く手掛けている。例えば自己健康管理アプリ「MySOS」や地域医療連携アプリ「Team」などのスマートフォンアプリを公開し、2016年4月にはMySOSと連動した健康管理センターを開業するなど、医療全般をサポートするソフトウェアやサービスに取り組んでいる。一風変わったところでは、新規事業としてステント(注2)の開発にも着手している。
注2:血管や消化管など、人体の管状の部位の狭窄(きょうさく)を管腔内部から拡張するために留置する医療機器。
坂野氏は、現在取り組んでいる医療モバイルITを筆頭に、医療法人経営、医療機器開発、遠隔診断センター、ウェラブルデバイス、とビジネスを展開していく構想を持っているという(図4)。最終的には医療業務とデータをつなぐことで「ヘルスケアと医療のビッグデータ、データマイニングへと発展させていきたい」と語った。
医療用ソフトウェアのビジネスは、日本のみならず世界規模で成長を続ける市場だ。アルムのように、日本発のベンダーが世界規模で活躍し、ITを通じて医療の質の向上と効率化に貢献することを期待してやまない。
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