輸液ポンプのアラームにイライラすることもなくなる
IoTは患者満足度を高め、治療への主体的な参加を促す――経験者が語るこれだけの理由
医療業界でのIoT(モノのインターネット)は、在庫管理用テクノロジーとしての地位を確立しているが、今や患者満足度の向上でも活躍している。院内の位置情報把握や、生体情報の遠隔モニタリングなどだ。
Florida Hospital Celebration Healthに入院している患者の家族は、医師や看護師の連絡を待たずとも手術が終了したことを把握できる。それを可能にするのが医療IoT(モノのインターネット)だ。
Adventist Health System-Florida Divisionに所属している同院では、患者が手術を受けるときにStanley Healthcare製のリアルタイム位置情報システム(RTLS)バッジを付ける。このバッジは、手術前検査室、手術室、術後回復室までの移動状況を追跡する。
家族は待合室にある大画面のテレビで、患者がどこにいるかをリアルタイムで確認できる。この画面の情報はBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの「Tableau」が生成し、個人を特定できないよう患者は番号で表示される。そのためHIPAA(米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)のプライバシー要件は満たされる。
同院でイノベーション開発部門のディレクターを務めるアシュレイ・シモンズ氏は次のように語る。「患者はこれを完全に受け入れており、もはや当院の文化の1つになっている」
医療業界においてIoTテクノロジーは薬品の在庫管理などの分野に使用されることが多い。だがStanleyによるRTLSシステムをはじめとする医療IoTアプリケーションは、患者満足度の向上にまで適用範囲を広げている。
「資産の追跡と医療デバイスの接続は医療IoTの重要な役割だ。だが、結局は患者にどのくらい時間をかけるかということが重要になってくる」とVDC Research Groupで医療分野のIoTについて研究しているリサーチアナリストのキャメロン・ロシェ氏は話す。
「患者は、医師とより多く交流することを望んでいる。Stanleyのような医療IoTベースの分析ツールは、この時間を正確に計測することで最終的に患者満足度の向上を実現できる」(ロシェ氏)
実際、Florida Hospitalの管理者は、Stanleyのシステムを患者エンゲージメント(※)の向上と顧客の留保に役立つツールだと見なしている。すぐに利益は出ないものの長期的には有益なROI(投資対効果)要素だ。また、このシステムは、医師の時間を適切に配分することで、看護師による患者の処置向上にも役立つと同院では考えている。
※訳注:患者エンゲージメント……患者がインターネットやデジタルツールなどを利用して自らに必要な知識を学習し、より良い医療を選択していくこと。
医療IoTと患者満足度の関係
患者とその家族の満足度も「Hospital Consumer Assessment of Healthcare Providers and Systems」(HCAHP、医療提供者と医療制度に対する消費者による評価)のスコアに影響する。そう語るのは、Stanley Healthcareでシニアマーケティングマネジャーを務めるスティーブ・エルダー氏だ。
「家族の満足度が高く、効果的なコミュニケーションが行われたと感じていれば、患者は満足度を高く評価する可能性が非常に高い」(エルダー氏)
StanleyのRTLSシステムが通知するのは患者の家族だけではない。手術工程を効率化するための重要な情報も医師と看護師に提供している。
データに基づいて人員を配置
病院の管理者は、このシステムを使用して手術工程を分析および最適化し、医師と看護師の配置を改善している。
その結果実現されたことの1つとして、シモンズ氏は「手術が必ず予定の時間に開始されるようになった」と話す。
また、このような例もある。同院が数年前に頭頸部手術に対応し始めたとき、看護師は負担が大幅に増えることを恐れていた。だが、そこまで負担が増えることはないというデータをStanleyのシステムは示していた。
「看護師の配分を変更した結果、今まではありえなかった形でのコミュニケーションを実現することができた」とシモンズ氏は語る。
医療IoTと患者エンゲージメントの別種の使用事例が、救急医学分野における患者の遠隔モニタリングだ。
在宅医療機関が分析を使用して患者を追跡
大手在宅医療機関のHealth Resource Solutions(HRS)は、最近、接続型デバイスをベースとするポピュレーションヘルス(公衆衛生)の分析プログラムを使い始めた。この分析プログラムは、遠隔医療と医療デバイス会社のベテランによって設立されたスタートアップであるWandaが開発したものだ。
Wandaのシステムは、うっ血性心不全の患者が自分で収集したデータを用いて、患者からポピュレーションヘルスに関する洞察を導き出す。患者がデータの収集に使用するのは、HRSが提供するWanda製のハードウェアキットだ。
患者が毎日測定してタブレットに入力する血圧、体重、血糖値は、HRSにアップロードされる。
このデータに基づいてWandaの分析アルゴリズムが、電話、テキストメッセージ、看護師による訪問のどれが患者に最も適したケアであるかを判断する。Wandaのシステムがデータを収集すればするほど、さらに多くのパターンを患者の中から見つけることができ、個々の患者に最適なコミュニケーションを導き出せる。
HRSのCEOであるグレン・スタイグビーゲル氏は次のように語る。「Wandaのシステムは、患者にいつ、何が最も適しているか、つまりどんな介入が最適か判断するのに役立っている。看護師の派遣は費用がかさむので、患者を在宅に留めておくためにはどのくらいの訪問が必要なのかを確認することにしている」
大きな目標は、患者が自分自身のケアに投資することで、より適切な治療を行う方法を患者に知ってもらうことだという。
「現状についての記録を付けていれば、さらなる関与が促される。目的はリハビリだ。患者が積極的に関与すれば、家に引きこもってはいられなくなり、社会とのつながりが強くなる」(スタイグビーゲル氏)
Wandaは、患者エンゲージメント向上のためにデータ科学、ケアコーディネーション、IoTシステムを統合するハイブリッド型のプロバイダーだと自称している。
「テクノロジーは個人に適した治療がなされていると患者に感じてもらうために水面下で仕事をしなければならない」と同社のCEOスティーブ・カード氏は考えている。医療プロバイダーは、患者と頻繁に面会していなくても個人の医療プロファイルを把握しているからだ。
「最も深く人と関わるためにはどうすればよいかを考えなくてはならない」(カード氏)
医療IoTが利用されている新しい分野として「医療デバイスの統合」もある。病院内には、しばしば耳障りなアラーム音を出す接続型の医療デバイスが多数あるが、それらを制御して連動させることが目的だ。
かつて輸液ポンプや生体情報モニタなどは、隔離された患者に単独でつながれていた。だが、今は医療システムのデータネットワークに接続されることが多くなっている。
繰り返し鳴り続けるアラームと戦うベンダー
大量の接続型デバイスは、かつてないほど増加しているサイバーセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性など、望ましくない副作用をもたらしている。これに加え、それらのデバイスが病院やその他の医療現場の職員に引き起こす症状としてよく見られるものの1つが「アラーム疲労(Alarm Fatigue)」だ。
この分野に取り組んでいるベンダーの1つがBernoulli Enterpriseである。同社でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるサム・ラーソン氏によると、同社の一元化されたシステムはアラームを管理し、医学的な基準値から著しく逸脱しているときに音を鳴らす。このアプローチによって、本当に重要なアラームを職員が把握できるという。
これは患者満足度の向上にも直接関係すると同氏は語る。「アラームによるストレスを受けている患者は休息を取ることができていない。だが、当社のシステムを使用しているリハビリテーション病院や長期療養施設では、アラームが80%削減されているので驚くほど静かだ」とラーソン氏はいう。
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