小規模チームならではの戦い方がある
巨象も学ぶ――大企業がスタートアップから得られる「小さく始める」コツ
スタートアップ企業と同様の考え方を持つことで、巨象のような大企業も俊敏に動けるかもしれない。創業期の企業から得られる教訓を幾つか紹介する。
デジタルビジネス時代に生き残り、ひいては成功することを目指している企業は、特別委員会やプロジェクトタスクフォースをまた1つ設置したり、大企業ならではの慣習を守ったりすることはやめた方がよさそうだ。
幅広い業種の経営幹部が、そうしたこととは逆の方向に成功への道があると考えている。その道を進むには、スタートアップ(ベンチャー企業)のメンタリティを見習うべきだ。デジタル企業は急成長しており、プラットフォームビジネスを展開している企業はとりわけ成長が目覚ましい。例えば、ライドシェア(相乗り)サービスを手掛けるUberは2011年設立で、2015年12月に利用実績が10億回を超えた。大手企業は、新興企業から市場を守るには、お役所的な体質に陥ったり、しゃくし定規な仕事のやり方を続けたりしてはいられないことを理解し始めている。
実際、デジタルトランスフォーメーションが進む中では、スピードやアジリティをスローガンに掲げる企業の方が成功する可能性が高い。スタートアップのメンタリティにはこれらの他にも、新技術の活用に対する積極性や、製品やサービスを本格的なレベルに仕上げてから大々的に投入するよりも、徐々に構築していこうとする姿勢などがある。
2016年に米国TechTargetに掲載した記事には、従来の企業がスタートアップの教訓をどのように学んで生かせるかのヒントを提供するものがたくさんある。以下ではその例を紹介していく。
デジタルビジネスで成功するにはスタートアップのように考える
2016年に開催した「MIT Sloan CIO Symposium」のパネルディスカッションを取材し、「創業232年のBNY Mellonなど従来の金融サービス会社が、スタートアップの哲学をどのように取り入れてきたか」を検証した記事がある。この記事から分かることの1つは、デジタルトランスフォーメーションを実現するには、迅速な実験や、製品を最低限使えるレベルから育てていくアプローチが必要になるということだ。このアプローチは、企業が製品の基本的な機能セットを速やかに確立し、顧客からのフィードバックに基づいて機能を拡充していくというものだ。また、銀行が導入しているスタートアップのもう1つの手法として、新たなトレンドに乗ることが挙げられる。例えば、BNY Mellonは、まだ生まれて間もないブロックチェーン技術を本番システムにデプロイしている。
シェアリングエコノミーに注目
シェアリングエコノミーは、スタートアップのメンタリティに関する多くの教訓を提供している。同じく2016年のMIT Sloan CIO Symposiumを題材にした別のブログ記事は、Uberのプラットフォームアプローチを詳しく解説している。
Uberの見方では、プラットフォームモデルは迅速に拡張でき、柔軟性も提供する。Uberは交通手段をサービスとして提供しているが、実際の提供メカニズムは変更が可能だ。Uberが進めている自動運転車を使った配車サービステストが示しているように、車とドライバーによる同社の現在のビジネスは、いずれは自動運転車によるビジネスに変わる可能性がある。
だが、プラットフォームモデルを採用する企業は、手掛けるビジネスを慎重に選択する必要がある。多くの価値創造者と消費者がプラットフォーム上でやりとりすることで、ネットワーク効果を発揮するようになったプラットフォームは、後発サービスが追い付き、追い越すことは難しい。簡単に言えば、例えば、これからライドシェアドライバーになる人は、顧客が少ないプラットフォームよりも、顧客が多いプラットフォームに加わる可能性が高いからだ。
APIとクラウドを利用してプレイリストサービスを立ち上げたフランスのスタートアップ
オンライン音楽市場では、多くのストリーミングプラットフォームがひしめき合っている。だが、スタートアップのSoundsgoodは、その中で埋没しない方法を提示している(囲み記事では、企業がスタートアップのメンタリティから何を学べるかについてのSoundsgoodの見解を紹介している)。
Soundsgoodは、もう1つのストリーミングサービスを開発するのではなく、DJや音楽批評家など、音楽に関する影響力がある人が、さまざまなストリーミングサービスにわたって共有可能なプレイリストを作成できるプラットフォームを構築した。APIとクラウドを利用してサービスを提供するSoundsgoodは、プラットフォームビジネスを展開するスタートアップの文化における技術の重要性も浮き彫りにしている。同社の共同創業者の1人は最高技術責任者(CTO)だ。
スタートアップ同士の仲間意識も、見習うに値する特徴かもしれない。Soundsgoodはフランスのパリのサンティエ近郊に本社を置いている。この地区は多くのITベンチャーの集積地だ。サンティエのスタートアップエコシステムの中で、各社のCIOは技術的な問題について協力し合っている。
スタートアップ文化の導入
Soundsgoodは、クロスプラットフォームの音楽プレイリストを作成できるプラットフォームを手掛けるスタートアップ企業だ。共同創業者で最高マーケティング責任者を務めるルイ・ベイル氏は、大企業にとって、創業期の企業からどのようなヒントが得られるかについて、次のような見解を示している。
本当に必要なものに集中する
「スタートアップは、現金が飛ぶようになくなっていくと思っているので、価値の高い結果を迅速に出すために、必要なことだけに集中せざるを得ない」とベイル氏は語る。これに対し、大企業では、「あまりにも多くの人が関わりすぎて焦点がはっきりしないことから、イノベーションが行き詰まることがある」と説明している。
スタートアップのような小規模チームを作る
ベイル氏は、大企業のイノベーションプロジェクトを進めるには、小規模なチームが最適だと指摘する。このチームに、自社オフィスの外に専用のオフィスを用意する一方で、社内における高い可視性を維持させることを勧めている。また、このチームについては、1年間という最終期限を設定して活動の成否を評価すべきだという。
伝統を断ち切る
社内スタートアップを立ち上げる企業は「失敗することが多い。スタートアップチームに、従来のビジネスのやり方を強制してしまうからだ」とベイル氏は語る。
デジタル市場における協力と競合
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院のシニアリサーチサイエンティストで、MIT情報システムリサーチセンターのチェアマンを務めるピーター・ワイル氏は、2016年のMIT Sloan CIO Symposiumでコラボレーションについて述べる中で、従来の企業を「熟した桃」になぞらえた。より俊敏で、リーン(lean、無駄のない)な経営をするスタートアップは、新しいデジタル経済の中でこうした企業を餌食にしようと狙っているという。企業が競争から振り落とされないための1つの方法は、データや技術を他社と共有しながら、絶え間なく変化する顧客ニーズにより迅速に対応することを目指すことだ。
リーン経営で大幅にコストを削減したNationwide
大企業がスタートアップのリーンな経営方式に関する教訓から学べるのは間違いない。Nationwide Mutual Insuranceの上級IT幹部に対するインタビュー記事もこのことを証明している。インタビューによると、同社のIT部門はアジャイルプラクティスとリーンプラクティスを導入し、ソフトウェア開発などの業務に応用した。同社はアジャイル方法論に従って、小規模な実験をして、反復的な取り組みを通じてそれらを発展させ、大きな成果を挙げるようになった。こうしてソフトウェアエンジニアリングのみによって、年間約2800万ドルのコスト削減に成功した。
CIOと心理学:IT部門の思考プロセスの変革
ITトランスフォーメーションに取り組むには、新しい方法論を採用するだけでなく、考え方を変えることも必要になる。「IKEA効果」(注1)を取り上げた記事では、「IT管理者は自らが構築し、メンテナンスしてきたシステムに対して強い一体感を持つ傾向がある。このことが新しい物事への挑戦や、老朽化したレガシーシステムの廃棄を困難にしている」と指摘している。
※注1:デューク大学フクアビジネススクールの教授 ダン・アリーリー氏による言葉。人は労力を費やさなかった製品よりも、自分で組み立てた製品に高い価値を置きがちな傾向を表している。
だが、こうした既存の投資という足かせがないスタートアップのメンタリティに近づくことができれば、企業は前に進みやすくなる。旧態依然たるビジネスのやり方が踏襲されている場合、その状況から脱却する最良の方法は、従業員を再教育することや、IT部門の組織再編を行うことだ。
失敗すべきか、実験すべきか
もちろん、スタートアップ文化を全て大企業に応用できるわけではない。「早く失敗する」ことは、シリコンバレーのスタートアップには必須かもしれないが、公益サービスを担う企業などにはなじまない考え方だ。SAPと米国ボストン市の最高デジタル責任者は「CDO Summit」で、スタートアップの文化を自組織に合わせてどうアレンジできるかを語った。両者とも、早く失敗するという考え方を「継続的な実験」へと変化させている。例えば、SAPは、1年間に10の大きな賭けをするのではなく、毎週数百の小さな賭けをすることを目指している。
要するに、まずは少しかじってみるということだ。りんごを、お好みとあらば桃を。
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