米投資銀行の調査レポート
「オンプレミス vs.クラウド」論争が再燃――データの「ブーメラン現象」も
クラウドコンピューティングは期待していたほど費用対効果が高くないと感じているITベンダーや大企業が増えており、一部のアプリケーションをオンプレミスに戻した企業もある。
ワークロードがクラウドコンピューティングからオンプレミスに戻れば、一部のデータが社内のデータセンターに里帰りすることになる。いわゆる「ブーメラン現象」だ。
米投資銀行のPacific Crest Securitiesが最近行った調査「2017 Cloud and Infrastructure Priorities」によると、企業の最高情報責任者(CIO)の3分の2近くが、ワークロードを自社のデータセンターに戻した。これは「オンプレミス vs.クラウド」論争が再燃し、クラウドがあらゆる問題の解決策ではないことを示すものだ。
この調査の対象となった分野はIT、金融サービス、製造業、公共部門、小売業などで、その3分の2はIT予算が5000万ドル以上の企業だ。
TechTargetが最近開催したイベント「Data Center Reset」で講演した独立系ITアナリスト、スコット・ロウ氏によると、多くの企業がパブリッククラウドプロバイダーから毎月届く請求書を見て、その金額の大きさに驚いているという。
「例えば、米株式市場のNasdaqは数年前にクラウドコンピューティングの導入を進めたが、ローカルサーバにデータを保管するよりも高いコストが掛かるケースもあることが分かった」と同氏は指摘した。このためNasdaqは一部のワークロードをプライベートデータセンターに戻し始めたという。同社は今後も、コストとアプリケーションのニーズに基づいてパブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせてワークロードを処理する方針だ。
Pacific Crest Securitiesの調査によると、ブーメラン現象はIT企業や大手企業で起きることが多い。
ビジネスモデルや成長の可能性が不透明な新興企業の場合、パブリッククラウドの魅力は大きい。Parkmobileの最高技術責任者(CTO)であり、IT業界で20年の経験を持つアンドリュー・ハミルトン氏は「ほんの数時間で構想をクラウドに展開できるというのは素晴らしいことだ」と話す。同社はアトランタやワシントンD.C.、ロサンゼルスなど全米各地で路上の空きスペースや駐車場、車庫などを利用した駐車サービスの支払い処理を手掛けている。
「新興企業にとって必要な初期投資には、ハードウェアやMicrosoftのライセンス、技術者の給与などの費用が含まれ、総額で何万ドルにもなることもある。クラウドコンピューティングを利用すれば、こうしたコストを大幅に抑制できる」とハミルトン氏は話す。だが企業の成長に伴って自社のニーズが成熟化すれば、クラウドから離れていく可能性もあるという。
Parkmobileはコンプライアンス要件に対応するために、自社のハードウェアとファイアウォール内で運用するワークロードを外部から隔離している。
「その方が『パブリッククラウドを利用している』と言うより説明が楽だ。Amazonに置いているデータについては、彼らが一切アクセスできないと信じるしかない」と同氏は語る。
Parkmobileのビジネスの約4分の1はアトランタブレーブスやアトランタファルコンズの試合などのイベントを対象としたブッキングビジネスで、これらは「Amazon Web Services」(AWS)に大きく依存している。
ITソリューション企業のTSO Logicは2015年に、ワークロードをどこに置くかという問題に取り組み、企業のデータセンターやコロケーション施設、クラウドコンピューティングなどに依存しないソフトウェアを顧客向けに開発した。
「当社が調査した顧客企業の環境ではいずれも、クラウドで運用する方が高くつくワークロードがあることが分かった」とTSO Logicのアーロン・ラロー最高経営責任者(CEO)は話す。
とはいえ、同社が顧客のデータセンターで稼働する2万5000件のインスタンスを分析したところ、仮想インスタンスの45%はクラウドに移行した方が経済的であり、年間43%のコスト削減が可能になることが分かったという。
ラロー氏によると、これまで、クラウドから抜けるためにTSO Logicに相談に来た企業はないという。「よくある例を挙げると、ある動画配信企業は数カ所にデータセンターを保有しているのだが、日曜日のNFL(ナショナルフットボールリーグ)の試合のチケットやNCAA(全米大学体育協会)男子バスケットボールファイナルツアーの動画配信の際には急いで配信能力を拡張しなければならない」(同氏)
「この企業は通常、新規のワークロードの運用を開始するときはIaaS(Infrastructure as a Service)を利用している。同社は当初の成果を達成した時点で、自社のオンプレミスインフラにワークロードを戻すようにしている。オンプレミスで運用する方が安上がりだからだ」とラロー氏は語る。
Parkmobileのハミルトン氏はこの数年間、オンプレミスとクラウドコンピューティングの利点と欠点を検討してきた。1年前にコスト比較を行ったところ、クラウドコンピューティングが大幅な経費節減にならないことが分かった。「だが自社の従来のデータセンターに戻る気はないという。ソフトウェアを専門に手掛ける企業には、そういったものは不要だからだ。データセンターを運用するのに必要な電源や空調のことを心配するより、製品にフォーカスする方が重要だ」と同氏は説明する。
ロウ氏によると、クラウドコンピューティングの当初の魅力の1つは、初期投資が少なくて済み、運用料金も小額単位で購入できることだったという。「だが長期的には、クラウドコンピューティングが節約につながらない状況も存在する」(同氏)
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