スピードとコストは魅力だが……
ハイブリッドクラウドのビッグウエーブに乗れない企業の“じれったい気持ち”
一部のアプリケーションとシステムは社内で管理しながら、それ以外のデータ管理を外部のパブリッククラウドサービスに任せられるハイブリッドクラウドにCIOの注目が集まっている。だが、課題も少なくない。
米Lone Star大学のCIO(最高情報責任者)、リンク・アランダー氏が率いるITチームは、ハイブリッドクラウド環境に移行したことで大いに成果を挙げた。だが、オンプレミスからハイブリッドクラウドに移行する道のりは楽ではなかった。例えば、中核システムを完全には制御できない状態にうまく対応しなければならない。まれにサービスが中断されることもあるという。
「クラウド事業者の問題の解決ばかりに時間をかけてはいられない。けれども、手をこまねいて放っておくわけにもいかない。サービスを利用する以上、事業部門を支援する必要がある」(アランダー氏)。ITチームは、ビジネスに必要なアプリケーションを提供するだけでなく、サービスを仲介する役割も担うことになったわけだ。
大企業の4分の3はハイブリッド環境へ
こうした移行がなかなか簡単にいかない大きな要因として、ハイブリッドコンピューティング環境を管理するツールやルールが、これまで使い慣れたものと違う点が多いことが挙げられている。
それでも、アランダー氏も含め多くのCIOはこうした苦労は報われると話す。一部のアプリケーションとシステムを社内で管理し、それ以外のデータやインフラリソースの管理を外部のパブリッククラウドサービスに任せることのできるハイブリッド環境は、低コストでアジリティ(俊敏性)を高め、ITサービスの迅速な提供に結び付くからだ。
米調査会社Gartnerが2013年9月に発表した報告書では、2015年までに大規模企業の4分の3近くがハイブリッド環境を導入すると予測している。
Gartnerのトーマス・J・ビットマン氏は報告書で「ハイブリッドクラウドコンピューティングは今、3年前のプライベートクラウドがそうだったように、導入例はまだ少ないものの、熱い注目を集めている」と述べている。
米TechTargetが世界各国のIT幹部200人以上を対象に実施した「2014 IT Priorities Survey」(2014年IT優先度調査)の結果にも、ハイブリッド環境への強い関心が示されており、回答者の約33%が2014年中にハイブリッドクラウド統合プロバイダーの採用を計画していると答えた。
クラウドのアプリ管理に関する「役割認識のぶれ」
米調査会社Forrester Researchの主席アナリスト、デイブ・バルトレッティ氏は、ハイブリッドコンピューティング環境への関心が高まっているもう1つの理由として、企業がオンプレミスビジネスアプリケーションからモバイルアプリやWebアプリへ急速にシフトしていることを挙げる。企業が従業員や顧客向けのモバイルアプリやWebアプリなど“Systems of Engagement(SoE)”と呼ばれる分野に投じる支出は、今後4年間で倍増すると同社は予測する。その支出の多くが今後は従来の社内管理システム群からハイブリッド環境に移っていくというのだ。
「ハイブリッドクラウドは多くのアプリケーションに適応し、特に、敏速な新規顧客獲得に有効なWebアプリやモバイルアプリに適している」とバルトレッティ氏は述べる。だが、CIOは、ハイブリッドクラウド環境の管理に伴う各種問題を甘く見ないよう気を付けなければいけない。まず、自社のデータセンターの外部に保管してもいいデータとそうしてはいけないデータを区別することが重要だ。
「データをどこに置くかについてはさまざまなコンプライアンス問題が絡んでくる。多くの企業の場合、アプリはクラウドで実行したいが、コンプライアンス上の理由からデータは社内に保管する必要がある。企業の多くがハイブリッド環境を必要とする理由はそこにある」(バルトレッティ氏)
また、前出Lone Star大学のアランダー氏も指摘する通り、アプリケーションをどう管理するかが問題になる。Forrester Researchのバルトレッティ氏はそこに、“役割認識のぶれ”が潜むという。
「アプリケーションをクラウドで実行する場合、ワークロードは誰が実行するのか。(クラウド事業者は)パッチやアップグレードも処理してくれるのか。運用管理もやってくれるのか。大抵の場合、答えはノーだ。アプリを監視する責任は依然としてITチームが担うことになる」(バルトレッティ氏)
さらに、バルトレッティ氏は、オンプレミスアプリケーションに使っているツールがハイブリッド環境で使えないことへの不満が多くのCIOから上がっているという。「クラウド管理ツールが成熟しておらず、従来のオンプレミスツールと同等の可視性やコントロール能力を欠いている。このことへの懸念の声はまだ多い」
クラウド管理ツール問題は改善の方向へ
クラウドツールの可視性の低さがCIOの大きな不満の種になっている点について、Gartnerのリサーチ担当副社長エド・アンダーソン氏も「IT担当者は自社のアプリ環境からサーバに至るまでくまなく把握し、細かくコントロールできる状態になじんでいる。不具合が起これば、問題を診断して復旧を予測するのがIT担当者だ。クラウド事業者から提供される専用ツールでもある程度の状況は分かるが、機能は限られる」と語る。
米プロバスケットボールチームBoston Celtics副社長兼CTO(最高技術責任者)のジェイ・ウェスランド氏は、米Amazonなどのクラウドサービス事業者で使用される管理ツールを実際に利用した経験を持つ。現状では、それらのツールは、多くのIT担当者が社内で使い慣れているものとは大きく異なるという。
「それに、ほとんどトレーニングも受けていないし、習いに行けるような講座もない」と語るウェスランド氏は、同チームのITサービス提供にハイブリッドクラウド戦略を採用している。「時々、やり方が分からないことがある。VMwareだったら目をつぶってもできるようなマシン構築が、Amazonの世界ではできるかどうかよく分からない。(クラウドで使う必要のある)ツールはまったく違う」
Forrester Researchのバルトレッティ氏は、クラウド事業者はネットワーク統合の問題への対応を「急ピッチで」進めていると述べ、それが解決されれば、CIOは可視性とコントロールを確保する形でネットワークを簡単に拡張でき、アプリケーションを社内とクラウドの間で移動しやすくなるという。
Boston Celticsのウェスランド氏も「ツールはどんどん進化してきており、今にオンプレミスのVMwareとAmazonの間の相互運用性を実現するツールが現れるだろう」と、問題の解決は近いと見ている。
最大の懸念材料はやはりセキュリティ
ハイブリッドクラウド環境を検討するCIOにとって、本質的な管理の問題とは別に、セキュリティの問題も最大の懸念材料の1つだ。「パブリッククラウドへの移行について質問すると、やはりセキュリティの問題が一番のネックになっている」とGartnerのアンダーソン氏は話す。
Boston Celticsのウェスランド氏もセキュリティの問題に頭を悩ませており、オンプレミスで保管したいデータについてはまだ慎重になっている。そこが、完全なパブリッククラウドソリューションよりハイブリッドソリューションの方が適しているゆえんだ。「セキュリティは障害の1つだ。だから、(サードパーティーに)あらゆる社内ネットワークへのアクセスを与えないで済むのは助かる」(ウェスランド氏)
一方、セキュリティの問題に阻まれて、少なくとも当面はハイブリッドコンピューティングの採用を控えるというCIOもいる。
米ペンシルバニア大学の医療システム部門でテクノロジーとインフラ担当副CIOを務めるジョン・ドナヒュー氏は、個人医療情報の機密性を理由に、まだハイブリッド環境には飛び込めないという。それでも、これから1年半以内にはテクノロジーが成熟し、ハイブリッド環境採用に踏み切ってもいいと思えるところまでセキュリティの不安が払拭されるのではないかと期待する。
「決断できない最大の理由は、セキュリティ、プライバシー、コントロールの問題だ。今はまだリスクが高過ぎると感じている。だが、医療機関が何らかのハイブリッドクラウドを導入するようになるのも時間の問題だろう」(ドナヒュー氏)
いずれにしても、ハイブリッド環境の利点は無視できない。ドナヒュー氏は、「市場に対するアジリティとスピードの利点は大きい。現状では資金を確保して環境を用意し、テストして本稼働に移すまで何カ月もかかる。クラウド事業者と組むことでそれが数時間で済むのならば、非常に魅力だ」と語る。
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