ガートナー サミット 2014リポート
2016年にはハイブリッドクラウドは当たり前――ガートナーが明言する理由
クラウドコンピューティングは現状どのように普及し、今後どのように発展していくのか。ガートナー アナリストのクラウド年表を2009年から振り返り、ユーザー企業のクラウドとの向き合い方を探る。
ガートナーによると、クラウドコンピューティングが新しい技術であり、導入が始まったばかりであるという認識は、もはや終局にあるようだ。ガートナー リサーチ バイス プレジデント 兼 最上級アナリスト ジーン・ファイファー氏は、自身のクラウド年表をこう振り返る。「2009年、クラウドが登場し始めた当時は『クラウドとは何か?』ということに注目が集まった。2010年、2011年になり『クラウドで何ができるか?』、2012年、2013年は『クラウドを使うべきか?』が議論された」。そして「2014年から2015年にかけては『クラウドでどうベストを尽くすか(=どうビジネスに生かすか)』が議論される。2016年、2017年にはクラウドが当然に利用される状況を迎え、2018年にはクラウドは“単なるコンピューティング”としか呼ばれなくなる」と予測している。具体的に、今後、企業にとってのクラウド利用はどのような姿になるのか。
本稿では、2014年3月11日に開催された「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション&アーキテクチャ サミット 2014」から、ファイファー氏の講演「ビジネス、テクノロジ、人の基盤を揺るがすクラウド・コンピューティングの将来シナリオ」をリポートする。
ビジネス部門を中心に高まるクラウドへの関心
ファイファー氏によると、2011年を起点としたパブリッククラウドに対する関心は、「個人は企業のIT部門の5倍、企業のビジネス部門はIT部門の4倍の速さで高まっている」という。
図1は、2011年から2015年にわたるパブリッククラウドへの重視度をグラフ化したものだ。青い線は、コンシューマーの重視度を表している。重視度が最も高いのは、「Google Apps」のようなオフィス系サービスや「Dropbox」のようなファイル共有サービスを中心にクラウドを積極的に利用しているコンシューマーだ。コンシューマーの次に高い重視度を示すのがビジネス部門(緑の線)だ。その一方で、企業のIT部門(赤い線)は重視度が最も低く、クラウドを積極的に利用したいビジネス部門とクラウド利用を避けたいIT部門で二極化していることが分かる。なお、企業規模では、小規模企業、中規模企業、大規模企業の順に重視度が高い。ファイファー氏によると、「小規模企業には、多数のサーバを構築・管理したりすることが難しい。それ故、SaaSを中心にクラウドに依存をしている」とのことだ。
次に、企業が2012年、2013年に利用したクラウドサービス(IaaS/PaaS/SaaS)を企業規模別に調査したデータを見てみよう(図2)。「各クラウドサービスの利用は、どの企業規模においても、2012年から2013年にかけて2倍以上増えている」(ファイファー氏)ことが分かった。
規模に関わらずユーザー企業のクラウドへの関心・利用の割合は高まる一方だ。こうした状況からファイファー氏は「クラウドの利用はますます拡大し、2016年には新規IT支出の大部分がクラウドサービスになるだろう。2016年はクラウドにとって決定的な1年になる」と明言した。
2016年はハイブリッドクラウドが注目か
一口にクラウドと言っても、そのデリバリーモデルは、パブリッククラウド、コミュニティークラウド、外部のデータセンターに構築するプライベートクラウド(エクスターナルプライベートクラウド)、オンプレミスに構築するプライベートクラウド(インターナルプライベートクラウド)と大きく4つに分けられる。
今日現在、「企業の中で注目を集めているクラウドのデリバリーモデルは、どの業種においてもプライベートクラウドだ」(ファイファー氏)。ガートナーの「クラウド調査、2012年7月」を見ても、小売/卸売、公的組織、メディア、金融など多くの業種で最も利用されているのがプライベートクラウド(約3~4割)である。
ただし、ファイファー氏は「2016年までに世界の大部分がプライベートクラウドになることはない」とも述べる。「これまでプライベートクラウドにしか注目しなかった企業が、ハイブリッドクラウドに注目し始めている。プライベートクラウドとパブリッククラウドの連係、その上にさらに別のパブリッククラウドを連係するようなハイブリッドクラウドこそがIT部門の成功を助けるのだ」(ファイファー氏)
クラウド移行のすすめ
ファイファー氏によると、企業のシステムをアプリケーションレイヤーで3つに分けたとき、(1)電子メール、開発/テスト環境、Webサーバ、コラボレーションなど「革新システム」、(2)アカウント管理、CRM(顧客関係管理)、SCM(サプライチェーンマネジメント)、ヘルプデスク、商品設計など「差別化システム」、(3)ERP、人事情報など「コアシステム/記録システム」に分けられるという。これらのうち、(1)革新システムや(2)差別化システムはクラウドへ移行しやすく、(1)革新システムは現在でもクラウド化が進んでおり、(2)差別化システムは今後1~3年でクラウドへの移行が進むと考えている。ただし、(3)コアシステム/記録システムは当分の間(5~7年は)オンプレミスに残り、企業システムは必然的にハイブリッドクラウドの状態になるという。
クラウドの導入が順調に拡大していく中で、ユーザー企業には気を付けるべきことがある。利用するクラウドサービスにガバナンスの透明性はあるのか、セキュリティ侵害への対策はあるのか、サービス約款でSLA(サービスレベル保証)を担保しているか、ロックイン問題は大丈夫か、バックエンドシステムとの統合に大きなコストが掛からないか、プロバイダーが倒産した場合の対応(出口戦略)など、クラウドを利用した場合の自社への影響を考えることは大切だ。
上記のようなリスク回避策を講じるとともにファイファー氏が勧めるのは、クラウドサービスブローカーの利用だ。クラウドサービスブローカーは、ユーザー企業のために、システムの集約、システムのカスタマイズ、複数のクラウドサービスの統合などを担い、1つあるいは複数のクラウドサービスに付加価値を付ける役割を果たす。ユーザー企業は、外部のクラウドサービスブローカーを利用するだけでなく、自社でクラウドサービスブローカーを育てることも選択肢の1つだという。来たるハイブリッドクラウド時代を見据え、ユーザー企業はクラウドサービスにどう向き合うのか。2016年にはハイブリッドクラウド環境が当然の状態になり得るのか。引き続き注目していきたい。
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