実際のサービスを例に検証
クラウドでコスト削減は本当? オンプレミスと比べてみる
クラウドサービスの多くの利用はコスト削減が目的だ。だが、クラウドサービスは長期的には、オンプレミスのITよりもはるかにコストがかさむ可能性もある。実際のクラウドサービスを例にコストを検証する。
ファイナンシャルアドバイザーであれば誰もが、「リースするより所有した方がいい」と言うだろう。だが、ことクラウドコンピューティングに関しては、この考え方は無視されている。
即金では購入できない、最新鋭で最高性能を備えるインフラやプラットフォーム、アプリケーションにすぐにでもアクセスしようと、クラウドプロバイダーに月額の利用料金を支払う企業がますます多くなっている。昨今、ITプラットフォームやアプリケーションのリース市場は活況を呈し、企業にはさまざまなクラウドサービス(XaaS:Anything as a Service)が用意されている。こうしたサービスを利用してITコストの削減につなげたいというのが企業の思惑だ。
米TechTargetが1500人のIT従事者を対象に2012年に実施した調査によれば、パブリッククラウドサービスを利用しているIT従事者のうち73%は、主な理由に「コスト削減」を挙げている。
だがクラウドサービスは長期的には、オンプレミスのITよりもはるかにコストがかさむ可能性もある。ベンダー各社が自社製品のクラウド版を開発しているのは、まさにそうした理由からだ。SaaS(Software as a Service)は、2年に一度のソフトウェア製品のリリースでは得られないような安定した収入源をベンダーにもたらす。
「マーケティングの文言を信じれば、明日にでも全てをクラウドに移行させなければならない気がするだろう。だがそうした文言は事実とは異なる。検討すべき要素は他にも多数ある」と米ITサービスプロバイダーWindward IT SolutionsのCEO、ショーン・マクダーモット氏は指摘する。
クラウドは高くつく場合も
システム間の統合が進んでいる成熟した企業にとって、「何をクラウドに置くべきか」は複雑な問題だ。結局、自社でデータセンターを持つとの結論に達するケースも少なくない。
Windward IT Solutionsは、Microsoft OfficeとMicrosoft SharePointの環境をクラウドに移すことを検討した。同社はMicrosoft Exchange Serverのホスティングサービスを利用して、既にクラウドでメールを管理している。だが、「カスタマイズした会計ソフトウェアのように、中にはクラウドベースのExchangeとは統合できないアプリケーションもある」とマクダーモット氏は語る。
それに加えて、クラウドサービスプロバイダーが提供するExchangeのホスティングサービスの利用料金として1ユーザー当たり月額約9ドル(米国での価格、以下同じ)を継続的に支払う必要がある。「Exchange ActiveSync」のコストも加えると、「ユーザーが約120人の場合、月額で1600ドル、年間では1万9200ドルのコストが掛かる」とマクダーモット氏は語る。
「いずれにせよ、会計ソフトウェアやその他の用途向けにサーバを別で1台購入しなければならない。従って、この場合では設備投資と運用コストの点では自社でプライベートクラウドを構築する方が理にかなっている」と同氏。
米Microsoftのホスティングサービス「Exchange Online」の価格は1ユーザー当たり月額8ドルだ。Microsoftは、Exchangeをオンプレミスで所有する総コストと、クラウドベースでExchange Onlineを利用するコストを比較したデータを持っていないという。この件について検証するためにExchange Onlineの顧客を紹介することも断られた。
代わりに、Microsoftの広報担当者からは、米国西海岸にある非営利団体の2013年1月のケーススタディを紹介された。この非営利団体は、機器とソフトウェアのアップグレードに要する約4万ドルの設備投資コストを節約するために、Exchange Serverの古いバージョンから、Exchange Online、Office 365、Microsoft Lync、SharePoint Onlineに移行した。Microsoftの調査によれば、この団体は現在、月額1500ドルを支払っているという。
毎月1500ドルを支払っていれば、2年と少し経てば、当初回避しようとしたはずの4万ドルの設備投資コストに追い付くことは簡単な計算で分かる。
クラウドサービスは決して価格に見合うものではない、と言っているのではない。米Tier 1 Researchのアナリスト、カール・ブルックス氏によれば、製品への先行投資が不要であるというメリットと、保守や管理に伴うコスト全般を回避できるというメリットを考えれば、クラウドを利用する価値はあるという。
「米Oracleには自社でデータセンターを持つ場合と同じ額を支払うことになるし、米Amazon Web Services(AWS)にも運用コストをほぼ同額支払うことになるだろう。つまり、IT部門がクラウドサービスを使用するのは、コスト削減のためではなく、クラウドサービスの利用には他にも幾つか内在的なメリットがあるからだ」と同氏は語る。
これは、あらゆる外部サービスに当てはまるだ。だからこそ、企業はマネージドサービスプロバイダー(MSP)に最も多くの予算(約7~8%)を費やす一方で、IaaS(Infrastructure as a Service)には1~2%、SaaSには2~3%の予算しか費やしていない、と同氏は語る。
「大切なのは、ITスタッフの作業負担を減らしてサービスプロバイダーに委ねられる点だ。IT予算の残り90%は給与やソフトウェア、既存のデータセンターといった通常の用途に充てられている」(同氏)
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