料金プランの“併せ技”でTCOを低減
3つのシナリオで考える、AWSを低コストに使う方法
パブリックIaaSの草分けである「Amazon Web Service」(AWS)。AWSが現在、最も高い成長を遂げている地域が日本だという。このAWSをより低コストで活用する方法を解説する。
「クラウドはオンプレミスに比べて低コスト」――この“定理”は多くの場合、概念的に語られる。定量的に説明されることはまれだ(関連記事:クラウドは本当にコストダウンになるのか)。
その点で2012年9月14日に開催された「AWS Summit 2012 | Tokyo」において、アマゾン データ サービス ジャパン 技術統括部長の玉川 憲氏が行った「クラウドTCOの真実」と題する講演は興味深かった。自社が提供するパブリックIaaS(Infrastructure as a Service)のAWSとオンプレミスの詳細なTCO比較を行ったのだ。プロバダー自身が公に語るのは珍しい。では、オンプレミスのシステムをAWSで構築した場合、AWSではどのような料金プランが考えられるのだろうか。本稿では、企業システムの特性に応じた3つのシナリオを想定し、AWSの料金プランを賢く利用する方法を解説する。
自前サーバのTCOを積算する
まず、AWSの中核である仮想マシンサービス「Amazon EC2」(以下、EC2)の比較対象となる自前サーバの“コスト”をどう計るか。玉川氏は「サーバの価格は下がっているが、クラウドと比較するなら運用コストも含めたTCOで見るべき」と指摘し、実際に標準的な1ソケットサーバである「Dell PowerEdge R310」(以下、R310)を自前運用する場合のTCO積算例を示した。
積算の内訳は、R310本体とネットワーク機器(スイッチとラックの占有部分)、それぞれのオンサイト保守の他、電気代、データセンター代、人件費を加えている(図1)。つまり、購入価格15万円のサーバもTCOで見れば、月額2万5760円、償却期間3年では約93万円となる。
「AWSを安く見せるため、自前サーバのTCOを高く見積もっているのではないか」と訝しむ向きがあるかもしれない。ただ、「電気代やデータセンター代は米国基準で計算しており、(インフラコストが高い日本の実態と照らし合わせれば)保守的な見方」(玉川氏)なのだ。
AWSで肝になるリザーブドの使い方
上記のTCO積算例を基にオンプレミスとAWSのTCO比較を行う前に、AWSの料金体系を簡単に説明しよう。
要となるEC2の契約法には、主にオンデマンドとリザーブドの2種類がある。オンデマンドは、仮想マシンのインスタンス数、OS種、性能区分、利用時間による完全従量課金制で“使った分”だけを支払う。最低課金額は1時間当たり2.4円(本来はドル建ての料金表示。便宜的に1ドル80円で計算した。以下同)。別途、データ送信に1Gバイト当たり16円、ストレージサービス「Amazon S3」で1Gバイト当たり10.4円が課金される。
やや複雑なのがリザーブド。これは予約金を払うことで一定数のインスタンスを1年/3年にわたって押さえる代わりに時間単価の割り引きが受けられる契約である。ただ、予約したインスタンスは稼働させる/させないにかかわらず課金される。そのため、利用率(※)の多寡からライト、ミディアム、ヘビーの3コースから最適なものを選ぶ必要がある。
※ インスタンスが稼働する時間の割合。
ライトは予約金が低い代わりに時間単価の割引率も低い。逆にヘビーは予約金が高い代わりに割引率も高く、ミディアムはそれらの中間になる。要するに「予約するインスタンスの利用率(見通し)で最適なコースが自ずと決まってくる」(玉川氏)。利用率が75%より上ならヘビー、40~75%はミディアム、10~40%ならライトだ(グラフ1)。
AWSは使い方を間違えるとコスト高も
さて本題のオンプレミスとAWSのTCO比較だが、玉川氏は「システムの特性に応じてオンデマンドとリザーブドをどう組み合わせるかで、AWSのTCOが変わってくる」として、以下の3つのシナリオを示した(図2)。
常時稼働するサーバはリザーブドに
シナリオ1は、毎月数十万件と平準的にアクセスがある企業サイト。それをWebサーバ、アプリケーション(App)サーバ、データベース(DB)サーバそれぞれ2台でシステム構成する(表1)。
| オンプレミス | AWS1 リザーブド |
AWS2 ミックス |
AWS3 オンデマンド |
|
|---|---|---|---|---|
| Webサーバ | 2サーバ | 2リザーブド(ヘビー、3年) | 平常時1リザーブド/ピーク時1オンデマンド | 2オンデマンド |
| Appサーバ | 2サーバ | 2リザーブド(ヘビー、3年) | 平常時1リザーブド/ピーク時1オンデマンド | 2オンデマンド |
| DBサーバ | 2サーバ | 2リザーブド(ヘビー、3年) | 2リザーブド | 2オンデマンド |
これをオンプレミス、AWSリザーブド(ヘビー3年契約)、AWSミックス(DBサーバ2台はリザーブド、Web・Appサーバは各1台がリザーブド、各1台がピーク対応のオンデマンド)、AWSオンデマンドの4パターンで運用したとすると、各パターンのTCOは表2のようなる。
| オンプレミス(3年に分割償却) | AWS1 リザーブド |
AWS2 ミックス |
AWS3 オンデマンド |
|
|---|---|---|---|---|
| 3年合計 | 556万4160円 | 178万800円 | 310万8720円 | 615万8560円 |
| 比較 | 68.00% | 44.13% | -10.68% |
オンプレミスは償却期間3年でTCOが約556万4160円(前述の積算値2万5760円×6台×36カ月)。一方、AWSオンデマンドは約615万8560円で、オンプレミスを約10%も上回る。つまり、常時稼働するサーバをフルにオンデマンドで運用するとオンプレミスよりも高くつくことが分かった。
4パターンのうち最もTCOが低いのは、AWSリザーブドの約178万800円である。オンプレミスのTCOに対して削減率は68%になる。これは、リザーブド・ヘビー3年契約の時間単価の割引率が71%と高いためである。アクセス数が予測可能で平準的なWebサイトは、インスタンスを予約するリザーブド、その中でも時間単価が低いヘビー3年契約が最適だろう。
アクセス数が読めない場合こそオンデマンド
シナリオ2は、通常は月間数十万件のアクセスだが、年1回の一大イベント時だけアクセス数が3倍になるテニス協会のWebサイト。つまり、アクセス数は予測できるが、ピーク時の振れ幅が大きいのが特徴である。これを各4台のWeb・Appサーバ、2台のDBサーバでシステム構成する(表3)。
| オンプレミス | AWS1 リザーブド |
AWS2 ミックス |
AWS3 オンデマンド |
|
|---|---|---|---|---|
| Webサーバ | 4サーバ | 4リザーブド(ヘビー、3年) | 平常時1リザーブド/ピーク時3オンデマンド | 4オンデマンド |
| Appサーバ | 4サーバ | 4リザーブド(ヘビー、3年) | 平常時1リザーブド/ピーク時3オンデマンド | 4オンデマンド |
| DBサーバ | 2サーバ | 2リザーブド(ヘビー、3年) | 2リザーブド | 2オンデマンド |
シナリオ1と同様にオンプレミス、AWSリザーブド、AWSミックス、AWSオンデマンドの4パターンで運用する。オンプレミスのTCOは約927万3600円。AWSはどのパターンでもそれよりTCOは低いが、一番は253万8480円のAWSミックスで削減率は約72%である(表4)。「アクセス数は予測できるが、ピーク性がある場合、ベースはリザーブドで押さえながら、ピーク時はオンデマンドを使うのが賢い」(玉川氏)という。
| オンプレミス(3年に分割償却) | AWS1 リザーブド |
AWS2 ミックス |
AWS3 オンデマンド |
|
|---|---|---|---|---|
| 月額合計 | 25万7600円 | 7万9360円 | 7万480円 | 15万5200円 |
| 3年合計 | 927万3600円 | 285万7440円 | 253万8480円 | 558万8320円 |
| 比較 | 69.19% | 72.63% | 39.74% |
予測不可能なWebサイトはオンデマンドで柔軟に対応
シナリオ3は、新規に立ち上げるSNSサービス。アクセス数は予測不可能だが、それでもアクセス集中に備えて、Webサーバ7台、Appサーバ7台、DBサーバ2台でシステムを組む(表5)。
| オンプレミス | AWS1 リザーブド |
AWS2 ミックス |
AWS3 オンデマンド |
|
|---|---|---|---|---|
| Webサーバ | 7サーバ | 7リザーブド(ヘビー、3年) | 7リザーブド(ヘビー、1年)/1年後、オンデマンド | オンデマンド |
| Appサーバ | 7サーバ | 7リザーブド(ベビー、3年) | 7リザーブド(ベビー、1年)/1年後、オンデマンド | オンデマンド |
| DBサーバ | 2サーバ | 2リザーブド(ヘビー、3年) | 7リザーブド(ヘビー、1年)/1年後、オンデマンド | オンデマンド |
この場合、オンプレミスのTCOは実際のアクセス数に関係なく1483万7760円。AWSはいずれのパターンも削減率は高いが、特にオンデマンドの約80%が圧倒的だ(表6)。予測不可能なWebサイトはまさに“オンデマンド”で柔軟に対応するのが正解といえる。
| オンプレミス(3年に分割償却) | AWS1 リザーブド |
AWS2 ミックス |
AWS3 オンデマンド |
|
|---|---|---|---|---|
| 月額合計 | 41万2160円 | 12万4240円 | 10万2000円 | 8万640円 |
| 3年合計 | 1483万7760円 | 447万2320円 | 367万3280円 | 290万8240円 |
| 比較 | 69.86% | 75.24% | 80.40% |
さらなる“併せ技”でTCO低減可能なAWS
3つのシナリオは、オンプレミスに比べてAWSがTCOを60~80%削減できることを示す。現実にこの通りになる保証はないが、AWSが使い方次第で大幅なTCO削減を実現できるサービスであることはうかがえるだろう。
玉川氏は講演で、AWSを工夫しながら利用する企業の実例も紹介した。例えば、楽天も出資する画像ソーシャルサービスの米Pinterestは、1日の中でも変化の大きいアクセス負荷を効率的にさばくため、リザーブドとオンデマンド、そしてスポットを組み合わせているという。スポットとは、アマゾンが提供する余剰インスタンスを指し値で買い、短期間利用するものだ。
AWSには、予約するインスタンス数や個別の取引条件に応じてのディスカウント制度もあり、最近では予約したインスタンスをユーザー同士が売り買いするマーケットプレース「AWS Marketplace」も立ち上がっている。コストを下げるための工夫を凝らせる余地は大きい。研究してみる価値はあるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社うるる] 「入札市場」攻略ガイド:効率的に落札するためのポイントを徹底解説 -
製品資料
[株式会社うるる] 入札情報に特化した「販路拡大」「効率化」のためのサポートツールとは? -
市場調査・トレンド
[株式会社うるる] 公共入札に成功する企業と失敗する企業の「5つの違い」 -
製品資料
[日本ビジネスシステムズ株式会社] 専門家が教える、Microsoft 365の「テナント統合/分離」を成功に導く秘訣 -
製品資料
[rakumo株式会社] Microsoft 365での情報埋没を防ぐ、社内ナレッジを資産化する情報ポータル活用
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
3
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
4
「Microsoft 365」が乗っ取られる MFAを破る“本物の画面”の恐怖
-
5
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
6
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
7
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
8
積水化学工業が「SAP S/4HANA Cloud」の“全グループ導入”に踏み切った訳
-
9
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
-
10
データセンター事業者が「脱VMware」をした“例のライセンス問題”じゃない理由
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
7
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
8
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
9
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
10
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー