ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略【第3回】
製薬企業にもビッグデータの波、「リアルワールドデータ」活用に必要な技術とは(2/2 ページ)
ビッグデータ利活用のためのテクノロジー
このようにライフサイエンス分野でのデータは多種多様で、データ量も激増している。近年では、こうしたデータを利活用するためのテクノロジーも進歩している。
Apache Hadoop
大量のデータを高速処理するには、処理するコンピュータ1台当たり性能を上げる「スケールアップ」が1つのやり方だ。しかし、スケールアップで実現できる性能向上には限界があり、コストも掛かる。これらを解決するために登場したのがオープンソースソフトウェア(OSS)の分散処理基盤「Apache Hadoop」(以下、Hadoop)だ。Hadoopはスケールアップではなく、処理するコンピュータの台数を増やして性能向上を図る「スケールアウト」を実現するテクノロジーだ。ビッグデータの処理時間目標に対して最適なマシンの台数を用意し、並列処理をさせようというときには、コンピュータ全体の動きを制御し最適な形で処理する必要がある。ここでHadoopが機能する。並列で用意したコンピュータでクラスタを構成し制御下に置く。それぞれのコンピュータに対して処理を割り振り、各コンピュータの状況を管理し、処理された結果を1つにまとめる。これにより、Hadoop制御下のコンピュータ群が1つの巨大なコンピュータのように振る舞うことになる。
データレイク
多様なデータをどのように蓄積するか。データ蓄積の目的で利用される一般的なシステムがデータウェアハウス(DWH)だ。DWHは、データ収集の目的を明確にして設計し、目的に応じたデータを絞り込んで収集するために利用する。一方で明確な目的を定めず、多様なデータをすぐに活用できるシステムとして登場した概念が「データレイク」である。生み出されたデータをそのままの形で蓄積し、データを活用するときに必要な構造で取り出せるようにする、というのがデータレイクの基本的な考え方である。構造化データだけでなく、テキストデータやセンサーデータなどの非構造化データもそのまま保存し、利用する際に分析の目的に応じたスキーマを付与してデータを照会する。
セルフサービスBI
データ分析のためのビジネスインテリジェンス(BI)ツールにおいては、エンドユーザーが自らデータ分析できる「セルフサービスBI」に注目が集まっている。従来のBIツールを導入する際には、業務部門にヒアリングをして要件を定義し、それを基に蓄積するデータやレポートの出力方法などを設計していた。システム構築も他の業務システムと同様、情報システム部門主導で進める必要があった。これは数値目標(KGI)/業績評価指標(KPI)の追跡や現状の把握において、事前に定義したダッシュボードや定型レポートを参照するという点では有用である。しかし、業務部門からの明細データを基にさまざまな軸から探索的に分析したいというニーズに対応するのは困難で、BIツールのダッシュボードやレポートからデータをCSVファイルなどで切り出して「Microsoft Excel」などの表計算ソフトで分析するという一手間が必要なケースが少なくなかった。その場合、次のような問題点が発生する。
- データに複数のバージョンが存在し、統制が取りづらくなる
- 難しい関数やマクロ、「VBA」(Visual Basic for Applications)などを駆使して作りこんだデータや表、グラフは、作成した本人以外理解できなくなる
- 扱うデータ量が増大し、データ分析が複雑化すると、表計算ソフトでは処理が不可能というケースも多くなってしまう
上記の課題を解消するためには、業務部門のエンドユーザー自身がサーバに格納したさまざまなデータやファイルなどにアクセスし、プログラミングなどはせずに直感的な操作でレポート作成やデータ分析ができる必要がある。セルフサービスBIによって、エンドユーザーは探索的に分析を繰り返し、課題発見に近づくという、データを基にした試行錯誤のアプローチが可能となる。BIツールによってはエンドユーザーが作成したダッシュボードやレポートをPDF形式で配信するといった、他ユーザーと共有する仕組みを備えているものもある。
モバイル活用
この他にも、営業活動などの場面において、外出先でこれから訪問する先の情報を確認する、といった用途に適したデータ利活用技術も求められている。例えば、MRが病院を訪問する際、その病院に対する製品ごとの売り上げ情報や、所属する医師に対する活動状況などを訪問前に確認する、といった使い方ができる。外出先での閲覧を想定し、スマートフォンやタブレットなどモバイル環境で簡単に閲覧できる機能を備える動きがある。
人工知能
ビッグデータに関連するテクノロジーとして、人工知能(AI)技術の活用が始まっている。AIとは、一般にコンピュータに知的な活動をさせることを目的とする研究を指す。AIには、探索、テキスト処理、自然言語処理、画像・音声の認識、自動応答などさまざまな技術要素があるが、その中でも重要な要素は、人の学習プロセスをコンピュータで再現する「機械学習」である。
機械学習を医療分野へ応用した例として、画像診断におけるがんの早期発見が挙げられる。大量の画像データを基に組織構造の特徴を学習したシステムを使い、被検者の組織画像を基に、組織構造の特性から悪性腫瘍があるかどうかを探し出す。例えば、IBM Researchにおける、画像解析による皮膚がんの早期発見技術の研究においては、人間の肉眼による診断能力を上回る精度で悪性腫瘍の発見ができたという研究成果も出てきている。
医療現場だけでなく、製薬企業での機械学習の活用も見込まれている。例えば、コールセンター業務において、過去のよくある質問や医療関係文献、添付文書などで学習したシステムを使い、音声質問に対して音声認識の技術で質問を理解し回答する、といったような用途である。その他、新薬開発、マーケティング支援、各種予測モデルなどの領域でも活用が見込まれている。
本稿では、どのようなデータがライフサイエンス分野においてビッグデータを形成しているか、そのデータを利活用するためのテクノロジーとは何かについて紹介した。次回は製薬企業での利活用例とともに、情報プラットフォーム構築の考え方を紹介する。
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ライフサイエンス企業のCIOが描く成長戦略
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