製薬企業のマーケティングを変えるデータ活用【第1回】
製薬企業のマーケティング調査が「市場規模把握」で終わってしまうのはなぜか(2/2 ページ)
プロジェクトを成功に導くチーム編成
このように、施策前の調査からつまずくことなく、具体的なマーケティング戦略の構築、実行までのプロジェクトをスムーズに成功に導くためには、一体どのようなチーム体制を組めばよいのでしょうか。プロジェクトの推進者にとって、プロジェクトのチーム編成は最も悩ましい部分の1つではないかと推測します。どうすれば、前述のような落とし穴にはまらずに円滑で効率的なプロジェクト運営ができるのでしょうか。
筆者がよく見掛けるケースを表1にまとめました。
| 1.製薬企業のデジタルチーム主導 | 新しいデジタルツールやシステムなどへの期待値が高く、フレームワークの精査に走りやすい傾向がある。そのため、業績評価指標(KPI)などの設定が曖昧なまま進みがちで、社内からの「そのプロジェクトが薬剤処方の増加にどれだけ寄与するか」といった根本的な問いに答えられず、案件が保留になってしまうケースが少なくない |
|---|---|
| 2.製薬企業のマーケティングチーム(製品部)主導 | KPIやルールへのこだわりが強く、社内ワークショップでペイシェントジャーニー(患者が購入に至るプロセス)の分析を実施するなど、綿密な情報設計をしようとする傾向がある。その結果、“確実に刈り取れる部分”といえるような情報に縛られてしまい、新しいアイデアは貧困になりがちになる |
| 3.コンサルティングファームに依頼 | 市場ポテンシャル把握の精度は高く、ワークショップやディスカッションを通じて大きな方針を定めやすい。だが具体的なキーメッセージやキラーコンテンツといった、具体的に成功し得るマーケティング手法が何なのかまでの分析は弱く、実施策の策定まで至らないケースが少なくない |
| 4.メディカル専業の広告代理店に依頼 | 各製品のマーケティング戦略および実施策を練り上げるのを得意とするが、デジタルに関する知見は十分でない場合がある。そのため、MRのeディテーリングツールやオウンドメディアとの連携といった、ITツール活用のアイデアに至らない場合がある |
| 5.制作会社に依頼 | 施策実行力はあるものの、メディカル領域の見識やマーケティングには強くない(そこまで兼ね備えている会社は珍しい)。そのため、ほとんどのケースは、戦略設計の段階でつまずいてしまう |
| 6.デジタル専業の広告代理店に依頼 | デジタルマーケティングの専門集団。デジタル戦略に詳しく、そこから実施策までワンストップで対応できるというメリットがあるが、メディカルの専門的知識は強くない |
表1の通り、それぞれに一長一短があり、どこか1カ所だけが主導してプロジェクトを進めるには限界があります。特にメディカル領域では、さまざまなステークホルダー(注1)が存在しています。プロジェクト始動のタイミングから、できるだけチームに多様性を確保しておくことが重要です。そのため、コンサルティングの段階から施策の実行まで担当できるベンダーを強み別に複数アサインするとよいでしょう。そうすることで、コストとスケジュールを短縮することが可能です。
※注1:製薬企業の営業部隊における対外的ステークホルダーの例としては、Key Opinion Leader(KOL)、監修医、薬剤師、ケアワーカー、患者、患者家族、官公庁、患者会、医師学会、各種ベンダー、各種エージェンシーなどがある。対内的ステークホルダーの例としては、学術、IT、マーケティング、セールスストラテジー、広報、審査などの部門がある。
筆者が推奨するチーム編成を表2に示します。情報の流通プラットフォームが紙からインターネットへと変化し、企業も医師、患者へのマルチチャネルを活用したデジタルでの情報提供を加速させる中、次のような体制であれば、スピーディーにパフォーマンスを最大限発揮できるのではないかと考えています。
表2 推奨チーム編成
- メディカル専業広告代理店+デジタル専業広告代理店
- コストとスケジュール両面でパフォーマンスが発揮できる組み合わせ
- コスト:安
- スケジュール:短
- コストとスケジュール両面でパフォーマンスが発揮できる組み合わせ
- コンサルティングファーム+メディカル専業広告代理店+デジタル専業広告代理店
- 精緻な戦略に基づく、メディカルとデジタルの専門性に裏打ちされた具体的な施策が可能
- コスト:高
- スケジュール:長
- 精緻な戦略に基づく、メディカルとデジタルの専門性に裏打ちされた具体的な施策が可能
デジタル専業広告代理店については、デジタルに関する幅広い知見を豊富に有していることが特徴です。例えばデジタル専業広告代理店は、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やモバイルアプリなどさまざまなITツールについての知見および、それらのツールを消費者がどのように利用しているのかといった消費者インサイト(消費者の購買行動の核心、本音)に精通しています。そのため、マーケティング調査と同時に患者と医師のニーズやインサイトを抽出し、それに合わせて最適なツールやシステムによる情報流通手法を検討することが可能になります。メディカル専業広告代理店は、医薬品全般および製品に対して極めて高い専門知識を有し、それらの情報を患者や医療従事者向けにどう発信すべきかについても専門的なノウハウを持っています。この二者がコンビを組むことで、医療に対する専門性と最新デジタルマーケティングのノウハウを十分に活用することができるでしょう。
次回は「医療従事者向けの情報提供でITツール活用が難しいのはなぜか」について解説します。
比屋定 航(ひやじょう・わたる)
WHITE メディカルマーケティングチーム
大手映像系制作会社(プロデューサー)を経て2010年よりスパイスボックスへ入社。その後、親会社である博報堂に常駐し、大手製薬企業の患者・医科向けのデジタル施策に広く関わる。2015年12月にスパイスボックスでメディカルマーケティング事業部を立ち上げる。その後、DTC(医療用医薬品の患者向け広告)パッケージ、企業と患者のコミュニケーションサービス「LINEビジネスコネクト」のメディカルパッケージなど、メディカル業界向け商品をリリース。2016年10月にVeeva Japanとも戦略的なパートナーとして業務提携を締結。患者向け、医療従事者向けともにメディカル業界向けの情報フレームワーク設計や疾患別態度変容率調査データなどをベースとしたコンサルティング、戦略設計、企画、制作までワンストップ対応ができる体制を確立。
大須賀 智哉(おおすか・ともや)
WHITE ストラテジック・プランナー
国内大手システムインテグレーターにて大規模システム構築やITコンサルに従事し、2015年にスパイスボックス入社。その後、親会社である博報堂に常駐し、大手製薬企業の患者・医科向けのデジタル施策に広く関わる。2015年12月からスパイスボックスのメディカルマーケティング事業部。主に製薬企業のデジタルマーケティングにおける戦略策定部分を中心に、患者・医師向け調査、ターゲットセグメンテーション、KPI策定、効果検証スキーム構築などに強みを持つ。2016年には、一般生活者6万サンプルを対象とした疾患別態度変容調査を企画・運営し、定量的データを基に、患者向け施策のプランニングを行う。
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製薬企業のマーケティングを変えるデータ活用
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