Apple対FBIの対立と似た構図
「WannaCry」を巡りMicrosoftがNSAを批判、混迷深めるIT企業と政府の関係(2/2 ページ)
Apple対FBIの再来
多くの専門家はWannaCryランサムウェアとサイバー兵器の蓄積に関するMicrosoftのコメントについて、サンバーナディーノで起きた事件を巡るAppleと米連邦捜査局(FBI)の対立を思い起こさせると指摘する。
FBIはAppleに対してテロ容疑者が所有するiPhoneのロックを解除する手助けを求めたが、Appleに拒否された。FBIは、アクセスするのはその1台のiPhoneだけだと主張したが、Appleのティム・クックCEOは「善人にとってバックドアなどというものは存在しない。悪者にもそれが分かるだろう」と切り返した。
WannaCryを巡る論議もこれに似ていると専門家は言う。WannaCryの場合、情報収集の目的のみに使うと政府が考えていた悪用ツールが流出し、悪用目的で使われた。
スミス氏はブログにこう記した。「米中央情報局(CIA)が保管していた脆弱性がWikiLeaksに掲載されたこともある。そして今度はNSAから盗まれたこの脆弱性が世界中の顧客に影響を与えている。何度も何度も、政府の手にあったエクスプロイトが公の場に流出し、広範なダメージを引き起こしている。今回の攻撃は、最も深刻なサイバーセキュリティの脅威における2つの形態、すなわち国家の行動と犯罪組織の行動の間にある、想定外だが不安を感じさせるつながりを物語る」
Fidelis Cybersecurityの脅威システムマネジャー、ジョン・バンベネク氏によると、WannaCryに使われたエクスプロイトは実際のところ、FBIがAppleに解除を要求した以上に強固なセキュリティに守られていた。
「WannaCryに使われたエクスプロイトは、NSAによって開発された機密度の高いエクスプロイトだったが、それが盗まれた。iPhoneのバックドアが、このエクスプロイトほど高度な機密に守られていたはずはない。バックドアを使うために必要な手順やツールを誰かが流出させれば、それは公開されて誰にでも使える状態になる。今回の事態は、その可能性がいかに現実的かを物語る」(バンベネク氏)
セキュリティ企業Votiroのアビブ・グラフィ最高技術責任者(CTO)は、WannaCryが使ったエクスプロイトのEternalBlueをNSAは長期間保有していて、「公衆の安全のため、そして自分たちの標的や目標のため」に使っていた公算が大きいと話す。
「FBIやNSAが、自分たち自身の目標や標的のために使える脆弱性について情報を持っているのは明らかだ。例えばAppleの端末を標的にできる脆弱性をFBIが持っていることも、私たちは知っている。これはサンバーナディーノの事件から学んだことだ。そうした情報が流出すれば、一般に対する犯罪やサイバー戦争に再利用されかねず、極めて危険なことは明らかだ」(グラフィ氏)
Gigamonのグローバルセキュリティストラテジスト、ケビン・マギー氏は、政府が持つこうしたサイバー兵器は、世界に真の損害をもたらしかねないと見る。
「サイバー攻撃が兵器にされ、オンラインと実世界の両方で相当の被害を生じさせているのが今の現実だ。そうした攻撃は多額の金銭被害を生じさせるだけでなく、特に病院に対する攻撃では患者の診療に影響が出た。まだ発生はしていないものの、いずれは死者が出る恐れもある。サイバーセキュリティとサイバー戦争に関する限り、今こそ世界の政府が自分たちの行動に対して責任を持つべき時だ。そしてインターネットやハッカーやサイバー犯罪集団は物理的な国境には制限も制約もされない。従って国際社会が協調してこうした課題に取り組む必要があることを理解しなければならない」(マギー氏)
コンピュータセキュリティサービス企業Arctic Wolfのマーケティング責任者ヤンセ・ソン氏は、企業と政府機関の間でプライバシーとデータ共有のバランスを保つ必要があると訴える。
「IT企業と司法機関との協力関係強化には多くのメリットがあり得る。問題はプライバシーの保護であり、互いの大義のために対立することもある。WannaCryに関与した者を見つけて訴追することには間違いなく大義がある。だが、政府と民間企業の間で必要な協力の程度について意見が一致することはないだろう」(ソン氏)
NSAはこれ以上のサイバー兵器が公開される前に行動しなければならないとグロスマン氏は言う。
「Shadow Brokers、または他の何者かが(NSAの)サイバー兵器やエクスプロイトを全て盗んだのか、または一部だけだったのかは分からない。もしこれ以上出回っていて、NSAがそれを知っているのなら、NSAは該当するベンダーに即座に知らせるべきだ」(グロスマン氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー