「FileMaker」ベースの電子カルテ
相武台脳神経外科が構築した電子カルテ 「開発しながら運用」がもたらす満足度とは(2/2 ページ)
電子カルテ移行の実際
電子カルテシステムの移行に当たっては、スタッフからは「紙カルテから電子カルテに移行したときも大変だったのに、あの苦労をもう一度繰り返すのか」という異論もあった。とはいえ、システム移行の目的は業務効率化である以上、乗り越えなければならない壁だ。
移行作業はANNYYS_Developer版の開発・提供をしているエムシスも支援した。エムシスはオープンソース版ANNYYSの開発プロジェクト参加メンバーでもある。つまりANNYYS_Developer版はオープンソースソフトウェアではあるが、“開発元”のサポートが受けられる状態で提供されているわけだ。「この点も安心材料になった」と加藤氏は語る。
システム移行に当たって加藤氏は「Facebook」の「秘密グループ」でプロジェクトチームの交流ページを作り、クリニック側とベンダー側の活発な情報交換を促した。新システム稼働目標日の1年前からこうした準備を始めたが、それでも旧システムに保存されているデータの移行は時間がかかり、システムの運用開始は当初予定よりも2~3カ月遅れたそうだ。そのためこの2~3カ月の期間は旧システムを併用しながらデータ移行を続けた。一般的には、こうした二重運用は入力ミスや作業時間のロスにつながり避けたい状況だが、これは運用の小回りがきくクリニックならではの現実的な対処だったと考えられる。もちろん、この二重運用は期間限定のことで、データ移行が完了した時点で、旧システムの運用は停止している。
実際、この二重運用の期間は、ANNYYS_Developer版の使い方を覚えながら旧システムを使うということで、加藤氏やクリニックスタッフにとっては大きな負担に感じられたそうだ。導入当初からANNYYS_Developer版のカスタマイズ性に期待を寄せていたということは、つまり運用開始時点のシステムはある意味「未完成」なのだ。ANNYYS_Developer版移行プロジェクトは、運用しながらカスタマイズを重ねて使い勝手を向上させていくという取り組みとなり、移行直後は旧システムの方が使いやすい面も多々あった。だがカスタマイズを重ねていった現在では、旧システムの欠点を補ったシステムに育ち、加藤氏の満足度は高いようだ。
電子カルテ移行の費用感
相武台脳神経外科のケースでは、初期導入コストは約150万円だったという。エムシスが挙げたモデルケース(医師1人と事務2人のクリニック。サーバ1台と、操作端末3台程度)の場合、ハードウェア費用を除いたANNYYS_Developer版導入費用は約75万~100万円となる(保守費用含む。この他に機能追加やカスタマイズなどで追加料金が発生する場合がある)。保守にかかるランニングコストは年間約27万円だ(追加機能などにより増える)。
カスタマイズで電子カルテを「育てる」
相武台脳神経外科の電子カルテは、FileMaker ProベースのANNYYS_Developer版および、FileMaker Proベースの独自開発アプリケーションであるクリニック運営支援システムと、日本医師会の標準レセプトソフト「ORCA」の3つが連携しているシステムだ。全ての機能をカスタマイズで構築するのではなく、FileMaker Proの標準機能をそのまま活用している部分も少なくない。例えば電子カルテデータのバックアップは「FileMaker Server」の機能を使っている。FileMaker Serverは、FileMaker ProやiOS端末でFileMakerベースのシステムを使用するためのモバイルアプリケーション「FileMaker Go」などのデータを管理するためのサーバソフトウェアだ。
「iPad」からデータを参照する機能は、FileMaker Goを利用している。これはFileMakerが「App Store」で配信しているツールだ。加藤氏はFileMaker Goを利用して、患者の受付プロセスを管理する画面を作成した。この機能は、受付を済ませた患者が現在どの部屋にいるか、どのような処置を受けているかを表示する。相武台脳神経外科の標準的な診察プロセスは、
- 受付
- 診察室
- 検査室
- リハビリ室
- 会計
という流れだ。例えば受付を済ませた患者が診察室に入ったタイミングで、待合室のスタッフが端末を操作してデータを更新することで、次の診察プロセスを担当するスタッフは患者が移動したことを画面で把握できる。プロセスが終わる度に、その部屋の担当スタッフは患者が次に進むべきプロセスを案内し、それぞれの部屋に置いてあるiPadや参照用端末で表示を変更する。この表示変更が、スタッフ間の申し送りと同じ役割を果たしているわけだ。患者の情報は電子カルテと連動しているため、次のプロセスを担当するスタッフは患者リストをチェックしながら、カルテの情報を参照して必要な準備を始めるといった効率的なワークフローが実現する。
相武台脳神経外科オリジナルの電子カルテについて、加藤氏は「複数システムが連携する構成のためか、ORCAとの連携で処理や応答が遅れることがたまにあるが、使い勝手についてはおおむね満足している」と語る。「患者の長期フォローアップのために、再受診や定期検査を促すリマインダー機能や、患者の受診傾向といった経営データを分析する機能など、もっと便利な機能を作り込んでいきたい」と、加藤氏はさらなるカスタマイズに意欲を見せる。
理想をいえば、最初からベストな機能を備えた電子カルテを選定できるのが望ましい。だがユーザー施設の状況は時代とともに変わり、技術も進歩する。たとえ最初は不満がなかったシステムでも、次第に不満点に気付くこともあり得る。医療機関が真に必要とする電子カルテの機能を、納得できる費用で獲得するためのツールとして、FileMakerベースのアプリケーションをはじめとする「開発しながら運用する」を可能にする製品は有力な選択肢になる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
「結局使わなくなる」Microsoft 365 Copilotを半年で定着 キリンの3施策
-
10
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー