0.5歩先の未来を作る医療IT
レセコンや電子カルテも対象になる「IT導入補助金」、利用時に注意すべきポイント
近年注目を集めている、経済産業省の「IT導入補助金」制度を、医療機関が活用する方法について解説します。
経済産業省は、2017年度の補正予算で500億円を計上し、2018年4月に中小企業を対象に「IT導入補助金」の公募を開始しました(2018年7月時点では2次公募受け付け中)。IT導入補助金の正式名は「サービス等生産性向上IT導入支援事業」といい、2017年に初めて実施した補助金制度です。
2017年度のIT導入補助金は、2016年度の補正予算100億円に基づき、補助上限は100万円、補助率は投資額の3分の2となっており、約1万5000社が利用しました。2018年度はさらに多くの企業が活用できるようにと、予算規模を5倍の500億円に引き上げ、利用企業も10倍増の13万5000社を想定しています。残念ながら、補助上限は50万円(下限が15万円)、補助率は投資額の2分の1以下と縮小しています。
IT投資が遅れている中小企業・小規模事業者を対象
従来、設備投資に関する補助金には、いわゆる「ものづくり補助金」という、主に製造業の設備投資に対する制度がありました。IT導入補助金は、この流れをくむ補助金制度です。
IT導入補助金の目的は「中小企業・小規模事業者などの生産性の向上を図ること」です。従来の補助金との大きな違いは、IT投資によって生産性を向上させようという狙いがある点です。特に、中小企業はIT投資が大きく遅れていることから、中小企業のIT投資を活性化させて、生産性を高めようと考えているのです。
電子カルテ導入は大規模病院で先行、中小規模病院・診療所の導入には遅れ
医療の世界でIT投資といえば、真っ先に電子カルテが頭に浮かびます。電子カルテについては、過去に大規模・中堅病院(200床以上)を中心に補助金制度が施行されました。一方、診療所や中小規模病院での電子カルテの導入には、一部の地域に限っては補助金制度がありましたが、全国規模での補助金制度はありませんでした。
少し古いデータですが、厚生労働省の「平成26年医療施設調査」によると、2014年の電子カルテの普及率(一般病院の場合)は400床以上で77.5%、200~399床で50.9%でした。対して200床未満の病院は24.4%、一般診療所は35.0%と、病床規模によって普及率に大きな差がありました。
参考
- 医療分野の情報化の現状(厚生労働省)
- 平成26年医療施設調査(厚生労働省)
IT導入補助金の対象
IT導入補助金は、中小企業および小規模事業所を対象としており、医療法人や社会福祉法人の場合は「(常勤の)従業員が100人以下」の施設が対象となります。この規定から考えると、診療所と一部の小規模な病院が対象となることが予想されます。IT導入補助金はIT化が遅れている医療分野で、電子カルテなどのITツール導入を進める手段として期待を集めています。
医療機関ではどんなシステムが対象になるか
医療機関ではどのようなシステム(ITツール)が対象になるのでしょうか。具体的な例として、IT導入補助金公式Webサイトの検索ツール「ITツール選定ナビ」では以下の20項目を挙げています。
- 外国人対応(翻訳システムなど)
- 予約管理(電話、インターネット予約)、受付
- Webページ制作(企業PR、商品サービス案内、Eコマース、メールマガジンなど)
- コミュニケーション、問い合わせ管理
- 決済
- 医療品などの納品管理
- 仕入れ先管理(医薬品、衛生品、器具備品)
- 発注、仕入れ、買掛、支払管理
- 在庫管理(医薬品、衛生品、器具備品)
- 患者情報管理(症状、処置、処方、経過、カルテ記録、提供文書作成、薬歴)、デジタル画像管理、医療CAD
- 窓口会計、レセプト処理
- 訪問診療、介護処置管理
- スタッフ管理(シフト組み、勤怠)
- 予算統制、経営計画立案、予算原価策定
- 財務会計、税務申告
- 人事、労務、給与、福利厚生、教育、法令
- 文書証憑管理(法定調書、契約書など)
- ワークフロー、グループウェア、社内SNS、ビジネスチャットツール
- 分析機能、自動化・効率化ツール(注1)
- 社内資産管理(器具、備品、ファシリティー、OA、IT資産など)
※注1 テンプレートなどで業務機能を有する人工知能(AI)やロボティックプロセスオートメーション(RPA)など
本稿執筆時点でITツール選定ナビに登録済みの製品やサービスには、次のようなものがあります。
- 多言語音声翻訳サービス
- 電子カルテ
- レセコン
- 診療予約システム
- オンライン(遠隔)診療システム
ITベンダーやサービス事業者がIT導入補助金制度に自社ツールを登録するための申請期限は、2018年9月中旬(変更の可能性あり)です。そのため、今後さらに登録数が増加するものと予想されます。
IT導入補助金は、事前審査と5年間の事後報告が必要
IT導入補助金は、申請すれば全員必ず受給できるわけではありません。補助の有無および補助金額は「申請前の審査」と「導入後の検査(報告)」によって決定します。審査には、必要な書類を定められた期間内に窓口に提出する「申請」が必要です。申請および採択の前にシステムを契約してしまわないよう注意が必要です。仮に、採択前に契約してしまった場合は補助金の対象となりません。
補助金は基本的に後払い(精算払い)ですので、システムを導入し、事業を実施した後に、結果をまとめた報告書などの必要書類を提出し、検査を受けることで、はじめて補助金を受け取ることができます。
IT導入補助金制度は、利用者の生産性向上を目的にしています。そのため、IT導入支援事業者(ITベンダーやサービス事業者)が、補助対象となる事業者(中小企業・小規模事業者。医療の場合は小規模病院と診療所)から必要な情報を取りまとめて、事業実施効果の報告をする必要があります。毎年4月1日から翌年3月末日までの期間(1年間)における生産性向上に関する情報を、2019年から2023年までの5年間、計5回にわたり報告しなければなりません。この部分が補助金を得るための大きなハードルとなることが想定されます。
IT導入支援事業者が信頼できるか、その見極めが鍵
IT導入補助金は、「広く活用してほしい」という経済産業省の意図を強く感じます。筆者の私見では、比較的採択されやすい制度だと思いますので、積極的に活用するとよいでしょう。本制度では、IT導入補助金の申請を業者に委託する形を取っているため、医療機関は補助金について十分な知識を持ち、実施結果の報告期間である5年間をサポートしてくれるIT導入支援事業者を選ぶことが大切です。そして、本制度では生産性向上の成果を証明する意図で、財務内容をIT導入支援事業者に開示する必要があるため、十分な信頼関係が不可欠です。
次回は、2018年6月に施行された「医療広告のガイドライン」について解説します。
著者紹介
大西大輔(おおにし・だいすけ)MICTコンサルティング
一橋大学大学院MBAコース修了。医療コンサルティング大手に入社。2002年に医療IT機器の常設展示場「MEDiPlaza」を立ち上げ、企画運営、スタッフ指導、拠点管理などを担当。2016年10月に医療ICT専門コンサルタントとして独立し、MICTコンサルティングを設立。医療機関向けシステムの開発アドバイス、導入アドバイス、医療IT人材の育成などを行う。過去2000件を超える医療機関へのシステム導入の実績から、公的団体を中心に講演を多数実施している。現在、医療事務・クラーク専門学校の非常勤講師も務めている。
このコラムについて
医療機関のIT化は他の業界に比べて5~10年は遅れているといわれます。また、医療現場でIT製品を導入する際、スタッフから不安の声が上がるなど、多かれ少なかれ障害が発生します。なぜ、医療現場にITが浸透しないのか。その理由を探るとともに、解決策を考えていきます。
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