医療へのIoTとAIの導入はどのくらい進んでいるのか【前編】
IoTとAIは医療の現場でどのように役立つのか
IoTや人工知能(AI)技術といった、比較的新しい技術を活用した医療機器が開発されている。医療分野での最新技術の応用例とその課題について、専門家の話を基に説明する。
さまざまなモノをインターネットにつなげるIoT(モノのインターネット)や、人の知的活動の一部を機械的に再現する人工知能(AI)技術といった比較的新しい技術を、医療機器に活用する動きが進んでいる。新たな技術は医療機器にどう応用されているのか。医療現場での最新技術の普及における課題は。日本クラウドセキュリティアライアンス代表理事の笹原英司氏と、公益財団法人である医療機器センターの付属機関、医療機器産業研究所で調査研究室長を務める鈴木孝司氏の話を基に説明する。内容は、2019年3月19日に開催された医療機器関連イベント「Medtec Japan 2019」のセミナー、「IoT・AIと今後の医療機器」から抜粋した。
フォグコンピューティングを利用した医療IoT
笹原氏は医療機関が進めているIoTに関する取り組みの一つとして「フォグコンピューティング」を挙げる。フォグコンピューティングは、IoT機器(ネットワーク接続型機器)と同一のLAN(フォグ)内に、サーバやストレージ、ネットワークなどのリソースやサービスを分散させる、IoTインフラの運用手法の一つ。個別の医療機関のLAN内でデータを処理するため、処理の遅延を抑えながらセキュアに処理ができることがメリットだ。データ転送や処理の時間、コストの削減につながるという。
業界団体のOpenFog Consortiumは、医療分野でのフォグコンピューティングのユースケースを提案している。2018年に同団体が発表したレポート「Fog Use Case Scenarios」には、血中酸素濃度や呼吸数などのモニター装置と、鎮痛剤を投与するためのPCA(自己調節鎮痛法)ポンプモニター装置を連携させ、鎮痛剤の過剰投与を防ぐユースケースが掲載されている。
笹井氏はフォグコンピューティングの課題として「エッジ(IoT機器の内部またはその近く)、フォグ、クラウドの3要素に分かれており、全ての通信経路のセキュリティを万全にすることが難しい」ことを挙げる。
AIを搭載した診断・治療支援ソフトウェアの開発が進む
医療機関のモニタリングにフォグコンピューティングを利用することで、機械学習ベースのAIエンジンに必要な学習用データを、より多く集めることができる可能性があるという。
米国では医療機関で利用する医療機器には、FDA(米国食品医薬品局)による承認が必要だ。現在、AI技術を利用したソフトウェアのFDA承認が進んでいる。笹原氏はFDAによる承認済みソフトウェアとして、以下の例を挙げる(製品/サービス名称は承認時)。これらの他にも、AI機能を搭載した複数の医療機器がFDAの承認を受けている。
- Arterys Cardio DL(Arterys)
- 機械学習を用いたMRI(磁気共鳴画像法)画像の分析で心疾患の診断を支援するSaaS(Software as a Service)
- OsteoDetect(Imagen Technologies)
- 手関節骨折向け検知・診断支援ソフトウェア
- DreaMed Advisor Pro(DreaMed Diabetes)
- 間質グルコース値やインスリンポンプのモニタリングデータを分析し、糖尿病の診断の意思決定を支援するソフトウェア
笹原氏はAI技術の課題として、プライバシーについての議論がまだ終わっていないことを指摘する。英国では、医療機関がAIベンダーDeepMind Technologiesに患者データを提供する際のインフォームドコンセント(患者への説明と同意)が不十分だったとして、規制当局がデータ保護法違反であると判断する例があった。
医療データの匿名化が不十分な場合、機械学習によって個人を再特定できるケースもある。カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)は2018年に、1万4451人分の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータをAIエンジンに学習させた後、地理情報と健康属性情報を削除し、あらためて個人の健康属性情報と相関させる研究を実施した。その結果、成人では93.8%以上、子どもでは85.5%以上の個人を再特定できたという。AI技術のリスク管理の仕組みは発展途上だ。
笹原氏はAIシステムを開発する際に、日本特有の課題として、医療機関でデータ活用に関するワークフローが平準化されていないことを挙げる。同氏によると米国では、医療機関内のワークフローの平準化と自動化が進んでいる。一方、日本では責任を持つ医師がデータ活用のゴーサインを出す必要があり、意思決定のプロセスが属人化する傾向があるという。「ワークフローが整備されていない場合、大量にデータを収集するためのプロセスを確立するのが難しい」(同氏)
特に機械学習を伴うAIシステムの場合、規制当局の承認に関する特有のハードルがある。それはAIシステムが完成した後も、継続的に性能を向上できるという、機械学習ならではの特徴が招く課題だ。それはどういうことなのか。鈴木氏の解説を基に、後編「『学習し続けるAI』が医療現場では“使えない”理由」で詳しく説明する。
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医療へのIoTとAIの導入はどのくらい進んでいるのか
IoTや人工知能(AI)技術といった、比較的新しい技術を活用した医療機器の開発・提供が進んでいる。こうした中 、従来では想定できなかった新しい課題や、実用化へのハードルも明らかになりつつある。本編では、IoTとAI技術を活用した医療機器と、これらの新しい技術を取り巻く状況について詳しく説明する。
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